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福ちゃん日記

2008.03.01 公開 ツイート

最終回

天国のプーちゃんへ

 
 私のウチへ遊びに来た人には、もれなく福ちゃんのわんぱく接待がついてくる。ジーンズの人は爪研ぎがわりにされるし、すてきなスカーフはひらひらして気になるのか、すてきなお姉さんの首もとへ登っていこうとする。ふわふわの素材を使ったおしゃれな冬物のバッグは、すりすりされて福ちゃんの毛だらけになってしまった。
 お客さんたちは、福ちゃんのわんぱく接待を受け入れてくれるだけでなく、「かわいい、かわいい」と言ってくれる。福ちゃんがブラピに見えるのは私だけのようだけど、ブルーの目と毛色はよく褒められる。とくに微妙な毛色は『癒し色』だそうで、見ているだけで癒やされると言う。言われてみれば、オフホワイトというには濃い、ベージュというには深い、薄茶と薄グレーが混ざり合ったような曖昧な毛色だ。その曖昧色の体の先っぽは暖かいグレー、ロシアンブルーの毛色でやさしくシメている。福ちゃんは、おしゃれさんだ。
 福ちゃんがウチへ来てから、私は、この『癒し色』の体を何回撫でたんだろ? 歩数に換算したら浜松くらいまで歩けているかもしれない。突然やってきた子猫は、次から次へと私を驚かせることばかりしたけれど、開腹手術も、しっぽ炎上も、角膜損傷も、尿結石も、今も油断できない誤飲の数々も、いろいろな事件が思い出に変わりだした。育児(猫ね)ノイローゼで泣いた夜も、子猫としか経験できないことだったんだと思うと、今では愛しい思い出に変わった。最近は、「福ちゃん!」と呼べば来てくれるし、朝の目覚ましが鳴っても起きずに、2度寝しようと閉じた私の目を「つぶっちゃダメ」と言わんばかりに、肉球でおさえてくる。私を起こそうと努力する福ちゃんに「お腹すいたの? ごはん食べたいの?」と聞くと、グルグルグルグル…と言いながら、今度は唇をおさえてくる。こんな朝の始まりが楽しくないはずがない。私と福ちゃんはラブラブだ。

 人間の赤ちゃんは、雲の上からお母さんになる人を自分で選んで生まれてくるって話があるけれど、福ちゃんも雲の上から飼い主の私を選んだのだろうか? 猫のお母さんから生まれて、私のウチへやって来るまでのシナリオは、神様が書いてくれたのかな? だとしたら、さすが神様です。すごく素敵。福ちゃんがたどった足跡はとても素晴らしいご縁で結ばれました。神様ありがとうございます。
 雲の上の神様といえば、天国のプーちゃんは元気にしてるかな?

 プーちゃんあのねぇ……
 最近はっきり気が付いたんだけど、プーちゃんが逝ってしまってから随分と長い間、私はペットロスだったみたい。回りの人たちがペットロスになるんじゃないかと心配してくれていたので、なってはいけない! という気持ちと、ひとり暮らしは淋しいからと、哀れに思われることへのつまらない強がりで、人前では悲しい気持ちを封じ込んでたみたいで、自覚のない分長引いちゃったんだと思うよ。ひとりのときは、ビービーわーわー泣いてたから良かったけど、悲しみは封じ込めてはいけないと聞きました。悲しみは消化しないと体に残ってしまうんですって。病は気からの『気』になるのかな? そういえば、「あ~死にたい」が口癖のときもあって、その時にプーちゃんの最初のお母さん(妹)が、「死なないでね~っ」と超強力1400Wのドライヤーを買ってくれましたよ。あっという間に髪が乾くことに心から感動したという思い出があります。何もしたくないのに毎日髪を洗って1400Wで乾かして、カーラーで巻き巻きしてた。ほとんどのことにやる気も気力もないのに、おしゃれして食事に行くことだけは好きで、よく食べ、よく飲んだ。無気力なのに身繕いとゴハンにだけには熱心だなんて、まるで猫のプーちゃんみたいだって思ったこともある。
 あるとき「あ~死にたい」なんてネガティブは、美容と健康に良くないって、おしゃれと食事に差し支えるとでも思ったのかな? 「あ~死にたい」って気持ちはそのままで言葉だけ「あ~生きたい」に変えて言うようにしてみたら、いつの間にかバカバカしくなって言わなくなった。この私流リハビリを「いや(→いい)」だとか「やりたくない(→やりたい)」とかにも応用していたら当時の私が持っていたネガティブはすっかり消えてしまった。そんな風にして、少しずつだけど快復していったんだと思う。死にたいのに、髪を巻き巻きしたり、美味しいものが好きだった私は動物並みの生命力なんだろうね。元気が戻ってきたら猫との生活が恋しくなってきたの。そんな時、プーちゃんの弟にあたる福ちゃんが突然やってきて、今はすっかりもとどおり。
 プーちゃんと出会ったとき、私は22、3歳だったかな? 街で小型犬を抱えた自分の面倒もみられないような若い女の子を見ると、犬の面倒がみられるのかしら? なんて心配になることがあるけれど、私もあんなだったんだよね。もしかしたらもっと心配されそうな感じだったかもしれない。そんな私と13年間一緒にいてくれてありがとうね。私はプーちゃんと一緒に大人になったと思ってる。福ちゃんがやって来て私が変わったところはね、以前よりやさしくなったとこかな。人に優しく出来てるかはわからないけれど、気持ちが穏やかになってるって自覚できる。福ちゃんのお陰で、私から愛情が絶え間なく溢れ出るようになった。その愛が福ちゃんだけでなく、人に喜んでもらえるものになれば、私も一人前って気がするよ。
 最後に天国のプーちゃんに頼み事があります。雲の上から私のように猫が必要なひとり暮らしの女性をみつけたら、彼女のところへ彼女を幸せする猫とのご縁を授けて下さいと神様にお願いして欲しいの。私は2匹の猫のお陰でとても幸せを感じてるから、もっと幸せな人を増やしてください。よろしくね…

 と、天国のプーちゃんへの手紙を書いていたら、パソコンを打つ手を邪魔するように、福ちゃんが行ったり来たりして画面が見えない。福ちゃんの腹時計は正確で、朝ご飯の時間が早くても遅くても、しっかりと夜の7時近くになると、ゴハンを催促しに来る。ソファに座っていると、肘掛けに登って、私の頭を右手で触る、何故か少し爪を出して触るので、髪が引っかかり、ちょっとイヤな感触で無視出来ない。確信犯だ。
 パソコンの前をうろちょろする福ちゃんに、
「福ちゃんお腹すいたの? ゴハン欲しいの?」
 と聞くと、グルグルグルグル……と言い出した。
 私は「じゃあ、ゴハンにしよう!」と言うと、机から飛び降り、こっちこっちと誘導するように小走りでキッチンへ向かう福ちゃんの癒し色の背中に着いていった。
 この小さな幸せがいつまでも続きますように。そして、もうちょっと大きい幸せを目標に生きていこう! がんばろー!「ねっ、福ちゃん!」

 

 

ウチに来たばかりの福ちゃんです。こんな小さかったんだ~。しみじみ。

 

お昼寝中。この手っ……。当時は子猫なのにしっかりしてるなぁ、と思ったけれど今見ると、ちっさいなぁと思います。

 

どこで寝ているかというと、私の足の上です。

 

わんぱく顔。

 

びょ~ん。

 

さくらんぼと福ちゃん。

 

箱に入る福ちゃん。おもちゃ箱を作ってあげたら、自分が入ってました。

 

小さいくせに、いばってました。

 

退院したての福ちゃん。サポーターを着ています。

 

角膜損傷の原因は未だに分かりません。片目でもエリザベスをつけていてもひるまず遊んでいました。

 

お菓子を食べていると、よく襲われましたが、最近はないです。今でも好きなのはシュークリームの中味のカスタードクリームぐらいかな

 

ますます似てきてます。福ちゃんとエリンギ。

 

なぜか、パソコンを開けようとすると怒ってました。

 

高いところは好きだけど、大きくなったので着地の音が『ドスンッ』といいます。痛くないのかなぁ?

 

子猫のときは、植木を掘り返したり、お花をかじったりしてましたが、最近は全くやらなくなりました。ツリーのオーナメントは外されたりしたけれど、そのくらいです。

 

福ちゃんは、今日も一番日当たりのよいところでお昼寝中。一年間ありがとうございました。これからも福ちゃんと仲良く暮らしていきまーす。
 

 

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※本連載は旧Webサイト(Webマガジン幻冬舎)からの移行コンテンツです。幻冬舎plusでは2008/03/01のみの掲載となっております。 

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