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今、新聞をどう読むか?

2017.04.25 更新 ツイート

最終回

時間と手間をかけて作られた新聞を今度もどんどん利用しよう石戸諭/プチ鹿島


『芸人式新聞の読み方』を上梓したばかりの時事芸人、プチ鹿島さんと元毎日新聞記者で、現在は、BuzzFeed JAPANで活躍する石戸諭さんの新聞の読み方論。新聞は古いメディアだと言われますが、新聞が果たしてきた役割、培ってきたものの重要性は今後も変わらないのかもしれません。最終回で二人が見出したものとは?
(構成:福田フクスケ 撮影:菊岡俊子)

前提や文脈が共有されないネット時代の弊害

鹿島 どこの新聞も、デジタル版に力を入れていますよね。当初は紙の記事を転載しているだけだったのが、今は第一報をどんどんネット配信するようになっていて、時代の変わり目を感じます。

石戸 今のメディア環境にあわせて、変わっていかざるを得ないでしょう。新聞記事は、ネットでも存在感を示していますからね。

鹿島 数年前まで、「新聞の時代は終わる」と言われていて、確かに宅配で購読する人は減っているでしょうが、デジタル版やスマホアプリ、SNSでのシェアなどで、何かしらの記事はみんな読んでいますからね。

石戸 それが支えになっているのは間違いない現実だと思います。新聞がここから先、企業やメディアとしてどうなっていくかはわかりませんが、新聞が果たしてきた機能や役割自体は、この先も絶対に残ると思う。僕らのようなネットメディアにしろ、新しい媒体が出てくるにしろ、どんな形であれ“新聞で培われてきたもの”は必ず役に立つはずです。

鹿島 ジャーナリズムの基礎を叩き込まれ、鍛えられた人たちが作っているものを、「旧メディア」「マスゴミ」と叩くのは簡単だけど、せっかくならあるものは読めばいいじゃないかと僕は思うんですよ。

石戸 そう思います。これだけ記者を集めて、時間と手間ひまをかけて、世の中の1日の動きをまとめてパッケージするビジネスを、今から立ち上げようなんて思うネット企業は出てこないでしょうから。

鹿島 新聞とネットメディア、両方を経験してみて温度差を感じることってありますか?

石戸 今いる『BuzzFeed Japan』でも、基本的にやっていることは一緒ですね。新聞で通用しないような、甘い記事を書いているつもりは一切ありません。読者の反応がダイレクトに伝わってくるのは紙の新聞とは違うところですが、それは新聞記事をウェブに配信しても同じことです。

ただ、鹿島さんが本で書かれていたように、朝刊紙もスポーツ紙もタブロイド紙も、同じウェブ上のニュースとして配信されると、どれもフラットに読まれてしまうことによる弊害は出てきていますね。

鹿島 『スポーツ報知』が、当時高校野球の選手だったオコエ瑠偉のことを、「野性味を全開させた」「甲子園がサバンナと化した」「獲物のように追いかけた」などと表現し、ネットで人種差別ではないかと批判された件ですね。

あれは、彼がもともとチームメイトから“チーター”という愛称で呼ばれていたことを前提とした表現で、スポーツ新聞の読者なら知っていたことなんですよ。ただ、それを知らずにあの記事だけをウェブで読めば、確かに人種差別と思われても仕方がなかった。

石戸 これまでスポーツ紙は、決まった読者を想定して作られていたところがあって、ウェブで読む読者は想定されていなかったから、ああいう反応が起きるのはしごく当然だと思います。特にジェンダーや人種のような差別につながるセンシティブな話題に関わるときの心構えは、時代に合わせて変えていかないといけないでしょうね。

鹿島 スポーツ新聞って文脈をわかって読んでいる人が多いから、ある意味、読者のリテラシーが高い媒体とも言えるんですよ。

石戸 プロ野球のキャンプ情報とかも明らかに面白おかしく書かれてるけど、いちいち「本当かな」と疑ったり、「どうでもいいだろ」と怒ったりしながら読まないですからね(笑)。

鹿島 キャンプ情報といっても、基本的に練習しかしてないんだから、本来は伝えることってほとんどないんですよ。でも書かないと記事が作れないから、たとえば2月3日の節分の日には、どの球団が誰に豆をまかせるかとか、そういうどうでもいいけど妙に味わい深い記事が載る(笑)。あれも話題を作ってわざと発信させているわけで、それをわかって読むとおもしろいんですけど。

石戸 そういう前提や文脈を共有している読者が読むのと、前提や文脈が何もないウェブで読まれるのは、やっぱり全然違いますよ。しかも、ウェブはその一記事だけを切り取ってバラで読まれるので、不用意な表現には慎重になったほうがいい。先ほど(第3回参照)の“おにぎり女子マネ”の話とかも、今まではそれで成り立っていたけど、こういうのはもう昭和の感覚じゃない?  ということには敏感になるべきでしょうね。

 

週刊誌やタブロイド紙がもてはやされることに警戒せよ

鹿島 紙とウェブの違いということでいうと、2014年のソチ五輪のとき、『日刊ゲンダイ』がスノーボードを「ガキの遊び」と書いたんですよ。でも、ウェブ版の記事を見ると、そこだけ「子供の遊び」に変更されていて、ちょっとだけ配慮のあとが伺えた。『ゲンダイ』をお金を出して買ってくれるようなおじさん読者には、「ガキの遊び」と書いた方が溜飲が下げてもらえるけど、ウェブではさすがに……ということだったんでしょう。しかも、その記事の数日後にハーフパイプで日本がメダルを獲ったら、「かつてガキの遊びと言われた時代があったが……」と持ち上げていました。いや、ガキの遊びって書いたのはゲンダイ師匠ご自分です! って。

石戸 味わい深いですねえ(笑)。大好きです、そういう楽しみ方。

鹿島 『ゲンダイ』って、キツイことばっかり書いているので最初は読むのが正直しんどかったんですが、毎日怒ってる“ゲンダイ師匠”というおじさんだと思いながら読んでいたら、だんだんかわいく思えてきちゃって。でも、過激だった『ゲンダイ』が、いまや時代に合ってきているなと思うこともある。『ゲンダイ』は、安倍政権のことをよく「ペテン政権」と批判するんですが、今年の1月の紙面を調べてみたら、一面の見出しだけで5回くらい「ペテン」って言葉が出てきました。

石戸 今、なかなか見ない言葉ですよ、「ペテン」って(笑)。

鹿島 そう、すごい言葉遣いだなあ、と思うんだけど、確かに共謀罪をテロ等準備罪と言い換えるのは、『ゲンダイ』的に言えば「ペテン」だよな、と。かつては「ゲンダイ師匠がまた怒ってるよ」とネタにできたけど、最近は「そうだよな、そりゃゲンダイ師匠も怒るよな」と思うようになってきまして。

石戸 これまで『ゲンダイ』はまあ読まなかったですね。とても失礼で、申し訳ないですけど、おっさんが駅で買って車内の網棚に置いて帰るイメージでした。

鹿島 いや、わかりますよ。クセが強くて正直とっつきにくいですから。以前、『ゲンダイ』の中の人に会う機会があって、「なんであんなに過激な見出しで煽るんですか?」と聞いたら、電車で『ゲンダイ』を読んでる人の見出しが窓ガラスに映って、隣の人がほほう、と思ってくれたらそれでいいんだ、とおっしゃっていて。それって、まさに学生運動の時代の“檄文”じゃないですか。そのよくも悪くも一貫したスタンスが、今の時代にあらためて響いてきてるのかな、と思ったり。

石戸 それがいい時代なのかというと、いったん寝かして、留保しながら考えたいですね。

鹿島 本当ですよ。「さすが文春砲」とか「ゲンダイよく言ってくれた」とか思うのはいいんですが、本来、もっと真ん中にいるべきキャラはいるだろうとも思う。

石戸 新聞よりも週刊誌のスクープ報道が力を持ってきたとか言われることは多いですね。時代の流れもあるので、これもじっくりと留保して考えたいです。週刊誌は好きでよく読んでいますが、本当に力が入ったすごいスクープ、社会を動かしたスクープはあります。でも、評価を決めているのは、芸能関連のスクープが中心になっているような気がします。

鹿島 そうなんですよね。昔はもっと志の高いスクープを狙っていたはずなのに、かつて『噂の真相』がやっていたようなゴシップを、今は週刊誌がすべて引き受けている感じがします。

石戸 それはそれで一つのジャンルとして成り立っていますが、週刊誌報道の評価が特定のジャンルに偏ってしまうと、どうなのかなぁと思ってしまう。

鹿島 でもそう言うと、「じゃあ、あなたは不倫を肯定するんですか?」と突きつけられて、何も言い返せない息苦しさがあるというか。

石戸 今は、石原慎太郎さんの都知事時代の問題がホットな話題になってますね。当時から『サンデー毎日』が追及していたのに、あまり問題が広がらなかった印象があります。鹿島さんに学んで、なんで今なんだろう? とちょっと疑問をもちながら読んでいますよ。

鹿島 税金を使って豪華な出張に行ったり、都の事業で四男を重用したり、舛添さんなんかよりもよっぽど問題になることをしていたのに。権力がなくなっておじいちゃんになったから、今ならもう叩いていい、というのが透けて見える。

石戸 どっちが善、どっちが悪みたいな二項対立に落とし込むと重要な問題をこぼしてしまうんですよね。読み手として、バランス感覚を大事にしたい。

鹿島 もちろん問題があるなら追及するべきだけど、それを巧みに利用しようとしている小池百合子に、メディアが安易に乗っかってしまうのはちょっと下品じゃないか? とも思うんですよね。やっぱり新聞には、これからもがんばってもらわないと。
(おわり)

*プチ鹿島さんの下世話で面白く、かつ鋭い新聞の読み方は、『芸人式新聞の読み方』でさらに堪能してください。

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石戸諭

1984年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。大学卒業後、2006年に毎日新聞入社。岡山支局、大阪社会部、東京デジタル報道センター。その後、BuzzFeed Japanを経て、独立。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)がある。

プチ鹿島

時事芸人。1970年長野県生まれ。時事ネタと見立てを得意とする芸風で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等で活躍。著書に『芸人式新聞の読み方』、『教養としてのプロレス』、『芸人「幸福論」』などがある。

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