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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2019.10.27 更新 ツイート

どんなにひどい男でも二次元キャラならただのJPEGカレー沢薫

我々、オタク界隈には「地雷」という言葉がある。
カップリングやシチュエーションやジャンルなど「これだけは許せぬ」「受け付けない」という物である。

ただの個人の好き嫌いではないか地雷はオーバーだ、と言ってしまえばそこまでである。

 

しかし場合によって地雷を踏んだことにより救急車や警察が出動することになるし、訴訟大国アメリカとかなら間違いなく「カップリング表記を怠った」かどで裁判になっているだろう。

しかし、自分にとっては地雷でも、他人にとっては大好物、というのはよくあることだ。

よって公の場で「ジャガイモ×里芋が好きな奴の気が知れない、芋野郎としか言いようがない」などと発言してしまったら、ジャガ里(カプ名)派が出兵の準備を始めてしまう。

よって地雷についてはあまり言わない方が良いとされている向きもあるのだが、逆に「地雷は名言しておいた方が良い」という考え方もある。

何故なら「エビアレルギーです」と言わなければ、何の悪気もなしにガーリックシュリンプを「これ美味いっすよ」と出してくる人が現れるかもしれないからだ。
そこで「あーし、エビ食べれない人じゃないですか~?」と言ったら、相手も「そんなの知らねえよ」となってしまう。

だったら自己紹介の段階で「エビ×自分は地雷です、死にます」と言っておいた方が良い。
それにも係らず「好き嫌いは良くない、食べれば治る」と「エビ×お前」の薄い本を口にねじ込んでくる奴がいたら、それは相手が悪い。

だが、最初に「これが食えないんだ」と明言したら、それ以上は言及しない方が良い。「食えない理由」など長々言うものではない。
かりんとうが好きな人に、いかにそれがウンコそっくりかを語るような無粋である。

逆に言えば、我々は「地雷」について語る場が割と少ない。
しかし、クローズドな環境で少人数、そして最悪物理的殴り合いで解決できる間柄であれば、地雷について語る、というのもなかなか楽しいものである。

単純に「悪口が楽しい」ということではない「人間は何にムカつくかわからない」という点が興味深いのだ。

先日ツイッターで「食事の準備をしている受けに迫って、無理やり行為に及ぶ攻めが地雷、せっかく作ってくれた料理を何故暖かいうちに食べない」というつぶやきを見た時は感動すら覚えた。
萌えが「陰毛と繋がっている腹毛」など細かいところに宿るのと同じように、地雷も細部に宿るのだ。

ちなみに「地雷は年を取るごとに増える」傾向にあるという。

大人になると、寛大、寛容になると思われているかもしれないが、そんなことはない。逆に箸が転げてもムカつくようになる。
ただ、ムカついていることを表に出さない技術だけが卓越してくるだけだ。

もしくは「ムカついてるけど、怒る体力がない」のである。
若いころなら、転げた箸にムカついた勢いで叩き折り、箸を4本にしていたと思うが、年を取ると、そんな元気がないので「無言で拾う」という傍から見ると「落ち着いた行動」をとるようになるだけなのだ。

だが、これは年を取ると心が狭くなる、ということではない。

「頭からっぽの方が夢を詰め込める ~チャラ・ヘッド・チャラ~」

誰もが知っている偉人の名言だが、フィクションというのは「頭からっぽ」つまり、知識や経験がない方が、なんの抵抗もなく受け入れられるのだ。

ミステリーに精通していればいるほどトリックの穴が気になりだすだろうし、歴史に詳しくなればなるほど、織田信長が女に描かれていることが、不可解になってくるだろう。

私もリアル17歳の時は、17歳のヒロインが30代の男とつきあう乙女ゲーに何の疑問も持たずに萌えていたが、今では萌える前に「事案」という言葉が浮かんでしまい、素直に萌えられない。

また、社会に出てしまったことにより、学生のころは「ちょっとズレているところが、100億イイネ!」と思っていた二次元の男が「こんな社会性のない男とつきあったら餓死ですよ」と思うようになってしまった。

ちなみに、私の初恋は、ドラゴンボールの悟空だが、中年になった今、彼のような男と結婚したら、まず生活が「SPARKING!」してしまうことがわかっているので、手ばなしに「好き」とは言えなくなっている。

前述の「食事の準備中襲ってくる攻めが地雷」というのも、自分が料理を作る大変さを知っていなければ「私の攻めってばマジアニマル!」と喜んでいたかもしれない。

つまり知識や人生経験を積めば詰むほど「この言動は人としてないんじゃないか」という二次元キャラの振る舞いが増えてしまうのである。

別の意味で「空想と現実の区別がつかなくなる」のである。

しかし、それがあまりに増えると、いつしかフィクションが楽しめなくなってしまう。

そもそも「現実なら通報まったなしの男を愛せる」というのがフィクションの良いところだったはずだ。
今後は二次元キャラに対し「現実だったらこんな男ないわ……」と思った時は「しっかりしろ相手はJPEGだぞ!」と、自分に平手打ちをかましていきたいと思う。

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関連書籍

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 〜オタク沼地獄〜』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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