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今、新聞をどう読むか?

2017.04.16 更新 ツイート

第2回

『東スポ』の実力を見くびってはいけない石戸諭/プチ鹿島


新聞をキャラづけしたり、社説を「大御所の師匠からの言葉」にたとえたり、一気に新聞がおもしろくなる読み方を教えてくれるプチ鹿島さんの『芸人式新聞の読み方』。実際の新聞記者はその読み方をどう思うのでしょうか? 元毎日新聞記者で、現在はBuzzFeed JAPANで活躍する(※編集部追記:その後、2018年4月に独立されています)石戸諭さんと語り合いました。全4回でお届けします。
(構成:福田フクスケ 撮影:菊岡俊子)

『東スポ』に学ぶ“ゴシップを寝かせておく”姿勢

鹿島 “フェイクニュース”や“ポスト真実”といった言葉が出てきて、真偽不明の情報が錯綜する世の中では、まず新聞から読んだ方がいいと僕は思っています。その上で僕は、スポーツ紙やタブロイド紙などの、ドライブがかかった媒体を読むのも大好きなんですよ。

石戸 僕は今、『BuzzFeed Japan』で元『東スポ』記者と一緒に仕事をしているんですが、一緒に働いてみて『東スポ』に対する印象ががらりと変わりました。一つのジャンルをしっかり築いている、ということと、鹿島さんも本に書かれている通り、実際は取材をかなりしっかりしてるな、と。

鹿島 シビアな事件が起きると、『東スポ』はちゃんと真面目に書くんですよ。たとえば、今年に入って起きた清水富美加の騒動についても、スポーツ各紙はどうしても事務所側の言い分を書くわけです。『サンスポ』が「清水の父親に5000万円の借金があり、それを教団が肩代わりした可能性がある」と報じたのは、どう考えても清水側にネガティブな情報ですよね。すると、今度は『東スポ』が借金5000万円の根拠を調査して、「根拠はない」と事務所による情報戦が行われていることを報じました。

石戸 鹿島さんが本に書かれていた、野球賭博報道のときに『東スポ』が立浪和義に直撃インタビューした流れも、見事でしたよね。すごく面白く読んだ。これまでスポーツ紙やタブロイド紙を積極的に見ることってなかったんですが、たまにネットでシェアされるとおもしろい記事がひっかかってくる。ネットのいいところは、こうした情報がフラットに流れてきて見られるようになったことですね。

鹿島 他にも、CHAGE&ASKAのASKAが薬物で捕まる直前に、『週刊文春』が実名で報道したんですが、実はその一週間前に『東スポ』が一面でイニシャルとシルエットを使って報じていたんです。もちろんジャーナリズム的には、きちんと裏を取ってから実名で報じた『文春』が正しいわけですが、一方で、『東スポ』が一面で報じるということは、まったく根も葉もない噂ではなく、それなりに業界で大きく言われてることは事実なんだなということがわかる。それが『東スポ』の読み方というか、芸風なんですよ。

石戸 見出しの付け方や選び方にも独特の勢いとパワーがあって、ネットとの相性はいいと思うんですよね。なるべくキャッチーにしようとする姿勢は、一般紙も学んだほうがいいのではと思うくらいです。これまでスルーしてきたけど、もう少し勉強しておけばよかったなって思っています(笑)。

鹿島 意識の高い人は「ソースは東スポ(笑)」とバカにするけど、そういう人に限ってちゃんと『東スポ』を読んでいない。ずっと読んでいると、後になって「そういえばあれ、『東スポ』が書いてたな」と思い当たることがあったりするんです。

この間も、安倍首相とトランプ大統領が会談したとき、安倍さんが「私は朝日新聞に勝った」と言ったら、トランプが「俺も(ニューヨーク・タイムズに)勝った」と意気投合したと、『産経新聞』が報じていたじゃないですか。安倍さんが言う「朝日に勝った」とは何のことだろうと考えると、2014年の「吉田調書」を巡る報道のことではないかと勘繰りたくなるんです。

石戸 福島第一原発の吉田所長が政府事故調に語った「吉田調書」の内容を、『朝日新聞』が入手したスクープでしたね。その後、『産経新聞』も「吉田調書」を入手して、『朝日』のスクープは間違っていると批判していました。結局、政府が「吉田調書」を公開し、『朝日新聞』は記事の誤りを謝罪会見することになるというのが、一連の流れですね。

鹿島 当時、実は『東スポ』が「産経に吉田調書をリークしたのは政府だ」という説を書いていました。真偽不明ですが、とりあえず僕は覚えておいたんです。すると今回、安倍さんが「朝日に勝った」と言ったということは、もしかして……とあのときの『東スポ』の説がつながってくる。これを僕は、“ゴシップを寝かせておく”と呼んでるんですけど(笑)。

石戸 今回の安倍首相の発言は、選挙戦など全般も指しているのかな、と僕は読みました。

鹿島 今はすぐに白か黒かをはっきりすることが求められる風潮ですが、僕は“グレーのまま寝かせる”ことって大事だと思うんです。『東スポ』が報じたゴシップにすぐ飛びついて、「リークしたのは官邸なんだ!」「いや、そんなはずないだろ」と白か黒か決めようとするんじゃなくて、グレーのまま寝かせておく。後になって「そういえば、心当たりがあるな」と答え合わせをしたほうがおもしろいじゃないですか。


自分なりに仮説を立てて読む大切さ

石戸 “ゴシップを寝かせておく”って、先ほど(第1回参照)話した、“仮説を立てて読む”力を鍛えるってことだと思うんですよね。想像力をフルに使って見立てをするというか。鹿島さんが本で書いていた、2014年のオバマ大統領(当時)来日時の「すきやばし次郎」VS「銀座 久兵衛」の見立てもおもしろかった。

鹿島 プロの記者の方は、仮説を実際に取材によって検証していくわけですが、僕がしているのは今出ている新聞を読むだけ。それでも、これだけの見立てができるよ、ということが言いたくてこの本を書いたんです。

石戸 あと、『Number Web』の連載「月刊スポーツ新聞時評」で書かれていた、稀勢の里の横綱昇進に関するコラムも見事な検証だなと思いましたね。

鹿島 今年の初場所が始まる前は、稀勢の里の綱とり場所だなんて誰も言ってなかったんです。横審の委員長も、昨年11月の九州場所のときは、「来場所で優勝しても、もろ手を挙げて賛成とはならない」と、横綱昇進はないようなことを言っていた。それが、スポーツ新聞を初日から読み返していくと、13日目辺りから昇進ムードの報道が高まるにつれて、横審の委員長の態度がふらふらとブレてくるんですね。

石戸 僕も一相撲ファンとして、今回の稀勢の里の横綱昇進問題は注視していたんですが、“横審はムードに押されて稀勢の里の横綱昇進を決めたのではないか?”という鹿島さんの見立てを裏付けるかのように、『朝日新聞』にも「昇進決定のプロセスは甘いのでは」と書かれていましたね。

鹿島 要は、優勝は1回しかしてないけど、昨年の年間最多勝を獲得しているから、その合わせ技で昇進の基準を満たしているというわけですが、だったら場所前から年間最多勝というアドバンテージがあると言っておいたほうがよかったのでは? と思っちゃいますよね。

石戸 鹿島さんは、スポーツ紙をちゃんと読んでるからこそ、「横審の姿勢がブレてんじゃないの?」という仮説が立てられたわけですね。

鹿島 だって、「来場所で優勝しても(昇進に)賛成とはならない」って言ってた横審の委員長が、千秋楽で白鵬に負けて13勝2敗でも「もう横綱昇進でいい」というふうに変わっていった。批判精神というより、単なる野次馬精神として「こいつ、いつから変わったんだろう」って気になるじゃないですか(笑)。

石戸 素晴らしいと思いました。あれだけでひとつの時評コンテンツとして成り立っているなと。実際に、その後『朝日新聞』も元大関の小錦さんなどに取材して侃々諤々の議論につながりましたし。

鹿島 小錦は達観してましたね。「プロの目から見ても甘いと思うけど、いいんだよ」と語り、この基準なら小錦も横綱になれたのではと問われても、「それは余計なことだよ」って。

石戸 古くは高見山の頃から、外国人力士をめぐる論争はあったんでしょうね。その後、小錦がいて、若貴と名勝負を繰り広げた曙が登場する……。

時代の荒波に揉まれていた小錦さんだからこその発言だなと思いました。

いずれにしろ、鹿島さんのように「横審、ブレてんじゃないの?」と仮説を立てて、やいのやいのと検証するようなプロセスが、今の世の中には必要だと思うんです。「稀勢の里の横綱昇進は是か否か」みたいに正面からの議論しかないと、途端に窮屈になっちゃう。

鹿島 そうそう。それよりも、横審委員長のブレっぷりを笑いつつ、その人の発言の移り変わりに絞ったほうがいいなと思って。

石戸 ユーモラスでありながら、重要な問題も提起しているのがいいですね。小説と批評の関係と同じように、新聞やメディアも、プロの読み手がいて初めて活性化すると思うんですが、できる人は限られますよね。鹿島さんは重要な役割を担っていると思うんです。新聞をちゃんと読んでくれている人がいるんだ、こういう風に読むこともできるんだ、読むことでこんなことがわかるんだ、ということを示す人がいてくれるのは、ありがたいですよ。
(第3回につづく。公開は4月20日の予定です)

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石戸諭

1984年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。大学卒業後、2006年に毎日新聞入社。岡山支局、大阪社会部、東京デジタル報道センター。その後、BuzzFeed Japanを経て、独立。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)がある。

プチ鹿島

時事芸人。1970年長野県生まれ。時事ネタと見立てを得意とする芸風で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等で活躍。著書に『芸人式新聞の読み方』、『教養としてのプロレス』、『芸人「幸福論」』などがある。

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