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息子が人を殺しました

2020.02.20 公開 ツイート

9500万円の損害賠償も…「加害者家族」にのしかかる重い負担 阿部恭子

連日メディアで報道されている、殺人、傷害、詐欺、窃盗といった犯罪。その裏には必ず、「加害者家族」が存在する。平和だった毎日が一転、インターネットで名前や住所がさらされたり、マンションや会社から追い出されたりと、まさに地獄へと突き落とされるのだ。『息子が人を殺しました』は、その実態を赤裸々に描いた一冊。ショッキングな事例をいくつかご紹介しよう。

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事件後の出費は平均600万円

事件後、被害弁償、損害賠償など事件の処理に伴う出費や転居の費用、面会にかかる交通費など、加害者家族が背負う経済的負担は予想をはるかに超えていた。

(写真:iStock.com/high-number)

相談者の中で、重大事件の家族のみを対象に、逮捕から判決確定までにかかった費用を調査したところ、平均金額は、約600万円だ。

息子が強制わいせつ致傷罪で逮捕されたAさんの場合、3名の被害者に100万円ずつ示談金を支払い、私選弁護人の費用に約300万円を要した。

夫が出張中に強姦致傷罪で逮捕されたBさんは、被害者に300万円を支払い、夫が逮捕された場所が遠方であったことから、面会のための旅費に、判決確定まで約50万円を要した。

息子が振り込め詐欺事件の犯人のひとりとして逮捕されたCさんは、示談金として500万円を支払い、私選弁護人の費用に100万円を要した。

未成年の息子が傷害致死罪で逮捕されたDさんは、遺族に1000万円の支払いをした。

A~Dの相談者に資産家はいない。自宅を売却したり、親族から集めたり、借金をするなどして捻出したお金である。子どもの教育費や老後の蓄えは、一瞬にして消えてしまう。

こうした事件による出費は、残された子どもたちの進路にも大きな影響を与える。

未成年の子どもがいる家庭の50%が、「進路の変更を余儀なくされた」と報告している。学費が支払えなくなって、私学で学んでいた子どもたちが、退学したり転校せざるを得なくなるケースも少なくない。

被害弁償や損害賠償の支払いは加害者本人の債務であり、家族が必ずしも負担する必要はない。しかし、社会的責任を強く感じている加害者家族は、経済的援助に積極的な傾向にある。

また、加害者家族が世間から最も批判されるのは、「普通よりいい生活をしている」と見られる場合である。

たとえば加害者のきょうだいが通っているのが「有名私立学校」「医学部」などという情報が洩れると、攻撃の対象になりやすい。それゆえ、被害者にはできる限りの支払いをしたうえで、慎ましい生活を心がけていることが多い。

莫大な損害賠償がのしかかる

事件によって、家族が損害賠償責任を負うケースは少なくないが、近年、報道で大きく取り上げられたのは、子どもの自転車事故によって、親権者が高額の損害賠償責任を負わされたケースである。

(写真:iStock.com/itakayuki)

神戸地裁平成25年7月4日判決は、自転車で60代の女性に正面衝突し、重傷を負わせた11歳の少年の親権者に、約9500万円の損害賠償責任を負わせている。

自転車は保険加入が義務ではないことから、任意保険に加入していなければ、加害者やその家族は高額な損害賠償を負担することになる。こうした判決を受けて、関西では、自転車購入にあたって保険加入を義務づける条例ができた。

それでも当団体には、子どもが起こした事故により経済的負担に悩まされる親権者からの相談が絶えない。

親権者が子どもの非行を放置していたり、子どもが過去に何度も事故を起こしているにもかかわらずバイクや自動車を買い与えたりするなど、親権者としての監督義務を怠ったと判断された場合は、損害賠償責任を負うことになる。

交通事故の場合は、一定の賠償金や弁護士費用は保険によってカバーされる。

だが未成年の子どもが人を殺した場合などに備える保険はない。

資力のない家族は、どのように対応しているのか。3人の中学生が集団で暴行を加え、被害者が死亡した事件で、加害者3人とその親権者である親に約8000万円の損害賠償の支払いが命じられた

本件は、夏休み中に起きた事件であり、親権者は加害者が夜間に出歩いて飲酒や喫煙をしている行為を放置していたことから、監督義務を怠ったと判断された。

加害者3人の親権者A、B、Cのうち、Aは、遺族に対して約2000万円を支払っていた。Bは母子家庭で、支払いができていないようだった。Cもまた母子家庭できょうだいもおり、いっさい余裕のない生活の中で、責任を果たさなければという思いと、それが叶わない現実に苦しんでいた。

被害者が民事裁判を起こすのは、金銭を得ることよりも、刑事裁判の中では不十分だった真相を解明したり、加害者側の責任を明確にしたいという目的からだと思われる。勝訴しても、財産のない相手から金銭を得ることはできないからだ。

Cは、賠償額には満たないが、償いとして、毎月の収入の中から精いっぱいの金額である1万~2万円を毎月遺族の口座に振り込み、月命日には被害者の墓参りを続けることを遺族に約束した。

こうした贖罪行為は、加害者家族の自責の念を軽減することにも繋がっている。これまで真面目に生きてきた人にとって、人としての責任を果たしていないという後ろめたさは、日常生活を送るうえで想像以上に精神的負担になるのである。

関連書籍

阿部恭子『息子が人を殺しました 加害者家族の真実』

連日のように耳にする殺人事件。当然ながら犯人には家族がいる。本人は逮捕されれば塀の中だが、犯罪者の家族はそうではない。ネットで名前や住所がさらされ、マンションや会社から追い出されるなど、人生は180度変わる。また犯罪者は「どこにでもいそうな、いい人(子)」であることも少なくない。厳しくしつけた子どもが人を殺したり、おしどり夫婦の夫が性犯罪を犯すことも。突然地獄に突き落とされた家族は、その後どのような人生を送るのか? 日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた著者が、その実態を赤裸々に語る。

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阿部恭子

NPO法人World Open Heart理事長。東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。二〇〇八年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)がある。

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