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月が綺麗ですね 綾の倫敦日記

2019.09.02 更新 ツイート

ロンドンでフェミニズムを信じない男性とデートした件鈴木綾

「フェミニズムってよく分からない」
と彼は澄ました顔で私に言った。

ロンドンの素敵なレストランで美味しいご飯を食べて美味しいワインを飲んでいる時だった。彼とは3回目か4回目のデートだった。最初はそんなに興味はなかったけど、映画の好みやキスのうまさなど、もうやめようかと思っていた時にいつも意外なところに心地よく驚かされて、切らずに続けていた。

 

でも、その夜は二人の間には微妙な緊張感というか、噛み合わない、すれ違いの会話が続いていた。私が、あなたともっと一緒に時間を過ごしたい、っていうことを、彼の気持ちを傷つけないように回りくどい言い方だけど素直な言葉で説明しようとしたら、彼は私が理由なく彼を責めてきた、と受け止めたみたいで、不機嫌にイライラし始めた。私はそれなりの関係になりつつある対等な者同士の間で普通に表現してもいいことを言っていただけなのに。それもすごくやんわりと。

彼が苛立ったのがすぐわかったので、私は上手に会社の話に変えた。

「最近私の会社はもっと女性社員を採用しようとしててダイバシティーの取り組みを色々やっている」と言ったら、彼の口をついて出たのが、冒頭の名言。

私にイラついていたから私を傷つけるためにわざと言ったのか。それとも思わず本音を言ってしまったのか。どっちにしてもそれって気持ち悪い。デートの最中に言う?

一瞬体がかたまって何も返せなかった。それでなんとか「だけど、だけど女性には色々なことが…」と誤魔化す。

うん、一言で表せない、私が経験してきた「色々なこと」。

「母はずっと働いているけど、彼女は性差別とか、そんなの経験したことないよ」

「うんん、それはあなたに言ってないだけじゃないの…」と私は小さな声で返した。

「綾にとってフェミニズムって大事なことだって分かっているけど、僕にはちょっと理解できないな」と彼は肩をすくめてもう一度そう言った。

デザートが出てきたので、私はそのタイミングで話を変えて、あとはたわいのない無難な話題で彼と話を続けた。

彼が支払いを済ませたので、「ごめん、体調がちょっと…」と言い訳をしてウーバーを呼んだ。彼は私が体調不調ということに(つまり、その夜は彼とセックスをしないことに)びっくりして、心配そうな顔になった。デートで最も感情を示したのはそのときだった。でも、彼は私の決断に抵抗しなかったし、私のウーバーが来るまで紳士的に待ってくれた。

ロンドンアイやビッグベンなど、テムズ川沿いの観光地をウーバーの窓からぼんやり眺めた。ロンドンに引っ越してからそういうところに行く暇はなかった。旅行で見る街と住んで見る街は違うよねー、と、とデートのことを忘れるために自分で自分に語りかけた。だけど彼の言葉と自分への不満をどうしても振り払えなかった。

なんできちんと「フェミニズム」について話ができなかったのか。「フェミニズムっていう言葉にこだわりすぎてるんじゃないの? 男性が嫌いとか敵視するってわけじゃなくて、シンプルに男女平等のことだよ、だから今夜みたいにデートは男性が奢る習慣とかを疑問視するのもフェミニズムの一つだと思う。綾には色々、本当に色々なことがあった。あなたのことが好きだから聞いてほしいし、理解してほしい。けど、まずお母様に話を聞いてみて。あなたに話してないいろんなことがあったと思うよ。それを聞いたら一緒にコーヒーを飲みに行って、もう少し話そう。」みたいなことを言えばよかった。

私が何も言わなかったから、彼は勘違ってしまったのだろう。2019年の女性は、どんな理由であれ、そんなことを言う男性とは絶対寝ない。さらにひどいことを想像してしまうと、結婚してしまった後に相手の本音を知ってしまった女性は悲劇だ。 

ストーカーされ、ハラスメントを受け、触ってほしくないのに触られた東京よりロンドンの方が女性にとって生きづらくないだろう、と期待していた。確かに生きづらさ度合いはロンドンの方が億倍マシだけど、ロンドンにだって性差別はまだある。

日本の「セクハラ」とは違うけど、ビジネス上の男女関係の中に性差別はいくらでもある。部下や取引先の女性をモノ扱いする、便利使いする、という意味では同じ性差別。

日本と違って欧米では60・70年代にフェミニストがデモしたりしてフェミニズムが市民権をえていて政治的にも学術的にも一定評価されている。だから、「自分たちはジェンダーの問題を解決できた」と思っている人がいる。でも実際はそうじゃない。人々の無意識、普通の社会生活の根底に根強く性差別意識は残っている。そういう意味では西洋が乗り越えなければいけない性差別の問題はセクハラより最もっと深い。


例えば、会社の役員に「無料で日本語教えて」とお願いされた。下心は全くないと思うけど、MBAを習得した私にそう言うのをお願いするのはちょっと、と思う。会社が大きなイベントを主催した時には、秘書たちと一緒にお客さんの案内やネームカード作成のような事務的な仕事をさせられた。私と同じレベルの男性社員はそう言う仕事をさせられてないのに。

私が問題だと思うのは、男性も、それから上の世代の女性たちも、そのことには無自覚だってこと(これは男性だけの問題じゃない!)。私は日本の一流企業で働いてMBAを取って広報・マーケティングの専門家として採用された。日本語教師でもないし、秘書でもない。もし私が男性だったらそんなこときっと言わないだろう。自分たちが物事を二重基準で見ているってことを自覚してない。

女性の私にそういうのを言っているのは、女性たちは断らないからだ。女性たちは人を手伝う、人に合わせる、思いやりを見せる、そう育てられている。それが女性らしさ、優しさだ、と(日本語の家庭教師の時はさすがに本業の仕事があって、かつ専門家じゃないので「日本語の先生を募集できるサイトをどうぞ」と断った)。

これは秘書の女性の問題だけではない。「能力があって仕事ができる女性」ほど、きちんと自分を認めさせなければいけない、仕事ができることをわからせないといけない、っていうプレッシャーがある。だから断れない。そういう女性は、男たちや下の世代に自分が経験したと同じような大変さを体験させたいと思っている上の世代の女性たちにとって「都合のいい存在」でしかない。

会社の役員に「フェミニズムのこと、わかりますか?」と聞いたら、ちゃんと答えられる人はいないと思うし、関心もないだろう。この人たちは21世紀の先端を走るテック業界だって牛耳っている。デートの男性と同じで、無自覚で鈍感。自分にはわかんない、と平気で言うデートの彼の方がよほど正直なのかもしれない。

とにかく、あの彼とはFacebookでまだ繋がっているけど、話はしない人になった。
 

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イギリスに住む30代女性が向き合う社会の矛盾と現実。そして幸福について。

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鈴木綾

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。現在はロンドンの投資会社に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

 

 

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