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世界の終わりと始まりの不完全な処遇

2018.06.10 公開 ツイート

織守きょうや×秋赤音 スペシャル対談(後半)

作家と弁護士、イラストレーターとシンガー。異なる顔を両立する苦悩。

作家・織守きょうやさんと“歌う絵師”秋赤音さんのコラボとなった最新長編小説『世界の終わりと始まりの不完全な処遇』がついに発売! 後編では、互いに二つの異なる顔を持ちながら作品を世に送り出し続ける苦悩を語る。
写真・ヒャクタロウ

→前編「足し算?引き算?作品の「丁度よいところ」って難しい。」から読む

ネットで見つけるファンの感想や意見

織守きょうや・著 / 秋赤音・イラスト

織守きょうや(以下:織守) 作品を見たファンから、ツイッターなどSNSを使ってメッセージが届いたりしますか?

秋赤音(以下:秋) 私がほとんどTwitterのリプライなどに反応できないことが多いので、直接コメントを貰うことが少ない気がしますね。エゴサーチしてみたら、いろんな意見が見つかるっていう感じです(笑)。自分が表現したかったものが伝わっているか、作品についてどう思われているか、それはやはり気になるので知りたいです。自分の意図とはまったく違った解釈を見つけても面白いですし。

織守 エゴサーチ、しちゃいますよね(笑)。作家仲間と「エゴサーチをするか」という話題になったとき、「15分おきにやってる」っていう方もいて(笑)。

秋 気になりますよね(笑)。

織守 絶対に見ないと決めている鋼の意志がある人以外は、みんなしていますね。私は、自分の作品に関する言葉は、褒められていても、けなされていても、基本的には嬉しく思います。作品は読まれてこそなので、まずは自分の書いた小説を読んでくれたことに感謝というか。

秋 私はイラストを描くとき、画家みたいなアーティスト気質ではなくて、イラストレーターとかデザイナーとして職業的意識のほうが強いんです。だから、どういう風に見られているのか、反応がないとやっていけなくて。ネット上の意見は、ずいぶん参考にしていると思います。

織守 勝手に、秋さんはアーティスト気質の人に違いないと思っていました! 違うんですね。私みたいに思っている人、多いかもしれませんよ。ここで、「どんどん意見をつぶやいてください!」って声を大にして言っておいたほうがいいんじゃないですか。

秋 感想嬉しいです。すべてには反応できないとは思いますが、みなさんぜひ感想ください(笑)。

人気キャラクターアンケート

秋 この小説を読んでいたとき、登場人物の辻宮朔が、私の脳内で新田真剣佑(あらたまっけんゆう)さんで再生されてしまって。朔も描いてみたいなあ、でも真剣佑さんになっちゃうなあ、とか思ってました。

 

織守 カバーに描くなら、主人公とヒロインの二人ということになるんですが、やっぱり私も、朔は機会があったら描いてもらいたい一人でした。作品上の理由というか必要性があって、主人公以外はメインキャラクターが全員美形、という設定ですけど、その中でも特に、あれだけイケメンだって書いているので……。どんな風に描いていただけるか見てみたいです。

秋 小説を読んで、朔のことを嫌いな女子はいないんじゃないか、と思いましたからね。そういえば、小説を読んでいる最中は織守さんのことを男性だと思っていたので、朔みたいなキャラクターを男の人が書けるってすごいな、と違和感みたいなものは抱えていましたね。

織守 担当さんは男性なんですが、朔には全然ピンとこなかったようなんです。むしろ、こういうキャラは読者に嫌われるんじゃないかと気にしていたくらいで。

秋 えっ、なんでですか?

織守 ねえ。私は、好かれるキャラを書いているつもりだったのに。でも、編集部の数名に読んでいただいたら、女性陣は全員、「朔がいい」と……

秋 ですよね。

織守 ですよね(笑)。男性と女性でも違うんだなあと思いました。男性は、朔より、主人公の遠野のこじらせぶりを見て応援したくなるみたいです。

織守きょうや

秋 遠野も好きですよ。出しゃばってくるような登場人物がいないので、みんな好きなんですけどね。でも、人気投票をしたら朔が1位になるんじゃないかなと。そういえば、このお話、続かないんですか? 続きそうだなと思ったんですけど……。

織守 書いたときは、続きを書くことは考えていなかったんですけど……そうですね、もしこの作品がすごく売れたら、そのときは(笑)。続編を書くとしたら過去の話とかを絡めて、朔はきっとメインになると思います。

秋 本って、今はどうしたら売れるんでしょうね。私はほとんどネットで宣伝していて、イベントに出て本を売りますよ、ってTwitterでつぶやいたら、その「いいね」の数はかなり参考になります。反応が多ければ多いほど人が来てくれますし。私はネット生まれのネット育ちだから、ネット以外の宣伝方法を知らないんですが。外に出ないし。情報はほとんどネットで得てます。

織守 ネットは口コミ情報を共有しやすい場所ですよね。同じ人と共有を繰り返していくと、それは信頼関係になるので、フォローしている人が絶賛していたら、とりあえず買ってみようかっていう気にはなりますね。

秋 私も誰かが面白いって言っていたらチェックしておいて、あとでamazonで買うっていう流れなんですけれど……Twitterなどの宣伝では、わかりやすく画像や動画が貼ってあるととてもありがたいですね。そこで買うか買わないか、興味があるかないかをだいたい判断できるので。判断がつかないままだと、URL先に飛んでいって情報を見るということが面倒なときもありますし。

織守 秋さんにとっては、パッとみてわかるかどうかが大事なんですね。そういう人、多いかもしれないですね。ネットの情報、レビューなんかを参考にする人は多いですけど……

秋 「本の状態が悪い、角が折れていたから星2」なんてレビューを見ると、内容の評価を書いてほしいな、と思います。

織守 ああ、「発送が迅速だったから星5」とか(笑)。内容についてのレビューでも、感想って人それぞれで……たとえば同じ本について、「主人公に共感しました」という意見と、「主人公にまったく共感できなかった」という意見が並んでいたりしますよね。当たり前ですけど、人それぞれ好みがあるので、ある人にとってはつまらなかった本も、別の人にはおもしろい、ということもあります。信頼関係のある人のものなら、感想も参考になりますけど、レビューだけを見て決めないで、気になった本は自分で選んで手に取ってみる……ということもしてほしいなと思います。

日本の法廷で『異議あり!』なんて言わない

秋 小説家と弁護士の兼業って、想像するだけで大変そうですけれど、実際はいかがですか。

織守 大変は大変ですけど、私に限らず、兼業作家は意外と多いですから。専門職でも、研究者と作家とか、医者と作家とか。

 今まで弁護士をテーマにした小説は書いていないんですか?

織守 これまで2冊出しています。それを読んでくださった色んな出版社さんからリーガルミステリの依頼が来たんですけど、弁護士だからって日常にごろごろネタが転がっているわけじゃないんです(笑)。むしろ、実際にあったことは書けないので……。「そんなに次々とリーガルミステリのネタばっかり思いつかないよう」と頭を抱えていたら、この本の担当さんは、私が書きたいものを書いていいと言ってくださったので、吸血鬼ものになりました(笑)。

秋 まさかの吸血鬼もの(笑)。私は、リーガルものというと、ドラマの「リーガル・ハイ」しかイメージにないんですけれど、あれはやっぱり実際の弁護士のリアルとは違うものなんですか?

織守 「リーガル・ハイ」、面白かったですよ。そこまでやったら退廷させられちゃうんじゃないの、と思うようなシーンもありましたけど、でも、あくまでフィクションですし、私は気にならないですね。ドラマでも小説でも、細々としたことを全部説明するわけにはいかないじゃないですか。特別な経緯をたどって、珍しいことが起きてしまうこともあるわけですし。

秋 可能性はゼロじゃない、と。

織守 そう、それでいいと思うんです。そもそも、日本の法廷で「異議あり!」なんて言わないんですよ(笑)。でも言っちゃダメというわけではないし、そういう人がいてもいい。

秋 「異議あり!」って言わないんですか。「裁判長!」は?

織守 それは……言いますね(笑)。人にもよりますけど。でももし「異議あり!」っていうのを実際に法廷で聞いたら、「この人、今、『異議あり!』って言った?」とザワッとするでしょうね。

秋 言わないんだ(笑)。

織守 ただ、結局はエンターテイメントなので、おもしろければいいじゃないかと思っています、当たり前のことですが。ところで、秋さんはもうシンガーとしての活動はされていないんですか?

作家と弁護士、イラストレーターとシンガー

秋赤音

秋 やってません。もともと、心身ともに削るような絶叫系な歌い方だったのもあって、歌うのって疲れるし大変だなあと思っていて……(苦笑)。あと、両方やることで、どちらも活動が中途半端になってしまいそうだったので、イラストに集中することにしました。

織守 でも、歌ってほしいというリクエストはあるんじゃないですか?

秋 そうですね。度々そう言ってもらえることがあるんですが、先日もあるイベントに伺ったら、ファンの方が「中学生の頃から聴いてました。もう歌わないんですか」って熱烈に言ってくれて心動かされました。でも、大掛かりな、たくさん人がいるスタジオでレコーディングしたりするのは向いてないんです。もっと、学生のときみたいに自分の部屋で歌って、こぢんまりとやれたらいいかなって。

織守 違うことを二つ同時というのは、しんどいですよね。私も常にしんどいなあと思っています(笑)。少しでもいいから毎日書くように心がけていますが、疲れて帰ってきたときは書く気が起きないですし、頑張っても4行書くのがやっと……とか。弁護士は個人で仕事をとってきてばりばりやれば収入は上がるんですが、私は、事務所の仕事が終わったら帰宅して小説を書いています。

秋 めちゃめちゃ大変そう……。どちらか一本に絞ろうとは思わないんですか?

織守 なにしろ学生の頃から小説が書きたかったんです。でも、働かずに小説ばかり書いているわけにもいかないし、ちゃんと仕事をして、社会での立場と収入を手に入れないといけないな、と思って……自分に向いている、やれそうな仕事は何かなと考えて、大学三年生のときに弁護士になることにしたんです。実際になってみて、弁護士の仕事は自分に向いているなと感じていますが、言ってみれば、小説を書く環境を作るために弁護士になったようなところもあるので、どちらか一つという発想ではないんですね。ニコ動で観ていた者としては、秋さんにももう一度、“歌う絵師”として活動してほしいです。あのキャッチコピーはどなたが考えたんですか。

秋 “歌う絵師”のキャッチコピーはニコ動時代に、人知れずついてました。でも、その前は、“絶叫シンデレラ”って言われてたんですよ。

織守 あ、それ見たことある!(笑)。

秋 ライブイベントなどで「“絶叫シンデレラ”の秋赤音さんです」なんて紹介されるわけですよ。自分で名乗ってるわけではないのに。それがもうすごく恥ずかしくて(笑)。まあ、いずれは歌も復活できたらと思います。

織守 待ってる人、たくさんいると思います。ライブで歌う可能性も?

秋 生でやることは……人前で歌わないことを条件つきでの復活かもですね。なにしろ大勢の人の前に出ることが本当に向いてない、苦手なので(笑)。

織守 (笑)。

今後の活動予定

秋 今後はしばらくイラストレーターとしてやっていくと思います。ただ、実は歌うことは、やろうと思えばいつでも再開できるように音源のストックは増やしているんです。

織守 タイミングが来たら、突然、どこかに公開するかもしれないっていう?

秋 そうです。ウェブでもいいし、自主制作CDでも。決まっている予定としては、8月末に浅草で展示会に参加します。ぜひいらしてください。

織守 行きます! 私も8月末に、東京創元社さんから書下ろしの単行本『ただし、無音に限り』が刊行予定です。また、カドカワさんで連作怪談の連載をしているので、それが来年の早いうちに出せるんじゃないかと思います。ミリオンセラーを連発でもしない限りは、このままずっと作家と弁護士の二足の草鞋を履いていると思いますよ(笑)。

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