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辺境生物はすごい!

2018.12.09 更新 ツイート

生物の進化は「遺伝子のミスコピー」から始まった! 長沼毅

北極、南極、深海、砂漠……私たちには想像もつかない「辺境」に暮らす生物がいる。そんな彼らに光を当てた一冊が、生物学者で「科学界のインディ・ジョーンズ」の異名をもつ長沼毅先生の、『辺境生物はすごい!――人生で大切なことは、すべて彼らから教わった』だ。知れば知るほど、私たちの常識はくつがえされ、人間社会や生命について考えることがどんどん面白くなっていく。そんな知的好奇心をくすぐる本書から、一部を抜粋してお届けします。

「三弁」をやめれば人生は変わる

 まわりから見てそう感じられるかどうかはわかりませんが、たとえば自分のミスを(以前よりは)素直に認められるようになりました。

iStock.com/ipopba

 昔は、ミスを指摘されても非を認めず、いかに自分が正しいかを滔々とまくしたてるのが常だったのですが、周囲からの評価を考えると、それはむしろ逆効果だとわかったからです。

 批判に対する自分の対応がよくないと気づいたのは、企業のリスク管理の話を聞いたのがひとつのきっかけでした。

 顧客からクレームが来た場合、企業はまず指摘された問題があることを認めるところからリスク管理が始まるといいます。その上で、自分たちに非があれば謝罪し、相手に損失を与えたならそれを弁償する。さらに、反省することで原因などを明らかにして、再発防止策を講じるのが基本的な流れです。

 そこで何より大事なのは、「プライドを捨てる」ことでしょう。会社の看板に傷がつくことをおそれて問題の存在自体から否定してしまうと、かえって世間の信用を失い、結果的にイメージがダウンする。むしろ潔く認めたほうが、看板を守ることにつながります。

 個人でも、これは同じこと。たとえば少し前に、国会で「これはウチワに見えるかもしれませんが、ウチワではなくビラです」と強弁して世間の失笑を買った法務大臣がいました。結局は辞任に追い込まれたので、「無駄な抵抗」だったわけです。無駄に終わるだけならダメモトでやってみる意味もあるでしょうが、同じ辞任するにしても、すぐに非を認めたほうが、その後の政治家としてのイメージはよくなったに違いありません。

 それに、非を認めずに強弁したとき、いちばん居心地の悪さを感じているのは、周囲で見ている人たちではなく、自分自身です。「ちゃんと生きている」という手応えが得られないし、楽しくもない。もちろん非を認めるのもあまり楽しいことではありませんが、認めたほうが気持ちが「楽(ラク)」になるのはたしかでしょう。

 だから私は、弁解・弁護・弁明の「三弁」を一切しないことにしました。たとえ自分は悪くないと思っていても、とりあえず謝る。それが話し合いのゴールだと思うと謝れなくなりますが、そこからスタートするのだと思えば、そんなに抵抗感はありません。

 実際、何かトラブルが起きたときは、謝ってからお互いに何だかんだと話をしているうちに、本当の責任の所在が明らかになることがよくあります。だから、早い段階で謝った人が必ずしも最終的な責任を問われるわけではない。むしろ、いったん誰かが謝ることで関係者が落ちつき、冷静に考えようという雰囲気になることが多いのです。

「ミス」は悪いことではない

 そもそも、人間はミスをゼロにはできません。仮にできたとしても、そのときは何も新しいものが生まれなくなるでしょう。

iStock.com/Svisio

 それこそ生物の進化も、遺伝子のミスコピーから始まります。生命がノーミスの存在だったら、地球生命は誕生から40億年経った現在でも、海の中の単細胞生物のままだったかもしれません。

 もちろん、ミスで生まれた変異体の大半は生き残れず、いわば「失敗」に終わります。しかし、中には環境に適応して生き残り、新種としての独立に成功するものもある。確率は決して高くありませんが、生物界全体で膨大な数の変異体が生まれるので、長い年月をかければ種の枝分かれもたくさん生じます。

 だから、地球生命はこれだけ多様なものになりました。「打率」の低い野球選手でも、「打数」を増やせばヒット数を稼げるのと同じことです。

 その意味で、ミスは成功のためのコストだと考えることもできるでしょう。よく言われるように、あのイチロー選手でも6割以上は失敗する。まさに「失敗は成功のもと」なのですから、「ミスを認めたら負け」などと考える必要はありません。

 ただ、先ほどの図々しい学生のように、相手が非を認めた瞬間に、優位な立場を絶対に譲らない人がいるのも事実です。訴訟社会のアメリカでは、たとえば交通事故を起こしたとき、先に「アイムソーリー」と口にすると裁判で負けるので、絶対に謝らない──本当に「絶対」かどうかはわかりませんが、そういうケースがあるのはたしかでしょう。

 日本もアメリカ的な訴訟社会に近づいているせいなのか、昔よりも「先に謝りにくい世の中」になっているような印象もあります。

「失敗を許す社会」を作るべきだというお題目はよく見聞きしますが、現実はそうなっていない。何か不祥事が起こるたびに、マスメディアでは責任追及と謝罪要求の声が高まり、誰かが記者会見で深々と頭を下げてもなお、攻撃の手が緩むことはありません。

 そんな風潮のせいなのか、今の学生たちを見ていると、以前よりも失敗をおそれる気持ちが強いように感じます。たとえば新しい実験を始めるときに、「自分にもできますかね?」という聞き方をする学生が少なくない。やってみる前に、成功の保証が欲しいのです。

 過保護な親が、小さい頃から失敗させないように育ててきたのかもしれませんが、これでは新しいことにチャレンジできないでしょう。

関連書籍

長沼毅『辺境生物はすごい! 人生で大切なことは、すべて彼らから教わった』

★幻冬舎plusでポイント30倍キャンペーン中★ 極地、深海、砂漠などの辺境は、人類から見ると「特殊で過酷な場所」だが、地球全体でいえばそちらのほうが圧倒的に広範で、そこに棲む生物はタフで長寿。「一見生きにくそうな世界も、そこに棲む者にとっては都」「“弱肉強食”は、生物の個体数が多い地域の特別なルールでしかない」など、辺境生物を知ると、我々の常識は覆され、人間社会や生命について考えることがどんどん面白くなる。私たちの常識は、地球規模では大間違い! 辺境生物学者である著者の科学的冒険を辿りながら、かたい頭をやわらかくする科学エッセイ。

長沼毅『深海生物学への招待』

光のまったく届かない、数千メートルの深海にも生物がいた! 著者が「しんかい2000」で初めて深海に潜り、青い異世界に触れた時の驚きから始まる、大冒険と大研究の記録。科学界のインディ・ジョーンズの呼び名で人気の科学者が、地球の不思議と、偉大なる生命の輝きを描き切った。科学の本であると同時に、美しい筆致で描かれたエッセイ。

長沼毅『世界の果てに、ぼくは見た』

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長沼毅

1961年生まれ。筑波大学大学院生物科学研究科卒業。現在、広島大学准教授。 専門は、生物海洋学、微生物生態学、極地・辺境等の過酷環境に生存する生物の探索調査。 酒ビン片手に、南極・北極から、火山、砂漠、深海、地底など、地球の辺境を放浪する、自称「吟遊科学者」。学名:カガクカイ・インディ・ジョーンズ・モドキ、あるいは、ホモ・エブリウス(Homo ebrius)「酔っ払ったヒト」。好きな言葉は「酔生夢死」。 Naganuma WEB http://home.hiroshima-u.ac.jp/hubol/members/naganuma/ Twitter @naganumatakeshi http://twitter.com/naganumatakeshi

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