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前進する日もしない日も

2020.01.09 更新 ツイート

フィンランド旅 1 ~シナモンロールが食べられるまで~益田ミリ

12月初旬のヘルシンキにはまだ雪は降っておらず、代わりに朝夕冷たい雨に見舞われた。いっそ雪のほうがいいのにな。空を見上げながら過ぎていった5日間の旅だった。

旅の初日。いろいろあったせいでホテルに到着したのが夕方になり、取りあえず甘いものを食べようとフィンランドの有名チョコレートショップ「カール・ファッツェル・カフェ」へと向かった。

 

店内は相変わらず混んでいた。旅行客もいるが大勢の地元の人々が気楽におしゃべりしている。

温かいカフェオレとシナモンロールを注文して席に付く。今、この場所にいることを3時間前のわたしはまったく想像できなかっただろう。

 

いろいろあった(その1)

スーツケースを受け取らないまま空港の外に出てしまった件である。

謎だ。どこでどう間違えたのかわからない。入国審査を終え、表示通りに歩いていたつもりがターンテーブルにたどり着けないまま外に出ていたのである。

わたしのスーツケースはどうなるのでしょう、か? JALのカウンターに行ってみれば、あいにく日本人スタッフがひとりもいない。ということはこの状況を英語で説明しなければならぬわけだ。

 

「出口を間違え、スーツケースを受け取ることができませんでした」

と本来ならば言いたかった。しかし、わたしの英語だと、

「スーツケースを取り忘れてしまいました」

になっていた。相当なウッカリさんである。

JALの現地スタッフに誘導され、裏口から荷物引き取りのターンテーブルに行くと、我がスーツケースが隅の方に寄せてあった。

 

いろいろあった(その2)

バスを間違えた件である。

空港からヘルシンキ市街地までフィンエアー・シティバス(空港リムジンバス)を利用するつもりで表に出ると、外は大工事中なのであった。バス乗り場が見当たらず、ずんずん進んで行くが見つからない。冷静に考えると、この時点でおかしいのである。フィンエアー・シティバスはフィンランドの超メジャー航空会社のバスなのだから、空港から離れた場所に乗り場があるはずがないのだ。なのにわたしは「工事中だし遠いのかな」と空港に背を向けて歩きつづけ、すすけた場所にある57番のバス停にスーツケースを持った人々がいるのを見て「あった!」と思ったわけである。少しさかのぼれば、空港内で係の人にバス乗り場を確認したら「57乗り場」と言われた経緯もある。

寒風の中、30分近くバスを待った。気づけ、わたし! と思う。リムジンバスがそんなに来ないわけがない。それでも待ちつづけ、ようやくやってきたバスにみなと一緒に乗り込んだ。

不思議なことに誰も入り口でお金を払わない。リムジンバスは先払いだったはずなのに。しかも明らかにリムジンバスのデザインではなかった。バスは走り出した。しばらくしてバスが停まった。降りていく人もお金を払わなかった。システムがわからない。運転手さんに「チケットを買いたいんですが」と英語で言ってみたら「ノー」と言われた。ノーって? 再びバスは走り出した。午後5時でも外は夜のように暗い。しばらくしてバスがとまったので、またまた運転手さんに聞きに行く。「ヘルシンキ駅にいきますか?」。行かないらしい。空港に戻れと言われる。どうやら57番はホテルの送迎バス乗り場のようだった(早よ、気づけ)。ちょうど古いホテルの前に停車していたのでバスを降りた。フロントでタクシーを呼んでもらおう、と機転がきいた自分のことは褒めてやりたい。

「タクシーを呼んでいただけますか?」をスマホで英文に翻訳し、それを頭にたたきこんでフロントで告げる。すぐに手配してくれた。空港リムジンバスならヘルシンキ中央駅まで千円もかからなかったはずなのに、タクシーだと6千円。

あのお金でここの量り売りのチョコレート何個くらい買えたかな。カール・ファッツェル・カフェでシナモンロールを頬張りながら思った。

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前進する日もしない日も

仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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