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言ってはいけない宇宙論

2018.03.03 更新

連載その5

ところでカミオカンデが見つけるはずの陽子崩壊はどうなった?小谷太郎

  2つのノーベル物理学賞に寄与した素粒子実験装置カミオカンデが、実は当初の目的「陽子崩壊の観測」を果たせていないのはなぜ? 元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』が発売1週間で重版となり、反響を呼んでいます。

 タブー1 「陽子崩壊説」を紹介する連載第5回。一時は故障を疑われていたカミオカンデ。しかしニュートリノ天文学の始まりに寄与し、カミオカンデの快進撃が始まります。でもそもそもカミオカンデは何のために作られたのだったか……。

iStock.com/alex-mit

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うまいこと変更された「ンデ」の意味

 超新星1987Aからのニュートリノを見事に検出したカミオカンデには、予算も振る舞われ、後継機の建設も始まります。

 水タンクの容量を5万トンに増やし、光センサーも1万3000本に増量したスーパーカミオカンデが1996年に稼働を開始しました。

 ただしスーパーカミオカンデの「ンデ」は、「核子崩壊実験(Nucleon Decay Experiment)」の略から少々変更され、「ニュートリノ検出実験(Neutrino Detection Experiment)」の意味が付け加えられました。なかなかうまいですね。

 カミオカンデとスーパーカミオカンデはどちらもノーベル物理学賞を当てています。大変に性能のよいノーベル賞生産装置です。

 超新星1987Aからのニュートリノは、カミオカンデを作った小柴昌俊東大名誉教授(1926-)に2002年のノーベル物理学賞をもたらしました。別のニュートリノ検出器の開発者レイモンド・デイヴィス(1914-2006)との共同受賞です。

 スーパーカミオカンデはニュートリノ振動という現象を捉え、その功績で2015年に梶田隆章東大教授(1959-)にノーベル物理学賞をもたらしました。

ニュートリノ振動

 ニュートリノには電子ニュートリノ、ミュー・ニュートリノ、タウ・ニュートリノの3種があります。

 太陽の核融合反応で、あるいは宇宙線と大気との反応で、あるいは原子炉の核反応で、電子ニュートリノが作られてはほぼ光速で飛び去っています。この電子ニュートリノは飛んでいる最中にミュー・ニュートリノに、またわずかな割合ですがタウ・ニュートリノに変化します。

 これは「ニュートリノ振動」という現象で、ニュートリノに質量がある証拠となります。ニュートリノが質量ゼロでない場合だけ、ニュートリノ振動が起きるからです。

 電子ニュートリノとミュー・ニュートリノではカミオカンデのような検出装置で検出できる割合がちがいます。電子ニュートリノが飛んでいる途中でミュー・ニュートリノに変化すると、検出装置で捉えることができなくなり、検出される数が減ってしまいます。

 この現象は超新星1987Aより前から知られていたのですが、ニュートリノ振動によるものなのか、別の物理現象なのか、はたまたカミオカンデの検出能力に問題があるのか、諸説あって定まらなかったのです。

 けれども1987Aからのニュートリノ検出に成功したことで、検出装置に問題がなく、原因がニュートリノ側にあることがはっきりしました。

 そして正しいのがニュートリノ振動説であることを決めたのがスーパーカミオカンデだったのです。これが梶田教授のノーベル賞受賞理由です。

ところで陽子崩壊はどうなった?

 ニュートリノ研究が二人もノーベル賞受賞者を輩出すると、まるでカミオカンデとスーパーカミオカンデがニュートリノ検出用に建造されたかのような気がしてきますが、しかしいったい最初の目的の陽子崩壊はどうなったのでしょうか

 現在では、陽子の寿命が10^30年~10^34年で、かつニュートリノに質量はないという、最初の大統一理論の予想は誤りだったと考えられています。

 スーパーカミオカンデはその高い能力で陽子寿命を測定し、10^34年程度以上という値を出しています。

 それでは大統一理論そのものが誤りなのかというと、そうともいいきれません。大統一理論に「超対称性」を持ち込む、「ヒッグス機構」を加える、等々の修正をほどこすことで、理論を生き延びさせることができます(が、ここで詳しく紹介できないのが残念です)。

 そうやって修正を加えた大統一理論の新たな予測では、陽子の寿命はさらに桁が増え、スーパーカミオカンデの次のハイパーカミオカンデを使わないと、検証は難しくなっています。つまり大統一理論は否定も実証もできない状態がさらにしばらく続くと思われます。

 素粒子物理学の理論はああいえばこういう、柔軟というか、なかなかにしぶといものなのです。

 

(タブー1 了)

元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』好評発売中!

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2018年1月刊行『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』の最新情報をお知らせします。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。最新刊『宇宙はどこまでわかっているのか』ほか、『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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