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大便革命 腐敗から発酵へ

2020.03.17 公開 ポスト

トクホと機能性表示食品の違いは、認めたのが「国」か「企業」か辨野義己

理想の大便は、理想の腸から。

うんち一筋45年の「うんち博士」、辨野(べんの)先生(本名です!)による幻冬舎新書『大便革命』から、市販のヨーグルトなどについている「トクホ(特定保健用食品)」マークと「機能性食品」マークの違いについてお届けします。

※文章中の市場規模、商品名などは2018年7月の書籍刊行時時点のものです

(写真:iStock.com/jenifoto)

「トクホ(特定保健用食品)」と機能性食品

「トクホ」という特定保健用食品のマークがあります。いまトクホは約6500億円の市場規模を持っており、そのうちの5000億円をヨーグルトが占めています。

このマークを自社の商品につけるためには、以下の4つの厳しい条件をクリアしなければなりません。

条件の1つ目は、それを摂取すれば腸内のビフィズス菌が有意に増えるかどうか。

2つ目は、便性が改善するかどうか。

3つ目は、有害物質であるアンモニア、硫化水素、発がん物質が減るかどうか。

そして4つ目は、投与した菌が大腸に達するかどうか。

 

これらをヒト試験を通じて証明することが求められています。

さらに第三者のレフェリーのいる学術雑誌に出した論文を申請書類にさせるなど、相当にハードルは高く設定されています。それまでの機能性表示食品は、評価の仕方があまりにもいい加減だったからです。

 

じつは、トクホにおける乳酸菌・ビフィズス菌の健康表示に関する選定基準は飯野久和氏(昭和女子大学教授)と私が中心となって決めたものです。あまりにも厳しい条件に対して、企業側からずいぶん文句も言われましたが、絶対にこの基準でやるべきだと思い、最後まで主張を貫きました。

いまトクホのマークがついている食品には、以上の条件をベースに、きわめて厳しい評価を経て認可がなされています。トクホの適用を受けるには、サプリメントであっても成分を明らかにしなければならず、どのように効いているのかも学術論文として出さなければなりません。

(写真:iStock.com/baloon111)

トクホ適用のハードルの高さを示す一つの例があります。

乳酸菌飲料の最大メーカー、ヤクルトは健康表示として、最初、発がんリスクの低減作用で「トクホ」の申請を出しました。しかし国はそれを認めませんでした。そこで今度は免疫賦活作用で出したのですが、やはりこれも認められませんでした。次に免疫の維持作用で申請を出しても、やはり認められなかったのです。

そのあともヤクルトはしぶしぶありきたりの「整腸作用」という健康表示でトクホとして提出したのです。

しかし、トクホ制度が始まった当時は厚生労働省の薬務局が管轄していたので、製薬会社からのクレームがとても強かったことも、ヤクルトの申請がなかなか認められなかった原因かもしれません。食品メーカーが食品素材を使って、製薬会社のような機能性食品を提供されては困ると思ったのでしょうか。

その後、管轄が食品安全部に変わり、トクホの申請に関する風向きは少し変わりました。

 

トクホという制度は日本にしかありませんが、世界からも注目があつまっています。ヨーロッパでもトクホを真似しようという試みがあったのですが、各国の状況があまりにも違っており、EUとして統一した見解が出せず実現できませんでした。

トクホの食品が持つ健康効果に対して、疑問を投げかける批判もあります。そのなかでいちばんよくある批判は、ほとんどの乳酸菌やビフィズス菌は、胃酸や十二指腸の酸によって死んでしまうではないか、というものです。

この批判はたしかに、正しい部分を含んでいます。

しかし、トクホのマークがついたヨーグルトや乳酸菌飲料に使われている乳酸菌やビフィズス菌の菌株には、胃酸では死なないくらい強い菌が選ばれています。

すべてではありませんが、10~20%の乳酸菌が大腸に達することは、それだけでも重要なことです。たとえ胃や十二指腸で乳酸菌やビフィズス菌が死んだとしても、上から来た病原菌も同時にそこでストップされるのです。

しかしながら、ヨーグルトや乳酸菌飲料に使われている乳酸菌やビフィズス菌は胃酸にも強く、酸に強い菌が株レベルで選ばれていますから、空腹時にヨーグルトを食べても乳酸菌・ビフィズス菌の死滅は考えにくいのです。

(写真:iStock.com/Oleksii Yeremieiev)

そもそも病原菌は、ある程度の菌数がないと症状は出ません。サルモネラ感染症の場合でさえ、低い菌数では症状が出ないのです。

ほとんどの鶏肉や鶏卵は、腸炎を起こすカンピロバクターやサルモネラに汚染されています。しかし、それらの菌数が低いために、通常は食べても症状は出てきませんが、菌数が高い状態であれば感染症は起こりやすくなるのです。

「機能性表示食品」にはご用心

ところで、トクホのマークをつけて売られているのは明治ホールディングスだと「明治ブルガリアヨーグルト」の大きい容器だけ、森永乳業も「BB536」の大きな容器にしかトクホのマークはついていません。

その理由は、同じ食品を売っていても、パッケージの形態が変わるごとに、一つ一つトクホの申請をしなければならないからです。そのためどの食品メーカーでも、中身は同じでも一つのサイズの商品にしかマークをつけないのです。

ともあれトクホという制度ができあがった背景に、腸内細菌の研究があったことは事実です。そして当時、我が国の腸内細菌研究の中心はこの理化学研究所でした。私の師でもある光岡先生がいらっしゃったからこそ、理研で腸内細菌研究が花開いたといっても過言ではありません。

 

腸の環境を整えることへの関心が高まり、腸内細菌が持つ整腸機能がわかってくるなかで、たとえばカルピスのような企業では、血圧やコレステロールが高めの方に向けて、豆類を中心とした機能性食品を出すようになりました。

世間でよく知られるようになったのが、大豆などに含まれるフラボノイドの一種、イソフラボンによる代謝産物です。

イソフラボンは女性ホルモンであるエストロゲンに構造が類似しており、腸内細菌を経由してエクオールという成分に代謝されることで、女性ホルモンと同様の働きをします。こうした例が出てくることで、食事と腸内細菌、疾患の発症や予防との結びつきに社会の関心が深まってきました

(写真:iStock.com/HandmadePictures)

この流れの先に生まれたのが、食品の持つ機能面に注目した「機能性表示食品(ファンクショナル・フード)」という発想です。機能性表示食品についての研究は海外でもありますが、ほとんどが免疫に関するものです。

たしかに機能性表示食品にはアトピー抑制のような免疫機能もあります。しかし大腸がんの予防や、インフルエンザ感染の予防、口腔内細菌のコントロール、ピロリ菌の抑制といったことに関する研究は、ほとんど日本が発信しています。そして、その主体になっているのはすべて、乳業メーカーの研究者です。

トクホは国という「おかみ」が健康機能表示を認めるという制度ですが、機能性表示食品は、申請者が自分で勝手に認めればいいという制度であり、いわば民間に「丸投げ」した制度といえます。

国は一切関係していないという点では、かつての「健康食品」の時代に逆戻りしたようなものであり、それらが謳う効果にはほとんど信頼性がないように私には思えます。

*   *   *

食べ物と腸の関係についてもっと詳しく知りたい方は、幻冬舎新書『大便革命』をお求めください。

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辨野義己

1948年大阪府生まれ。国立研究開発法人理化学研究所イノベーション推進センター特別招聘研究員。農学博士。専門領域は腸内環境学、微生物分類学。酪農学園大学獣医学科卒。東京農工大学大学院を経て、2009年より現職。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と病気の関係を掘り下げて研究し、文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門・2009年)ほか数々の学会賞を受賞。ビフィズス菌・乳酸菌の高い健康効果を訴える「うんち博士」としてテレビ、雑誌などのマスコミに広く取り上げられており、講演活動も多い。『自力で腸を強くする30の法則』(宝島社)、『腸内細菌の驚愕パワーとしくみ』(C&R研究所)、『100歳まで元気な人は何を食べているか?』(三笠書房)、『大便革命』(幻冬舎新書)など著書多数。

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