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人殺しの論理

2018.12.18 更新

身の毛もよだつ残虐な連続殺人犯は美しい顔をしていた小野一光

 世間を震撼させた凶悪殺人犯と対話し、衝動や思考を聞き出してきたノンフィクション作家の小野一光氏。残虐で自己中心的、凶暴で狡猾、だが人の懐に入り込むのが異常に上手い。そんな殺人犯の放つ独特な臭気を探り続けた衝撃の取材録が、幻冬舎新書『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』である。

 発売6日で即重版となった大反響の本書から今回は第3章「松永太の笑顔――北九州監禁連続殺人事件」を公開。犯罪史上稀に見る残虐な事件は、漫画『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平氏、小学館)の「洗脳くん」や、小説『ケモノの城』(誉田哲也氏、双葉社)などのモチーフとなったことでも有名である。小野氏は実際に対面した主犯の松永太からどのような印象を受けたのだろうか?

(写真:iStock.com/FOTOKITA)

始まりは17歳少女の監禁・傷害事件だった

 吐き気をもよおすほどの嫌悪感しか生まれない、おぞましい事件というものがある。

 それを初めて知ったのは2002年のこと。なにも考えずに飛び込んだ福岡県北九州市の現場だった。

 事件は同年3月に、6年以上にわたって中年の男女2人に監禁されていた17歳の少女・広田清美さん(仮名)が逃げ出したことで発覚した。彼女は男女からペンチを使って右足の親指の生爪を自分で剥ぐように強要され、負傷しているという。

 殺人事件ではなかったが、00年1月に発覚した、新潟県で少女が9年2カ月にわたって監禁された事件の記憶が生々しく残っていた時期だ。その事件に対して2カ月ほど前の02年1月に、新潟地裁で懲役14年の判決が出たばかりだった。そうした世間の関心が高いとき、週刊誌は大規模な編成で取材に当たることが多い。そこでフリーランスの私も、この北九州市の事件の取材班に組み込まれたのである。

 清美さんへの監禁・傷害容疑(起訴時は監禁致傷罪)で緊急逮捕された男女は黙秘を続けており、彼らが日常生活でも偽名を使っていたことから、送検時も本名不詳という状態だった。また、北九州市内の別のマンションで、清美さんが男女から世話を命じられていた、誰の子供だかわからない男児4人が見つかり保護された。そうした状況から、当初は男女について、北朝鮮の工作員やカルト教団の信者なのではとの憶測が飛び交った。

真下の部屋の住人が聞いた不気味な音

 やがて時間の経過とともに、事件は新たな展開を見せる。まず、清美さんが自分の父親は男女に殺されたと説明していることが報道された。続いて、家宅捜索で発見された女の保険証により、男は40歳の松永太(ふとし)であり、女は同じく40歳の緒方純子であることが明らかになった。

 さらに保護された4人の男児のうち、6歳の双子の母親だという女性が名乗り出て、探偵業をやっている東大卒の外科医で「田代博幸」と自称する松永にそそのかされて、約2500万円を支払ったうえで子供2人を預けていたことが判明。残る9歳と5歳の2人の男児は、松永と緒方の実子であることがDNA鑑定で確認されたのである。

 現場周辺の地取りをしていた私は、松永と緒方が借りていた3室のマンションのうち、清美さんが父・広田由紀夫さん(仮名=当時34)と一緒に松永や緒方と共同生活を送った三萩野マンション(仮名)の、真下の部屋に住む住人を取材した。すると以下の話が出てきた。

「5、6年くらい前からやけど、深夜にね、上の部屋からギーコ、ギーコってノコギリを挽く音がするんよ。それが何日も続き、しばらく間が空いてからまた聞こえるっち具合に繰り返されよった。もう、なんの音やろうかっち思いよったんよね。そんで、あの部屋を中心に2年近く異臭が漂いよったんよ。肉が腐ったような、耐えられん臭い。さすがに冬場はあまり臭わんかったけど、夏になると2階にまで臭いがおりてきよったけね」

 それは清美さんによる、父が殺害されたという話に結びつく内容だった。彼女は当時、遺体はバラバラにされ、砕かれた骨は海に遺棄されたと説明していた。

死刑判決を受けた松永と緒方の対照的な態度

 事件は清美さんの父と緒方の親族6人の、合わせて7人もが死亡した連続殺人へと、広がりを見せた。03年6月20日に緒方の妹の夫である緒方主也(かずや)さん(当時38)への殺人罪での起訴が行われたことを最後に、すべての事件についての捜査が終結した。

 その後の裁判で、松永と緒方による犯行は、これまでに例を見ない残酷なものであることがはっきりした。善良な家族たちは監禁され、通電による虐待を繰り返され、恐怖で支配された。その末に家族を自分たちの手で殺すように命じられていたのだった。

 05年9月28日、77回開かれた一審の判決公判が福岡地裁小倉支部であった。途中、昼の休廷を挟んで午後に再開された裁判の後半、裁判長による量刑についての説明が行われた。そこでは以下のような言葉が並ぶ。

「約2年4カ月のうちに7名を殺害。はなはだしい人命無視の態度には戦慄をおぼえる」

「いずれも残酷で非道であり、血も涙も感じられない

「完全犯罪を狙ったものであり、極めて卑劣、かつ狡猾である」

「まことに非道な限り」

犯罪史上まれに見る凶悪なもの

「すべて松永が計画、緒方に実行させたもの」

「松永がいなければ起きなかった犯罪であり、首謀者である。緒方も犯行すべてにおいて重要な役割を果たしている」

「緒方は基本的に松永と異ならない」

 やがて結論の段になり、裁判長が「被告人両名に対しては、いずれも極刑である死刑を選択し、これをもって臨むのはやむを得ないと判断した」と述べると、緒方だけは裁判長に向かって黙礼した。

 続いて2人は裁判長に促されて証言台に立ち、主文の読み上げが行われた。そこで死刑が宣告されると、緒方は頭を下げ、松永は腰の位置で手を組み、顔を上に向けた。

 裁判長が閉廷を告げると、松永は退廷するために刑務官から手錠をかけられながら、顔を紅潮させて近くの弁護人に向かい「先生、控訴審ですよ。やりますよ。どうもお疲れ様でした」と声を上げた。一方、緒方は最初に検察官に向かって頭を下げ、続いて弁護人に頭を下げて法廷を出た。

 その後、07年9月の控訴審判決で松永の死刑判決は支持されたが、犯行時は松永に従属的だったと判断された緒方は無期懲役に減刑された。そして11年12月の最高裁判決でも松永は死刑に、緒方は無期懲役となり、2人の刑は確定したのだった。

悪魔との初めての面会

 稀代の凶悪殺人犯である松永との面会が実現したのは、控訴審判決から1年2カ月後の08年11月のこと。

 上告中の松永と会うために、私は福岡拘置所へと向かった。その前に私は彼に手紙を出しており、もしなにか世間に訴えたいことがあれば、私を介して記事として出すことが可能であると伝えていた。それに対する松永からの返信はなかったが、直接出向くことにしたのだ

 断られることも覚悟しての面会申請だったが、私の持つ番号札の番号が呼ばれ、面会室の部屋番号が告げられた。やがて緊張しながら待つ私の、向かい側にある扉が開いた。

「いやーっ、先生。今回は遠くから来ていただき、ありがとうございました。聞いてくださいよ。裁判所はまさに不当な判決を下しているんですよ。検察が作ったシナリオに沿って、私の言い分にはまったく耳を貸してくれない。本当にひどい状況なんです……」

 法廷で目にしていたのと同じ、いびつな笑顔で現れた松永は、私の前に腰かけると、目を大きく見開き、身振り手振りを交えて私に裁判の不当性を訴え始めた。

「もう私の裁判はね、司法の暴走ですよ……」

 彼はいかに自分がひどい目に遭っているか、司法がでたらめかということを続けざまに話すと、「先生、先生こそはそんな奴らとは違うと信じています」と、媚を売ってくる。

 真っ白と表現できるほど色白で、歌舞伎役者のような端整な顔立ちの松永は、ときには笑顔を浮かべながら饒舌(じょうぜつ)に語り続けた。事件の凄惨な内容や、その他の被害者が受けた苛烈な暴力を知る私は、彼の言葉に「ええ、ええ」と頷き、平然とした顔でメモを取りながら、悪魔とは案外こんなふうに屈託のない存在なのかもしれないと考えていた。

 

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小野一光『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』

「腕に蚊がとまって血ぃ吸おうとしたらパシンて打つやろ。蚊も人も俺にとっては変わりない」(大牟田四人殺人事件・北村孝紘)、「私ねえ、死ぬときはアホになって死にたいと思ってんのよ」(近畿連続青酸死事件・筧千佐子)。世間を震撼させた凶悪殺人犯と対話し、その衝動や思考を聞き出してきた著者。一見普通の人と変わらない彼らだが、口をつく論理は常軌を逸している。残虐で自己中心的、凶暴で狡猾、だが人の懐に入り込むのが異常に上手い。彼らの放つ独特な臭気を探り続けた衝撃の取材録。

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人殺しの論理

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小野一光

1966年、福岡県生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに数々の殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。『全告白 後妻業の女 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『震災風俗嬢』(太田出版)、『殺人犯との対話』(文藝春秋)など著書多数。

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