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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2019.10.31 更新 ツイート

第118回 私はピアノいとうあさこ

ピアノを習い始めたのは幼稚園の頃。近所の先生のお家に通っておりました。優しくて明るい先生で、クリスマスにはちびっこ生徒を 5~6 人集めてホームパーティもしてくれて。でも何故かその時はピアノに全然ハマらず。むしろそのクリスマスパーティの時に先生が作 ってくださった“マッシュポテトと挽肉を炒めたものを交互にグラタン皿に敷き詰めてオーブンで焼いたお料理”が美味しすぎてそっちにどハマり。今でもお店でこれに似た料理があると必ず注文。というかもう、マッシュポテトだけでも興奮しちゃう。20 代の頃、横浜のギリシャ料理屋さんで“ムサカ”と言う限りなく“あれ”に近いお料理に出会った時は狂喜乱舞したほどです。 結局ピアノに興味が持てなかった私は、しばらくしてレッスンを辞めてしまいました。

ただ私には一つ下の妹がおりまして。今度は彼女がピアノを始めるんですが、人が弾いているのを見ていたら、どんどん自分も弾きたくなってきて。そうです。幼いながらに初めて“失ってわかる大切さ”を経験したのです。「ああ、ピアノが弾きたい」「でも自らピアノを辞めた んでしょ、あさこ!」少女・あさこはその葛藤を繰り返した末、とうとう我慢が出来なくな り親に頭を下げるのです。「もう一度、ピアノを習わせてください!」 よく考えると人生で私が“ちゃんと”親にお願いをしたのはこの時が唯一と言っても過言ではないかも。

いや、お願いした事あるにはあるんですよ、いろいろと。特に将来の道に関しては小学 4~6 年の冬の間だけ、近所のスケート場でフィギュアスケートを習っていて。中学上がってからも練習続けてみようとコーチに勧められた時も、大学は宇宙物理学やりた くて東北の大学に行きたいと言った時もお願いしたのですが、親には「普通がいい」と反対されまして。でも今思うとこちらの真剣さが足りなかったな、と。だって一度反対されただ けで「どうしてわかってくれないの?」と悲劇のヒロイン感 100%でその悲しみと絶望をポエムと共に日記にしたためて終わり、でしたもの。本当にやりたかったら何度でもお願いして親を説得すればよかったわけで。

そう思うとそんな私が“ちゃんと”お願いしたくらい、こ のピアノ欲は強かったんだなぁ。 そこから私はめちゃくちゃピアノ弾きました。とにかく楽しくて。手が大きく、ピアノのタッチも強めだった私はベートーベンなど激しい曲を課題にされる事が多かったのですが、 小さい頃からずっと憧れていたのはショパンの「幻想即興曲」。この曲を 16 歳で弾かせて もらえた時の嬉しさは忘れられない。

 

19 歳で家出をしてピアノはなくなってしまいましたが、何かしら自分の近くにピアノの存 在がありました。例えば 23 歳の頃通っていた舞台の専門学校。仲良しの男の子がピアノを 弾ける事がわかりまして。放課後、二人で学校のピアノ前に集合してよく連弾をしました。 特に楽しかったのは「くるみ割り人形」。有名な曲がたくさんありますからね。彼に連弾用 の楽譜をコピーしてきてもらい、時間の許す限り弾きまくりました。 あと忘れられないのは私が 26 歳の時の名ドラマ「ロングバケーション」。通称ロンバケ。

そもそも設定がいいじゃないですか。“うっかり同居”って言うんですか。“ひょん”な事から同 じ屋根の下に住む男女。言い争いながらも、気づくと惹かれ合っている、みたいなヤツ。ああ言うの、たまらない。そしてあのピアノです。木村拓哉さん演じるピアニスト・瀬名。彼が奏でる「Close to You~セナのピアノ」という曲が本当に素敵で。新宿の楽器屋さんにすぐ楽譜を買いに行きました。ただ楽譜を買ったところでピアノがない。お金もない。でも弾きたい。その足で私は秋葉原へ。1 円でも安いキーボードを探すべく数時間、あらゆるお店 を駆けずりまわったところ、見つかりました。どこの国で作ったかもよくわからない、1万円もしないキーボード。すぐさま買って、家まで引きずるように持って帰りました。

そこから空いた時間はすべてキーボードの前にいた、っていうくらいめちゃくちゃ弾いた。ロンバ ケの曲はもちろん、ドラマのサントラ集みたいな楽譜も買ってきて「Age,35~恋しくて」「十年愛」「東京ラブストーリー」など名ドラマの中で流れる曲たちもどんどん。でも結局 15 年 くらいで壊れてしまい、40 歳の時、再び NO 鍵盤ライフに戻ってしまいました。 でもその頃から少しずつお仕事いただくようになりまして。番組で小林明子さんの名曲「恋におちて」の弾き語りをしたり、芸人仲間でバンドを組んでキーボードを担当したり。飲みに行った友人のうちにピアノがあると、大好きな飲みも中断してただひたすら一人で弾き まくったり。なにかとピアノが傍らに。そんな日々を送っていると、やっぱりピアノ欲しくなっちまいましてね。弾きたい。ああ、弾きたい。気づくと机をピアノ代わりに指でカタカ タたたいている。まるでドラマ「少女に何がおこったか」のキョンキョンの名台詞「紙のピアノじゃ、指が沈まない」状態です。もう影から「薄汚ぇシンデレラ」って石立鉄男さんに出てきていただきたいくらい。

そんな私の家に、なんとなんと先ほどついに、ピアノ様がやって来ました。先日ふと思い立 ったが吉日、と急遽銀座の楽器屋さんへ行きまして。親切なお姉さんがいろいろ教えてくだ さり、結果。濃いブラウンの電子ピアノを買っちゃったのです。わーい。で、実はこのコラムを書いている横で、配送のお兄ちゃんが二人がかりで組み立ててくださっております。あ あ、完成したら 1 曲目は何弾こうかな。ロンバケの曲もいいし、Billy Joel の「Piano Man」 のイントロも格好いいよなぁ。でもま、まずは譜面なしでも弾ける唯一の曲「ねこふんじゃった」でもいきますかね。

【本日の乾杯】

結局ツマミってこういう事でしょ、と言いたくなるようなド定番。板わさ&枝豆。うん、確かに間違いない。特に蒲鉾は若い頃あまり興味なかったのに。今や大好物です。

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寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。 人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。

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