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辺境生物はすごい!

2018.12.10 更新 ツイート

生物学者が警鐘を鳴らす「思う」と「考える」の違いとは長沼毅

北極、南極、深海、砂漠……私たちには想像もつかない「辺境」に暮らす生物がいる。そんな彼らに光を当てた一冊が、生物学者で「科学界のインディ・ジョーンズ」の異名をもつ長沼毅先生の、『辺境生物はすごい!――人生で大切なことは、すべて彼らから教わった』だ。知れば知るほど、私たちの常識はくつがえされ、人間社会や生命について考えることがどんどん面白くなっていく。そんな知的好奇心をくすぐる本書から、一部を抜粋してお届けします。

「考えたつもり」になっていないか

 小中学校では、あまり「自分で考えてみましょう」という指導をしてほしくありません。

iStock.com/paylessimages

 そもそも、「自分の頭で考えるのが大事」と言う先生たちが、生徒に「考えるとはどういうことか」を教えているのかどうかも疑問です。それがわからないまま「考えろ」と言われても、子供は単に自分の直観的な好き嫌いによって、「こうしたほうがいいと思います」などと物事を判断するだけではないでしょうか。

 では、「考える」とはどういうことか。

 そこで重要になるのは、「思う」との違いです。「思う」と「考える」は、似ているけれど完全に同じではない。どちらを使ってもかまわないケースもありますが、たとえば「今晩の献立を考える」を「献立を思う」とは言いませんし、「故郷を思う」を「故郷を考える」とは言いません。それは一体、なぜなのか。

 実は大野晋さんの『日本語練習帳』(岩波新書)という本に出てくる最初の問題がこれなのですが、私はそれを読む前から自分なりの答えを持っていて、それがまさにその本でも「正解」でした。

 簡単に言うと、「思う」と「考える」の違いは「選択肢の有無」です。「思う」はひとつのイメージが心の中にできあがっていて、それが変わらずにある。それに対して「考える」は、いくつかの選択肢を「あれかこれか」と比較・検討する作業です。ですから、ひとつしかない故郷を「考える」ことはできないし、献立を「思う」こともできません。

 だとすれば、「自分はこうしたほうがいいと思います」という判断は、多くの場合、「考えた結果」ではないでしょう。

 それ自体は、その人らしい「個性的なやり方」ではあるかもしれません。でも実のところ、その人は自分の頭で「考える」ことさえしていない。そのような判断を「自分で決めたのは偉い」などと手放しで賞賛するのが「個性重視の教育」だとしたら、それは子供の独自性を育てているのではなく、独善を許容しているだけでしょう。

「思う」が「考える」よりも独善的な判断に結びつきやすいのは、「思い込む」と「考え込む」の違いを考えれば明らかです。

「思い込む」がひとつのことを固く信じてほかの選択肢を検討しない状態であるのに対して、「考え込む」はあれこれと複数の選択肢について思考をめぐらせている状態

「私は自分の信念でこうやると決めました」「自分ではこれがベストだと思っています」などと主張して譲らない人は、ただ自分の先入観や固定観念に縛られているだけで、まともに「考えて」もいないのです。

 そんなふうに思い込みで物事を判断するぐらいなら、何も考えずにお手本を真似たほうがよい結果が出るでしょう。

「思いつき」を確実にキャッチする

 正直なところ、私自身もどちらかというと「思い込み」が強いタイプです。それも、10年ほど前に周囲との軋轢を生んだ一因でしょう。だから自分でも、できるだけ思い込みを避けるように注意しているつもりです。

iStock.com/baramee2554

 もちろん、「思う」のつく言葉がすべてよくないわけではありません。「思い出」や「思いやり」などは、私も好きな言葉です。

 また、研究者にとっては「思いつき」も大事。同じ「思う」でも、こちらは「思い込み」とは違って、「自分」というものがあまり介在していません。

 いや、もちろん自分の頭から出てくるアイデアなのですが、脳の深層からポカンと浮かんでくるので、自分が主体的に考えたような気がしない。むしろ、自分の外にある「世界」の側にあるのが「思いつき」のように感じるのです。

 私は脳科学の専門家ではないので、これは自分の中でのイメージでしかないのですが、自分で一生懸命に「考えている」と自覚しているときに使っているのは、おそらく脳の表層だけでしょう。

 一方、脳の深層では、自分が知らないあいだに勝手に思考がグルグルと回っている。頼りになるのは、後者です。脳の表層で考えることなど、どうせロクなものではない。ほとんど間違っているというのが、私の前提です。

 そう思っているので、私は自分で考えることに行き詰まると、「あとはよろしく!」という気分で問題を脳の深層へ投げ込んでしまいます。

 すると、あるとき何かの拍子に、答えが「水面」(脳の表層)に浮上してくる──これが「思いつき」や「ひらめき」といったものでしょう。

 前に考えたことを「思い出した」わけではなく、自分の脳がそれを新たに「考え出した」のはたしかです。でも、ふつうに「自分で考える」のとは何かが違う。

「考える」ときに使う脳の表層は、おそらく、外の「世界」と自分とのあいだにあるインターフェースにすぎないのです。いわば、パソコンのディスプレイのようなもの。そこでインプットされた問題を処理するCPUは、脳の深層にあって、自分では意識できません。

 したがって、新しいアイデアを手にするために重要なのは、脳の深層から浮かび上がった答えをしっかりキャッチすることです。だから私たちは、「思い込み」をできるだけ避けながら、「思いつき」を大事にしなければいけない。

 ただ単純に「自分で考えてみましょう」と指導するだけでは、その逆になる(表層の「思い込み」にとらわれて深層の「思いつき」をつかめない)可能性のほうが高いと思います。

◇ ◇ ◇

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長沼毅

1961年生まれ。筑波大学大学院生物科学研究科卒業。現在、広島大学准教授。 専門は、生物海洋学、微生物生態学、極地・辺境等の過酷環境に生存する生物の探索調査。 酒ビン片手に、南極・北極から、火山、砂漠、深海、地底など、地球の辺境を放浪する、自称「吟遊科学者」。学名:カガクカイ・インディ・ジョーンズ・モドキ、あるいは、ホモ・エブリウス(Homo ebrius)「酔っ払ったヒト」。好きな言葉は「酔生夢死」。 Naganuma WEB http://home.hiroshima-u.ac.jp/hubol/members/naganuma/ Twitter @naganumatakeshi http://twitter.com/naganumatakeshi

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