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歴史と戦争

2022.08.15 公開 ポスト

[pick up]88歳の私から、若いあなたへ伝えたい「平和」の話半藤一利

“戦争は、ある日突然に天から降ってくるものではない。長い長いわれわれの「知らん顔」の道程の果てに起こるものなんである”――半藤一利さんの80冊を超える著作の中からそのエッセンスを厳選・再構成した『歴史と戦争』。本書から一部を抜粋してお届けします。

※この記事は、2018.08.15に公開されたものの再掲です

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iStock.com/drasa

「平和憲法」のこれから

 明治時代、国家目標は富国強兵であり、国家の機軸──国をつくるためには、皆が心を一つにして同じようなことを考え同意することができる軸が必要なのです──は立憲天皇制でした。国家をつくるにあたっての一つのシステムとして非常にうまく機能したと思います。

 戦後日本について言いますと、国家の機軸は憲法にある平和主義だったと思います。これに関して日本人はかなり一致して受け入れただけではなく、それを進んで喜びとするようになった。鳩山さんや岸さんの主張する改憲・再軍備にはノーと言ったのです。

 また国家目標は、一九六〇年代の後半からは軽武装・経済第一主義とし、これもまた完成しました。そして現在となるわけです。

 じゃあバブル崩壊後の今の私たちの国家目標は何か、ありません。では機軸は何か。私は平和憲法でいいと思うんです。が、嫌だという人が多いんですね。早く憲法を改正して、軍隊をもつ普通の国にしようという意見が多いと新聞などが報じています。

(『昭和史 戦後篇 1945-1989』)

若いあなたに伝えておきたいこと

 今の日本は、戦後ずっと意思統合をしてきた「軽武装・経済第一」の吉田ドクトリンの分解がはじまっているようです。いい加減に戦後の経済主義を卒業したらどうか、の声が高まっています。いや、平和的発展路線をさながら欠陥品のようにみなす人も増えています。

 このままひたすら世界平和のために献身する国際協調的な非軍事国家でいくか、いやいやそれはもう時代遅れも甚だしい、これからは平和主義の不決断と惰弱を清算して、責任ある主体たれ、世界的に名誉ある役割を果たせる「普通の国」にならなければならない。この二つです。

 その選択は、まさに若い皆さん方の大仕事というわけです。ロートルには発言権はないと考えます。

(『昭和史 戦後篇 1945-1989』)

歴史はくり返すのか?

 幅広く語ったつもりでも、歴史とは政治的な主題に終始するもんだな、ということである。

 人間いかに生くべきかを思うことは、文学的な命題である。政治的とは、人間がいかに動かされるか、動かされたか、を考えることであろう。戦前の昭和史はまさしく政治、いや軍事が人間をいかに強引に動かしたかの物語であった。戦後の昭和はそれから脱却し、いかに私たちが自主的に動こうとしてきたかの物語である。

 しかし、これからの日本にまた、むりに人間を動かさねば……という時代がくるやもしれない。そんな予感がする。

(『昭和史 戦後篇 1945-1989』)

このままでは日本は滅びる?

 二十一世紀になったらいっさい贅沢と縁を切り、余計なことをやめる。自然をこれ以上壊さない。現状で止めることです。国民全員が合意しないまでも、九千万人ぐらいは現状維持に賛成なんじゃないかと思うんですね。これでおしまいにしとかんと、この国はまた滅びますね

(『歴史を記録する』、吉村昭氏との対談で)

「あきらめ」がふたたび戦争を招く

 戦争は、ある日突然に天から降ってくるものではない。長い長いわれわれの「知らん顔」の道程の果てに起こるものなんである。

 漱石が『吾輩は猫である』八章でいうように、「すべての大事件の前には必ず小事件が起るものだ。大事件のみを述べて、小事件を逸するのは古来から歴史家の常に陥る弊竇である」、つまりでっかい事件にのみ目をくれているのはみずからが落し穴に落っこちるみたいなもの、日常座臥においておさおさ注意を怠ってはならないのである。そのつどプチンプチンとやらねばならない。

 いくら非戦をとなえようが、それはムダと思ってはいけないのである。そうした「あきらめ」が戦争を招き寄せるものなんである。

(『墨子よみがえる』)

関連書籍

半藤一利『歴史と戦争』

幕末・明治維新からの日本近代化の歩みは、戦争の歴史でもあった。日本民族は世界一優秀だという驕りのもと、無能・無責任なエリートが戦争につきすすみ、メディアはそれを煽り、国民は熱狂した。過ちを繰り返さないために、私たちは歴史に何を学ぶべきなのか。「コチコチの愛国者ほど国を害する者はいない」「戦争の恐ろしさの本質は、非人間的になっていることに気付かないことにある」「日本人は歴史に対する責任というものを持たない民族」――八〇冊以上の著作から厳選した半藤日本史のエッセンス。

半藤一利『靖国神社の緑の隊長』

あの悲惨な戦争のさなかで、こんなにも立派に生きた日本人がいた。 終戦75回目の夏にどうしても次の世代に語り継ぎたい8人の将校・兵士の物語。

半藤一利/池上彰『令和を生きる 平成の失敗を越えて』

平成元年、ベルリンの壁とともに世界秩序も崩壊したことに気づかず、バブルに浮かれていた日本人。バブル崩壊後も、相次ぐ大災害と長きデフレにより、目先の生活を守ることに追われて、志向はさらに内向きに。そして日本は、理念を持たない「戦争ができる国」となり、「デマと差別が溢れる国」となった。その姿は、国際社会から取り残され、無謀な戦争に突き進んだ戦前の日本とあまりに重なる。過たずに済む分岐点はどこだったのか。昭和史研究の泰斗と現代を代表するジャーナリストが、平成の失敗を徹底的に検証した白熱対談。

半藤一利『歴史と人生』

『史記』でも『万葉集』でも、人間の悩みは現代と変わらない。失意のときにどう身を処すか、憂きこと多き日々をどう楽しむか。答えはすべて、歴史に書きこまれている。歴史こそ究極の人間学なのである――敬愛してやまない海舟さん、漱石さん、荷風さん、安吾さんの生き方。昭和史、太平洋戦争史を調べる中で突きつけられた人間の愚かさ、弱さ。天下国家には関係ないが、ハハハと笑えて人生捨てたもんじゃないと思わせてくれるこぼれ話等々。80冊以上の著作から厳選した歴史探偵流・人生の味わい方。

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半藤一利

1930年、東京・向島生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。松本清張、司馬遼太郎らの担当編集者をつとめる。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などをへて作家。「歴史探偵」を名乗り、おもに近現代史に関する著作を発表。著書に『漱石先生ぞな、もし』(正続、文春文庫 新田次郎文学賞)、『ノモンハンの夏』(文春文庫 山本七平賞)など多数。『昭和史1926‐1945』『昭和史 戦後篇1945‐1989』(共に平凡社ライブラリー)で毎日出版文化賞特別賞、2015年、菊池寛賞受賞。

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