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続・ぶらり世界裁判放浪記

2026.08.22 公開 ポスト

ザンビアの裁判官はなぜ「金髪カツラにピンヒール」姿なのか? 約50カ国で「海外の裁判」を傍聴した弁護士の発見原口侑子(弁護士)

毎回、訪れた国の裁判の様子、裁判所の様子を書いているこの連載だが、本日は趣向を変えて、これまで訪れた裁判所で「共通して」これは面白いなと思ったことを書いてみたい。

*   *   *

日本では今はもう「女性はピンヒール」の時代は過ぎ、大変喜ばしいことなのだが、アフリカ南部に位置するザンビア共和国では、女性裁判官はここぞというときに金髪のカツラとピンヒールを合わせる。

ザンビアを訪れた時のこと。中規模の町・カブウェで「裁判所オープニングセレモニー」があり、楽器隊が町中を練り歩き、最後に楽隊のリーダーが高裁長官に敬礼をするという一幕があった。

 

金髪のカツラに赤い法服のガウン、そして高いピンヒールを履いた長官は、舗装がぼこぼこの町にカツカツと足音(ヒール音)を響かせて前へ出、おごそかに挨拶をした。沿道の人々も静かに見守っていた。裁判官のカツラは権威の証である。それとピンヒールが合わさって、彼女には非常に西洋的なフォーマルさがあった。カツラ裁判官と無縁の国日本から来た私まで、カツラを権威の証と思うようになってしまったのはなぜだろう。

海外の裁判を見にいくとは、いったい何なのだろう。そういつも考えている。

私が学んだのは日本の法律であり、私が見るのは日本とは違う法制度を持つ国。

他の国の裁判のプロであるわけでもない私に何がわかるのかなどと思う。

裁判を見に行った国も50に近くなり、最近はいよいよ「印象に残った裁判所は?」と聞かれるようになった。

裁判所の物理的な設定や背景が面白い国もあれば、扱われる事件の内容が面白い国もある。同じ国の中でも多種多様な裁判があったりして、裁く人や裁くシチュエーションが変われば結論が変わるのは不当ではないか? などと「法的安定性」を考えることもある。

設定が妙のうちのひとつが、アイテムの伝播である。

つまり、カツラだ。

端の二人はアガサクリスティー『検察側の証人』劇中の裁判官役

イギリスから始まった「裁判官はキューティクルが痛んでそうな金髪のカツラをかぶる」伝統は、多くの旧イギリス植民地に受け継がれている。イギリスでは民事/家事裁判などの多くの裁判で裁判官たちがカツラをかぶらなくなったにもかかわらず、アフリカや太平洋諸国では、今も裁判官がカツラをかぶる。

ウガンダでも、フィジーでも、何千キロの距離を越えて、同じようなカツラが裁判官の頭に乗っていた。

「こんな暑い国でカツラをかぶらされて、黒い法服を着させられるなんて、雨季になると地獄だよ」

インド洋の小さな国・モーリシャスで出会った弁護士は言った。

「そういうわけで裁判官のカツラは廃止されたんだけどね。つい10、15年前にね」

ずいぶん最近である。

「僕たち中堅キャリアの弁護士も裁判官も、法律家たちの正装はもう少し土地ごとの風土にあったものにすべきだと話している。でも、ベテラン勢は今も『権威』にこだわる。カツラがえらそうに見えるうちは、それが『権威』だったんだろうね。カツラのなくなった今は黒い法服だ」

カツラの権威性は鶏と卵である。カツラ裁判官と無縁の国日本から来た私が、カツラを権威の証と思うようになってしまったのは、えらそうなカツラ裁判官たちを何度も、しかもいろいろな国で目にしてきたからだ。

日本の裁判官の黒い法服は、ヨーロッパ型ガウンのアイデアと聖徳太子風デザインのフュージョンであるらしい。「日本の裁判官たちは暑くないの?」と聞かれた私は「法廷にはクーラーが効いているから」と答えるにとどめた。

「あ、でもカツラはかぶらないよ」

裁判傍聴とはある意味、ナンパである。裁判傍聴とはそこで働いている法律関係者に会うことであり、事件関係者に会うことである。裁判傍聴とはその国/町ならではの事件を見ることであり、関係者の生の声を耳で聞くことである。裁判傍聴とは建物の見学である。「ひとを裁く場所」を自分の目で見て、なんでそんな形になっているかに思いをはせることであり、つまり裁判傍聴とは(怒る向きもいるかもしれないが)新手の観光である。

日本のやり方と違えば違うほど気になることもあるし、日本から遠い場所で同じようなことをやっていたらそれはそれで気になる。別の国同士の近さ遠さに思いをはせるのもまた一興だ。

今まで地域ごとに旅×裁判傍聴を語ってきて、次はインド洋を書こうなどと考えていたのだが、同じ地域でもずいぶん違うこともあると思い知って、逆に考えもしなかった場所同士のつながりもあると知った。それがおもしろいと思った。

そういうわけで、カツラは、おもしろかった裁判所まわりのことその1、である。

関連書籍

原口侑子『ぶらり世界裁判放浪記』

世界はこんなにも広く、美しく、おもしろい! ある日バックパッカーとなった東大卒の女性弁護士は、アフリカから小さな島国まで世界131カ国を放浪し、裁判をひたすら見続けた。豊富な写真と端正な筆で綴る、唯一無二の紀行集!

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続・ぶらり世界裁判放浪記

ある日、法律事務所を辞め、世界各国放浪の旅に出た原口弁護士。アジア・アフリカ・中南米・大洋州を中心に旅した国はなんと133カ国。その目的の一つが、各地での裁判傍聴でした。そんな唯一無二の旅を描いた『ぶらり世界裁判放浪記』の後も続く、彼女の旅をお届けします。

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原口侑子 弁護士

東京都生まれ。弁護士。東京大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。大手渉外法律事務所を経て、バングラデシュ人民共和国でNGO業務に携わる。その後、法務案件のほか、新興国での社会起業支援、開発調査業務、法務調査等に従事。現在はイギリスで法人類学的見地からアフリカと日本の比較研究をしている。これまでに世界131カ国を訪問。

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