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古生物のしたたかな生き方

2020.02.01 更新 ツイート

「サイズダウンする」ことの利点を古生物に教えてもらう土屋健

「無気力だって立派な生存戦略なんですよ」。ある日、サイエンスライターの土屋健さんがおっしゃいました。話を聞いてみると、「無気力を極める」ことで繁栄に成功した古生物がいるとのこと。なにそれ? どういうこと?? 興味をひかれてあれこれ聞いたら、古生物の進化と絶滅の物語が現代人にも役立つサバイバル術のオンパレードだったので、『古生物のしたたかな生き方という書籍にまとめました。たとえばどんな古生物がいたかというと……。

連載四回目の今回は、「大きいは強い」という鉄則を放棄して繁栄した古生物の話。

*   *   *

紀元前の中国には「春秋時代」「戦国時代」と呼ばれる戦乱の時代があった。この時代、多くの思想家が登場し、中国はもとより、アジア、世界へと影響を与えていく。

そうした思想家の中に、道教の創始者とされる老子がいる。

他の思想家と同じように、老子も多くの言葉を残している。その中で、次の一節を紹介したい。

知足者富(『老子』〈岩波文庫〉より)。

思想家の言なので、このたった4文字に対しても、さまざまな解釈が存在する。文字通りの解釈をする場合は、「(己の)満足を知る者は富む」となるだろう。

これは人間だけの話ではない。長い生命の歴史には、“身の程”にあわせるかのように進化を遂げ、子孫を残すことに成功したグループがいくつもある。

たとえば、ゾウの仲間だ。

小さな現場に、大きなからだはいらない

長鼻類というグループがある。「長い鼻」という文字が示すように、ゾウの仲間で構成されるグループだ。現在の地球にいる長鼻類は、サハラ砂漠以南の森林とサバンナに暮らすアフリカゾウ、アフリカ西部と中央部に暮らすマルミミゾウ、インドと東南アジアの森林や草原に暮らすアジアゾウの3種のみ。しかし、かつては多くの長鼻類がいた。いわゆるマンモスや、ナウマンゾウなども長鼻類である。

長鼻類は大型種が多い。

現生3種のうちで最大のアフリカゾウは、肩高4メートルに達し、体重は最大7・5トンにもなる。昨今、日本の一般戸建て住宅で「天井の高い家」が話題となっているけれども、どんなに天井が高くても4メートルということはありえないし、7・5トンもの重さは容易に床を踏み抜いてしまうにちがいない。

絶滅種においても、アフリカゾウと同等の大きさをもつ長鼻類は少なくない。たとえば、北アメリカに生息していた「コロンビアマンモスMammuthus columbi)」は肩高4メートルと、まさにアフリカゾウと同じくらいの大きさ。絶滅種では抜群の知名度をもつ「ケナガマンモスMammuthus primigenius)」の肩高は3・5メートルでアフリカゾウよりやや小さく、中国内モンゴル自治区から化石がみつかっている「松花江マンモスMammuthus sungari)」の肩高は5メートルと、アフリカゾウを大きく上回る。ちなみに、松花江マンモスに関しては、ミュージアムパーク茨城県自然博物館で全身復元骨格が展示されているので、興味がある方はぜひ、ご自分の眼でそのサイズを実感されたい。

長鼻類は、進化を重ねて大型化を遂げることで繁栄した動物だ。最古の長鼻類は肩高60センチメートルほどで、姿はまるでコビトカバのような動物だった。その後、大型化を遂げ、繁栄を勝ち取った。植物食動物においても、大型化で成功したものがいたわけだ。大きければ、肉食動物に襲われる危険も減る。かつての地球には約170種の長鼻類が存在し、全盛期には、オーストラリア大陸と南極大陸をのぞくすべての大陸で暮らしていた。

もっとも、「大きい」ということは、大量の食料を必要とするということでもある。

東京動物園協会が運営しているWEBサイトの「アフリカゾウ豆知識」によると、アフリカゾウは1日200~300キログラムの草木を食べ、1日100リットル以上の水を飲むという。

絶滅種に関しては、どのくらいの食事量だったのかはわからないけれども、同じグループで同じような体格の持ち主であれば、同じくらいの量を食べていたということは想像に難くない。

大量の食料を必要とするということは、その量の食料を用意できなければ、飢えて死ぬということだ。

しかしかつて、長鼻類には周囲の環境にあわせるかのように小型化を遂げ、つまり身の丈をあわせて、子孫を残し続けた種類がいた。

舞台は日本列島。

その長鼻類を「ステゴドンStegodon)」という。

ステゴドンは、ゾウやマンモスとよく似た姿の持ち主だが、わかりやすいちがいとして、牙のしなり方を挙げることができる。ゾウやマンモスの牙は外側にしなったのちに、先端は内側を向く。これに対して、ステゴドンの牙は内側にしなったのちに、先端は外側を向く。ちなみに、ゾウやマンモスは長鼻類の中で、「ゾウ類」というグループをつくるのに対し、ステゴドンは「ステゴドン類」という別のグループをつくる。

ステゴドンはもともとインドシナ半島に起源があるとされ、今から約600万年前~約500万年前に日本列島にやってきた。当時、海水面は現在よりも低く、日本列島は大陸と地続きだったとみられている。

ステゴドンの名をもつ種はいくつかあり、このとき日本列島にやってきた種には、「ステゴドン・ズダンスキィStegodon zdansky)」という名前がある。和名を「コウガゾウ」といい、その名の通り、中国の黄河流域で最初の化石が発見された。

コウガゾウは肩高3・8メートルほどで、ケナガマンモスを上回り、コロンビアマンモスやアフリカゾウよりはやや小さいという大きさ。長く伸びた牙があまりにも内側にしなっているため、牙と牙の間に鼻を通すことができないという、曰く付きのステゴドンである。もっとも、さすがにそんな生態は考えられないとして、このしなりは化石が地層の中に埋まっていたときに受けた圧縮作用の影響ではないか、といわれている。

そして、約400万年前になると、コウガゾウを祖先として、「ステゴドン・ミエンシスStegodon miensis)」が現れた。和名は「ミエゾウ」。三重県から化石がみつかることに由来する。肩高は3・6メートルとされ、日本固有の化石哺乳類としては最大であるが、コウガゾウよりはやや小さい。

約250万年前になると、「ステゴドン・プロトオーロラエStegodon protoaurorae)」、和名「ハチオウジゾウ」が出現。その名の通り、東京都八王子市から化石がみつかっている。ただし、このハチオウジゾウがどの程度の大きさだったのかは、まだよくわかっていない。

そして約200万年前になると、「ステゴドン・オーロラエStegodon aurorae)」が出現した。こちらの和名は「アケボノゾウ」で、化石は埼玉県などから発見され、肩高は1・7メートルほどとヒトの身長とさして変わらないところまで小型化している。

この一連のステゴドンの進化は、日本列島という狭い土地に適応した結果とみられている。

かつて自分たちが獲得した「大きいは強い」を“放棄”して、狭い土地と少ない食料に身の丈をあわせるかのように小型化した。そして、最終的にこの系統は400万年間にわたって子孫を残すことに成功したのである。

冒頭で挙げた老子の一節は、次のように終わる。

不失其所者久、死而不亡者寿(自分のいるべき場所を失わない者は長続きし、死んでも、亡びることのない道のままに生きた者は長寿である:『老子』〈岩波文庫〉より)。

チャンスがあれば、大きくなれ!

島に進出した大型種が進化の結果として小型種を残すことは、恐竜類などでも確認されている。必ず確認できる変化というわけではないが、とくに珍しいというわけでもない。なにしろ島の食料は限られているので、飢えて絶滅するか、あるいは、「大きいは強い」を“放棄”して“身の丈にあったサイズ”に小型化するしかないのだ。

しかし、そうやって大型種が小型化すると、今度は小型種に“活路”がみえてくることがある。

たとえば、ハリネズミの仲間だ。

ハリネズミの仲間は基本的に小型なものばかりで、現生種も化石種もせいぜい全長20~30センチメートルほどである。しかし、全長75センチメートルという大型種がかつて存在した。

その名を「デイノガレリックスDeinogalerix)」という。1000万年ほど前のイタリアに出現した。吻部がシュッと長く伸び、門歯(前歯)が発達していた。頭部だけで他のハリネズミの全長値に近い20センチメートルの長さがある。このページの左上に描かれているイラストがデイノガレリックスである。

イタリアのナポリの北東に、アドリア海に突き出た小さな半島がある。ガルガーノと呼ばれるこの地域は、現在でこそ半島だけれども、かつては独立した島だった時期がある。このとき、ガルガーノの大型種は数を大きく減らしていた。

デイノガレリックスは、その“間隙”をぬってガルガーノで大型化したハリネズミだ。一般にハリネズミは、ミミズや昆虫などを食べるが、デイノガレリックスはこれらの獲物に加えて、小動物を狩ること、その屍肉を食べることもあったとされる。なお、デイノガレリックスはハリネズミの仲間だけれど、針はなかったようだ。

たかだか75センチメートルと思うことなかれ。同じグループの他種と比べると倍以上の大きさなのだ。似たような生態をもつ競争相手にとっては十分に面倒な存在だし、獲物となるような動物たちにとっては脅威であることにちがいはない。

デイノガレリックスは獲物の量云々ではなく、自らの天敵である大型種が数を減らした結果として、「大きいは強い」を手に入れたわけだ。

身の丈にあわせることも大事。

チャンスを見逃さないことも大事。

島における進化は、いくつもの大切なことを教えてくれる気がする。

*   *   *

古生物のしたたかな生き方』では90種類以上の古生物を紹介しています。そのどれもが「そういう生き方&考え方もあるか……」と思わず参考にしたくなるものばかり。最終回となる次回は、変化することって本当に必要なのかを考えてみます。ネコの祖先たちが登場です。

土屋健/芝原暁彦(監修)/田中順也(イラスト)『古生物のしたたかな生き方 』

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●変われないなら、変わらなくてもいい(ミアキス 他)
●無気力だって立派な生存戦略(パラスピリファー、ワーゲノコンカ)
●「棲み分け」で争いを避ける(キアンゾウサウルス 他)
●「便利」は危険(ケナガマンモス)
●ひねくれたって、成功できる(ニッポニテス・ミラビリス 他)
●夢中になるのもいいけれど(ヴェロキラプトル、プロトケラトプス)
●守るべきか、攻めるべきか(ダンクルオステウス、クラドセラケ)
●「こだわらない」から進化する(テリジノサウルス 他)
……など

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