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ツキをものにする極意

2015.06.30 公開 ツイート

『運を支配する』第5回

崖っぷちに強い人に
ツキは舞い込む 桜井章一/藤田晋

 

 

チャンスをとらえて勝つのではない。不利な状況で勝ちをとりにいく。その経験を重ねると、流れが舞い込む体質に変わるーー

勝負所

 


「不利な状況に強い人」が運を手にするーーー桜井章一


 勝負強いといわれる人には、ある共通する特徴がある。それは「勝負所に強い」ということだ。勝負所というと、多くの人はチャンスのことだと思うかもしれない。だが、チャンスと勝負所はまるっきり違う。本当の勝負所というのは、ピンチの中のピンチ、圧倒的に不利な状況のときにこそ訪れる。麻雀でいうと、自分以外の3人がリーチしている状態だ。相手3人からリーチされてもひるむことなく攻め続け、それをしのいで状況をひっくり返す。そのときの達成感は、普通の「勝ち」の中では決して味わえないものだ。

 単にチャンスをとらえ、ここぞとばかり攻めていくのは、私にとっては別に勝負所ではない。やってくるチャンスをものにして勝つことは、私にとっては単純な足し算のようで、あまり面白味がないのだ。

 チャンスをとらえて勝つなんて甘い。真剣勝負をしていた頃の私はそう思っていた。好んで自分を厳しい状況に追い込み、そこから逆転して勝利をものにする。切所(せっしょ)をあえて好むような精神がなければ、命がけの勝負などする資格はないと心底思っていたのだ。

「相手が3、こちらが7で有利だから勝負に出よう」というのはチャンスであって、もちろん勝負所ではない。「相手が9、こちらが1という極めて不利な状況」のときこそが勝負所なのだ。

 なぜか? そんな絶体絶命の状況には、一歩後ろに足を引くだけで奈落に落ちてしまうリスクやハンデが無数に潜んでいるからだ。そうであれば、勝負所では全身全霊で立ち向かっていかなくてはいけない。全身全霊というのは、持てる力を100%出し尽くすことだ。

 通常、人は真剣にやっているつもりでも、100%フルの力は出ていないものだ。よくてせいぜい70%とか80%といったところだろうか。

 勝負所を越えようとするギリギリの力。それは普段なら40キロしか持てない人が、80キロ持てるというような火事場の馬鹿力的なものだ。

 もっとも勝負所をしのぐには、圧倒的に不利な状況をひっくり返すだけの力を持っていなければどうにもならない。力がなければ持てる力を100%出せても、とても太刀打ちできない。

 崖っぷちで発揮される本質的な勝負力というものは、普段から不利な状況でも逃げずに対処するという姿勢で生きていないと鍛えられない。

 苦境にあれば、むしろ好んでその中に飛び込んでいく。そのほうがいろいろな工夫をしたり、やるべきことがたくさんあって私には面白いのである。もちろんそこには「面倒だな」という思いも紙一重であるが、それを覆(くつがえ)したり、克服したときの快感は何ものにも代えがたいのだ。そうやって私は勝負所をしのぐ力を磨いたのである。

 たとえチャンスをつかむのがうまくても、勝負所で逃げの態勢になってしまう人は、最終的には勝つことができない。持続的な勝ち運に恵まれるのは結局、勝負所に強い人なのだ。

 


あらゆる手段で自分を追い込む ーーー藤田 晋


 僕の経営を評して「藤田は本当に勝負強い」といってくださる方がけっこういますが、それは大変ありがたいことです。確かに競合している会社からしてみれば、頭脳明晰(めいせき)な社長がいるよりも、やたら勝負強い社長がいるほうが嫌でしょう。

 ネットバブルの絶頂期に上場を間に合わせたとき、上場後赤字続きで収益構造的に絶対に黒字化できないといわれながら黒字転換を遂げたとき、利益を出すのが難しいといわれたアメーバブログを大規模なメディアに育て上げたとき、スマホの普及に疑問の声が強かった時期にいち早くパソコンやガラケーからスマホ向けに事業構造をシフトしたとき等々、大きな勝負では必ず勝ってきました。もちろんそれらによって、結果的に会社も大きく飛躍させています。17年間会社をやってきましたが、こうした大きな勝負所というのは毎年くるわけではなく、数年に1回あるかどうかくらいの感じです。

 若い人から、「何をモチベーションに仕事をしているんですか?」という質問をよくされます。その人たちが意識的にしろ無意識的にしろ期待している答えは、「大きな夢を持っているから」というニュアンスのものだと思います。だとすれば、そこは勘違いをしています。

 なぜなら現実に「ここぞ」という勝負所で勝つことができているのは、自分で自分を追い込んでいるからです。外に向かって目標を掲げ、投資家をはじめ大勢の人を巻き込み、後戻りできない状況をつくっているからです。

 その最中(さなか)にいるときは、下から火であぶられているような感じです。「ここで上へ登る足を止めたら焼け死ぬ」という状況を自らつくっているのです。

 こういうときに立てる目標というのは、自分の力をフルに発揮すればギリギリ勝てるという高さに設定されたものです。それが達成されたら、またギリギリの高さの目標を立てる。ベンチャー系の経営者は、そんな感じで目標を立てていくタイプが少なくありません。もちろん中には会社を上場させて金持ちになりたいといったわかりやすい目標を持って起業する人もいますが、そういう人はある程度の資産を手にしたら、そこで達成した気分になってしまって長続きしません。

 スマホ向けに事業をすべて入れ替えたときも、失敗すればそれまで築いてきたものを大半失うという大きなリスクを背負いながらの勝負でした。すなわち大きな勝負所というのは、絶えずそれ相応のリスクを伴っているのです。

 僕は、人間は基本的に怠惰だと思っています。ですから100%力を出して頑張ろうと思っても、普段の追い込まれていない状況の中では、実際に100%なんて出せるものではありません。本当に大きな勝負所では、持てる力を100%出しきらないと勝てませんが、それには結局、言い訳ができないギリギリの状況に自分を追い込むしかないのです。

 サッカーでもJ1の優勝争いの試合より、これで負けたらJ2に降格するという試合のほうが見ていて面白いものです。それこそ崖っぷちのところで死にもの狂いで戦っているので選手の動きがよく、見応えもあります。シーズン中もこのくらい必死で頑張っていれば降格危機はなかっただろうに、と思わずにはいられないほどです。

 何もいわず黙って実行してみせる「不言実行」は格好よく見えますが、失敗したときに恥をかかずに済むため、逃げ道を残せることになります。

 組織においては自分を追い込み、会社全体も巻き込む「有言実行」のほうが結果を出せると考えています。ですから僕は、何か目標を打ち立ててこれからやろうというときは、ブログなどで発信したり、会う人に積極的にしゃべったりして、自分の逃げ道をなくしていくのです。

 

連載最終回「絶好調が自分の実力と勘違いしてはいけない」は、7月3日(金)公開予定です。

 

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ツキをものにする極意

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桜井章一 「雀鬼会」主宰

1943年東京都生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以来引退するまで20年間無敗、「雀鬼」の異名を取る。引退後は「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。『ツキの正体』(幻冬舎)、『人を見抜く技術』『負けない技術』(ともに講談社)など著書多数。

藤田晋 サイバーエージェント代表取締役社長

株式会社サイバーエージェント代表取締役社長。1973年福井県生まれ。97年、青山学院大学卒業後、人材会社の株式会社インテリジェンスに入社。翌98年に株式会社サイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任。2000年に史上最年少(当時)の26歳で東証マザーズ上場し、2014年9月に東証一部へ市場変更を果たす。同年、「麻雀最強位」タイトルを獲得。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』『起業家』『藤田晋の成長論』、共著に『憂鬱でなければ、仕事じゃない』『絶望しきって死ぬために、今を熱狂して生きろ』など。 渋谷ではたらく社長のアメブロ http://ameblo.jp/shibuya/

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