世界各国を旅しながら裁判を傍聴する弁護士・原口侑子さん。今回訪れたのは、ICC(国際刑事裁判所)とICJ(国際司法裁判所)という、ニュースでお馴染みの2つの国際機関が集まるオランダ・ハーグです。「どちらも所長は日本人」という事実に驚きつつ、ハーグの街を満喫。そして運良くICJの見学ツアーに潜り込みますが……。
* * *
ちょうど1年前、オランダに遊びに行くことにしたので、裁判はどこに見に行こうかと考えて、ふとICC(国際刑事裁判所)、ICJ(国際司法裁判所)はオランダのハーグにあるということに思い至った。ロンドンからアムステルダムへ向かう電車で途中下車できる街だ。

両組織の区別もよくできていなかった私が、どちらかの組織にいたと記憶していた知人(というより法曹の大先輩)に連絡を取ってみると、ICCに傍聴に行くには事件によって事前申し込みが必要だということが分かった。
ICCの9月のスケジュールを調べると、ウガンダのJoseph Kony事件(ウガンダ北部で活動した反政府武装組織LRAの指導者Konyの関与した民間人拉致・虐殺・児童兵の強制徴用事件)と元フィリピン大統領ドゥテルテ事件(ドゥテルテ氏の「麻薬戦争」の過程での超法規的殺害事件)があると書いてある。
ただ、ドゥテルテ事件は私が行けるタイミングではなく、Kony事件は事前申し込みが必要だということだった。(結局ドゥテルテ事件はこのときは延期になったようだ。)
ICCには見に行けなそうな一方で、ICJは施設内見学をやっているらしい。運がよければ見学できるかもしれなかった。ICJの見学も予約制で、どうやら私の行く週末は全部埋まっているようだったが、一か八かで行ってみたらなんとかなる気もした。

さて、そもそもICCとICJの違いもよく理解していなかった私はそこで初めて調べて、両組織の所長が日本人だということを知った。
ICC(国際刑事裁判所)は個人の国際犯罪を裁く常設の裁判所。
ICJ(国際司法裁判所)は国と国の間の紛争について裁判をし、国連の要請に応じて勧告的意見を出す国連の機関。
いずれもオランダのハーグにあるけれど、歩くとちょっと微妙な距離にあるということも知った。
路面電車を使うのがいいのか……。

ハーグは海に面した明るい街だった。
「今日はビーチフェスがやってるわよ」と宿のお姉さんに言われ、ビーチまで行く道を見てみると、ICCもICJもその途中にあった。

まずICJがあった。運河沿いに歩いていると、幅広のゲートの向こうにピンクがかった宮殿っぽい建物があり、それがPeace Palace(平和宮というらしい、ICJと仲裁裁判所の本部)だった。

9月のまだ暑い折、ゲートの前ではアイス売りが繁盛していた。
Visitor centreには簡単な展示コーナーがあったが、小さいわりには音声解説もついていて見やすかった。パネルを押すと、国と国の紛争がどう裁定されているかの説明があり、ずらっとケースが並んでいた。日本をめぐる裁判には、日本対オーストラリアの捕鯨問題などが掲載されていた。

「明日来たら、入れてあげるよ」受付のお姉さんがにやりと笑って言った。
「一応予約枠は埋まっているんだけど、どこかで1枚くらいチケットの空き出るからさ」
という色よい返答に私は満足し、ICCに行くのをやめ、オイスターを食べ、ニシンを食べ、バケツ一杯のムール貝を食べ、ハーグローカルのクラフトビールをいろいろと物色した。ビーチにつく頃にはほろ酔いで、音楽の響く砂浜では自転車競技が開催されていた。ハーグはお堅い街かと思っていたけれど意外とそんなこともないのかな、などと独り言ちながら、ICCのことはもう忘れてしまった。

翌日、マウリッツ美術館で真珠の耳飾りの少女を見たり、再びニシンを食べたり、週末マーケットを冷やかしたり、のんびり街歩きしながらICJに向かい、昨日のお姉さんに予告通り平和宮のチケットを融通してもらった。
平和宮内部にあるICJと仲裁裁判所の2つの本部を見て、後は中の他の部屋を見るツアーである。
入場は厳格で、点呼時にスマホも全部ロッカーに入れたかを確認される。すみません持ってきちゃいました、と言っているアメリカ人旅行客がいたりした。写真が撮れない、スマホでメモが取れない、では、ディテールが思い出せない。私(たち)は記憶装置を外付けにしすぎているな、と反省しながら、当時の日記を頼りに思い出してみる。
(後編につづく)

続・ぶらり世界裁判放浪記

ある日、法律事務所を辞め、世界各国放浪の旅に出た原口弁護士。アジア・アフリカ・中南米・大洋州を中心に旅した国はなんと133カ国。その目的の一つが、各地での裁判傍聴でした。そんな唯一無二の旅を描いた『ぶらり世界裁判放浪記』の後も続く、彼女の旅をお届けします。
- バックナンバー
-
- オランダ・ハーグで「国際司法裁判所」見学...
- ザンビアの裁判官はなぜ「金髪カツラにピン...
- 「近いのに離れている」のにはそれだけの理...
- 仏大統領とカトリック司教が治める「アンド...
- バルセロナで受けた「門前払い」の衝撃 オ...
- 潮風香るバルセロナの午後、「盲目」の真偽...
- チュニジアの公衆浴場「ハマス」へ〜お風呂...
- チュニジア・チュニス裁判所をのぞく午後、...
- 地中海・マルタの裁判所、そしてゴゾ島へ〜...
- 「地中海のヘソ」マルタで出会った裁判所と...
- "ディワン"のリズムと海風、アルジェリア...
- アルジェリア・サハラの村で知った1000...
- アフリカの島国カーボベルデで、音楽と法の...
- “モルナ"が響く美しい島国“カーボベルデ...
- トーゴのフェティッシュ・マーケットとは?...
- 「呪術」は裁判の代わりになるか?
- 「奴隷・黄金・象牙海岸」でつながったヒエ...
- 西アフリカの森に息づく王国の記憶
- 裁判は裁判所だけで起こっているわけではな...
- 黒魔術とコウモリの影~西アフリカ裁判旅
- もっと見る











