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発達障害と呼ばないで

2019.09.25 公開 ツイート

発達障害は病気ではない…「情報処理のタイプ」が異なるだけ 岡田尊司

ADHD、学習障害、アスペルガー症候群、自閉症……。近年、「発達障害」と診断される人が急増しています。一体、どうしてなのでしょうか? 精神科医・岡田尊司先生の『発達障害と呼ばないで』は、その意外な秘密に迫った一冊。発達障害は「生まれつきの脳機能の障害」という、これまでの常識がガラッと変わることでしょう。そんな本書から、一部を抜粋してお届けします。

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「長所」を伸ばしたほうがいい

非定型発達は、情報処理の特性が異なるタイプという捉え方をすることもできる。いわゆる定型発達の場合、人に関する情報処理が、物に関する情報処理よりも優れている。些細な表情から感情を読み取ることができるし、相手の発言の微妙なトーンから言外のニュアンスを感じ取ることができる。

(写真:iStock.com/monsitj)

非定型発達では、こうした社会的情報処理が概して苦手であり、相手の感情や微妙なニュアンスを読み取り損なって、コミュニケーションがうまくいかないということも起きる。しかし、不利な面ばかりではない。その分、別の面での情報処理に長けている。

「視覚空間型」と呼ばれるタイプでは、言葉では伝達できない映像や動きにかかわる情報を、瞬時に、直感的に処理する能力が高い。ボールや体の動きとか、空間の位置や事物の形態といった視覚空間情報を素早く処理できる。

このタイプの子は、迅速で直感的な反応を必要とする運動やモノづくりが得意である。勉強は苦手でも、職人や技術者、芸術家やスポーツ選手として活躍することも多い。

その半面、対人関係では無愛想で、社交性に欠けていたり、強情で柔軟性が乏しかったり、言葉でうまく伝えられないと爆発しやすかったりする。

また、「視覚言語型」と呼ぶタイプでは、文字言語や数字や記号、抽象的な概念を処理する能力に優れている。会話のやり取りは苦手でも、難解な言葉を用いた文章を読んだり書いたりするのは得意である。

詩や小説の読解で、作者の気持ちを聞かれると自信がないが、論理や数学を扱うのはお手の物だ。人と遊んだり体を動かすことよりも、本を読んだり頭の中で考えるのを好む。学者や研究者、専門技能をもつテクノクラートには、このタイプの人が多い。

それに対して、社会的な能力の発達が良いタイプは、聞き取りや会話言語の処理に優れているので「聴覚言語型」と呼ぶ。聴覚言語型の人では、勉強する場合に、自分で本を読むよりも講義や人の説明を聞いた方が頭に入りやすい。

一方、視覚言語型の人では、自分で本を読んで独学した方が能率良く身につく傾向がみられる。視覚空間型の人は、話を聞いたり本を読むだけでは頭に残りにくく、実際に体や手を動かさないと身につかない。

「血液型」の違いのようなもの

得意とする情報処理のタイプに、各人はっきりとした違いがみられ、細かい点を含めると、さらに多様な違いが存在する。しかし、大きくこの三つのタイプに分けて理解することは、発達特性を踏まえて、どういう教育や取り組みがその子を伸ばすのかを考える上で有用な指針となる。

(写真:iStock.com/byryo)

ちなみに、講義形式の授業は、聴覚言語型の子を基準にしたものであり、それ以外のタイプの子にとっては、一日六時間か、それ以上も先生の説明を聞く学習方法に縛られることは、時間と労力をかなり無駄にする。

それでも、ペーパーテストが中心の教育は、視覚言語型の子どもにとって有利な面もあり、このタイプの子は授業を聞くのはあまり熱心でないが、成績は良く、本から得た知識が豊富ということが多い。

一番、割をくっているのは、視覚空間型の子どもである。このタイプの子どもにとって、現行の教育制度は、彼らの特性を活かせず、劣等感ばかりを強めてしまいやすいものとなっている。

このように、定型発達か非定型発達かという違いは、“健常”とか“障害”とかいうよりも、情報処理のタイプの違いだとも言える。この場合のタイプとは血液型のようなものである。A型の人がもっとも多いが、B型やO型もいるし、比率でいくと少ないが、AB型の人もいる。B型やAB型を、“異常”や“障害”として扱ったりしたら、大変なことになる。

ところが、ことが発達に関する限り、そうしたことが起きかねない。しかも、少数派のタイプはさまざまな不利を強いられるため、不適応を起こしやすい。それで問題が生じると、それ見たことかとばかりに、やはり発達に問題があるからであり、「発達障害」だということになってしまう。

しかし、もともとはタイプ、つまり特性が違うだけなのであり、それをその人に不利な物差しで測られるところから悲劇が始まるのである。

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発達障害と呼ばないで

ADHD、学習障害、アスペルガー症候群、自閉症……。近年、「発達障害」と診断される人が急増しています。一体、どうしてなのでしょうか? 精神科医・岡田尊司先生の『発達障害と呼ばないで』は、その意外な秘密に迫った一冊。発達障害は「生まれつきの脳機能の障害」という、これまでの常識がガラッと変わることでしょう。そんな本書から、一部を抜粋してお届けします。

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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