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対談 日本人はフクシマとヒロシマに何を見たのか?

2015.03.31 公開 ポスト

前編

「核」「原子力」をマジックワードにしてしまった罪開沼博/山本昭宏

醒めてしまった「脱原発+再エネでみんなハッピー」という夢

開沼 私たちは、ステレオタイプ化によって理解した気になれる。ただ、それによって「福島は面倒くさい、わからない、いつも同じ話」になってしまう側面も大きいでしょう。

山本 難しい話です。いつも同じ話であっても、飽きずに同じことを言い続ける必要性もある。これについては、当事者側、ジャーナリズムや研究者側、私たちもジレンマを感じている。「この話って何回も話したなあ」、「何回も聞いたなあ」と思ってしまう。これを乗り越えるのは難しい。開沼さんが言うように、ステレオタイプ化が風化を進めているのかもしれない。

開沼 そうですね。『はじめての福島学』では、まさにこの3・11以後に流布する様々な表現のステレオタイプへの批判をしています。例えば、本の冒頭にも書きましたが、「原発」「放射能」「除染」「避難」「賠償」「子どもたち」。この6つのキーワードを「福島問題6点セット」と読んでいますが、これを使うと、取材しないでも、知識なくても、頭使わないでも福島の記事を書けたような雰囲気が出せます(笑)。

「原発事故によって多くの人が避難をし続ける福島。除染・賠償・放射線への対策など課題は山積する。復興が遅れている。子どもたちの笑顔を取り戻すために、私たちは福島を忘れてはならない」みたいな。「どうですー、福島に寄り添っているでしょー」みたいな空気になる。でも、なんにも語ってないんですよ。そんなことは4年前から繰り返させている話であって、キーワード埋め込んで筋通る文作れば点数もらえる小論文の入試問題問いてるんじゃないんだから。

『はじめての福島学』で明らかにしたとおり、イメージと現実には大きな乖離がある。今必要なのは、そこをどう埋めていくのかということですよ。そこで先ほどの話ですが、どこで「薄幸の被曝者・避難者」が転換、スイッチチェンジしていくタイミングがくるのか、という点には興味があります。原爆は、1960年代前半ということは、実際の原爆投下から20年くらい経ってイメージが変わったということですよね。それを考えると、まだ原発事故からは4年しか経っていない。今後も福島問題のイメージは、くるくると変わっていく可能性がある。

山本 そうですよね。福島の原発災害を描いたヒューマンドラマ、映画、漫画がこれからどんどん出てくると思いますが、私もその描かれ方に注目しています。

傾向としては、原発災害直後に、例えばしりあがり寿が再生可能エネルギーに舵を切った未来の日本社会などを描いているが、そういう「原発の問題」として福島の問題を描こうとするポピュラー文化自体は数としてはあまり多くない。むしろ、マンガ『はじまりの春』のような、福島の農家の高校生の話など、福島に根差した、「地方の問題」として福島の問題を描く構造のものが目立つようになってきています。それもうなずける。ただ、個人的には、震災直後にあった「ぼくたちは原発とどう付き合っていくのか」というような「そもそも論」も大事なので、どちらも続いていくといいと思っています。

まさに、『はじめての福島学』は、この「原発の問題」と「地方の問題」との橋渡しをするような作業ですよね。その点で、今回は「核・原子力問題としての福島」について禁欲的に書くことを控えている側面もあるんだと思いますが、福島学と銘打つ中で、核をどうするのかという「そもそも論」について開沼さんはどうお考えなのか。

開沼 おっしゃる通りです。ご指摘の点は、今回の議論の戦略でもありました。つまり、福島の問題=原発・放射線の問題と語り続けることで、福島の問題の本質から目を逸し、福島の問題をなかったこととしたがる無意識的な心性自体を相対化する必要があった。

震災直後、東京の大御所知識人は「福島の話」を「原発の話」とイコールで結びながら語り続けた。最近も、吉永小百合が、彼女自身の反核・脱原発イデオロギーに絡める形で福島の問題を言あげることに対して福島県内からも具体的な反発の声が上がっています。要は、「原発事故によってとんでもなくダメになってしまった福島はかわいそう=>だから、絶対に脱原発を達成すべき」という、ありがちな論理で活動を続けるんですが、ろくに事情も知らないのに「原発事故によってとんでもなくダメになってしまった福島はかわいそう」などと勝手な認識を押し付けられることに対して「『だから、絶対に脱原発を達成すべき』っていうあんたのイデオロギーのために福島ネタを利用すんじゃねーよ。『かわいそう』とか何様だ。うぜーよ」と反感を買うのは当然のことです。

ただ、この話自体、構造としては、これまで4年間、知識人が繰り返してきたパターンを踏襲しているだけではあります。吉永小百合だけが悪いわけではないのでサユリストもご安心いただきたい。

他にも、「文明の反省をして再エネルギーを」と、ろくに再エネの一長一短ある性質を勉強することもなく前のめりに語り続けるパターンとかもありました。実際に、再エネ導入はテクノロジーとしても、あるいは制度・政策としても一筋縄ではいかない実態が明るみに出るにつれて、その人たちは無責任にも今黙っている。これらのパターンが結局、生産性のない同語反復の中で陳腐化し、反発を受けたことはあっても、何ら被災当事者のためにならなかったのは「4年後」の結論にせざるを得ないと思います。

そういう大きな話に対して、冒頭に私がお話ししたような細かい話があります。つまり、山本さんにご指摘頂いた「地方の問題」です。福島の問題は日本が抱えるこまごまとした問題の集積だということ。帯にも書きましたが、放射線や原発の問題ではなく、もう少し地方の問題として見ていかないと、この問題は解決しないことは自明です。もちろん、どちらの視点で見ていくことも重要です。ですが、問題解決志向でいくなら地方の問題として見ていくべきだというのがこの本の視点です。

とはいえ、本にない話をすることで、この本がより立体的になるとも思いますので、あえて「原発・放射線の問題」として福島の問題を見ていくこともしてみましょうか。『はじめての福島学』では、扱う範疇外でしたので粗い分析のままにお話しますし、山本さんの今後のお仕事かと思いますが、例えば、2011年から2013年くらいにかけて、新聞ならば朝日新聞、東京新聞を中心に、ご研究されている「日本人と核」の系譜に並べられる新しい「夢」が繰り返し表現されましたね。つまり、「脱原発+再エネでみんなハッピー」的な「夢」です。この「夢」は、震災直後からでてきて、散々強調され、しかし、2014年頭くらいから、急速に退潮していった。理由は色々あるかと思います。FIT(固定価格買取制度)の不整合が指摘されてきたこと、飯田哲也さんら再エネ系のオピニオンリーダーが政治活動に強くコミットする中でメディアへの出演の機会が減っていったこと、そして、2014年初頭の都知事選で「脱原発+再エネ」を表看板に掲げた細川護煕・小泉純一郎連合の惨敗。そんなことが、2011年から数年間のモラル・パニックに陥っていた日本社会を「夢」から醒めさせていった。

元より、原子力にもとから詳しいリアリティズムの論者は、再エネは使えない、それが使えるならもとから広まっていると話していた。FITにも変に政治が介入すると失敗するということが海外の事例からわかっていると言っていた。そうやって「夢」に「現実」をぶつけて醒めさせようとする言論はスルーされていた。ただ、やっぱりあれ夢だったよねと感じ始めている人も出てきているという現状はあります。

ただ、社会はいつでも夢をみたがるものです。なぜあんな大きな夢を語ったのか。そして、そこから数年とたたずに、すぐに醒めざるを得なかったのかというと、先ほどの結論から、当事者として現実に向き合わざるを得なかったというのは大きいでしょう。チェルノブイリの話ならもう少し夢を語り続けることもできたのだろうが、そうではない。

(後編に続く。4月7日更新予定)

 

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開沼博

東京大学大学院情報学環准教授、東日本大震災・原子力災害伝承館上級研究員。社会学者。1984年福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。主な著書に、『日本の盲点』(PHP新書)、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)など。第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

山本昭宏

神戸市外国語大学専任講師。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。 著書に『核エネルギー言説の戦後史1945-1960』(人文書院 2012年)、『核と日本人』(中公新書 2015年)などがある。

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