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文豪未満

2026.09.12 公開 ポスト

あなたの書店で1万円使わせてください~有隣堂BASEGATE横浜関内店~岩井圭也(作家)

今年3月、横浜市・関内前に1軒の書店がオープンした。「有隣堂BASEGATE横浜関内店」である。

 

3フロアで構成されていて、地下1階は飲食店、ギャラリー&ショップ、1階は雑貨や飲食物の販売、そして2階が書籍の販売とコワーキングスペースになっている。

オープン直後、こちらのお店で作家の青山美智子さんとイベントをさせてもらった。お互い横浜在住ということもあって、とても盛り上がった。

この時から、いずれこのお店で取材をしたいと企んでいた。これまでにも本企画では有隣堂さんにお世話になってきたが、このBASEGATE横浜関内店は他の店舗ともまた違った雰囲気というか、熱量の高い意気込みを感じたのだ。(おそらく、これから紹介する店内の模様を見てもらえればその意味がわかってもらえると思う。)

その後、刊行ラッシュを迎えたり、ポッドキャストのパーソナリティをはじめたり(News Connect文化欄&双葉社カラフルPodcast)して慌ただしい日々を送っていたのだが、夏に入ってようやく取材の目処を立てることができた。お店に申し込んだところ、快く承諾していただけた。

というわけで、今回のお買い物の舞台は有隣堂BASEGATE横浜関内店。じっくりお店を巡ってみてわかったが、やっぱり、有隣堂にとって格別な意気込みが漂うお店だった。ぜひご覧いただきたい。

*   *   *

お店はJR関内駅南口を出て、すぐ右手にある。地下鉄ブルーラインの関内駅や、みなとみらい線日本大通り駅からも徒歩圏内だ。

1階はおしゃれなセレクトショップのような雰囲気。階段を上がって、2階の書店で担当編集者氏と合流し、まずは店長やスタッフの皆さんにご挨拶。この時点で、店内の独特な空気に「おお……」と感嘆していた。

買い物の前、例によって1万円札とともにお店の前で1枚。

とにかく暑い日でした。

本企画のルールは「(できるだけ)1万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。さっそく自腹(ここ重要)の1万円を準備して、買い物スタート。

まずは1階からゆっくり見ていくことに。雑貨やアパレルグッズなどが、整然と並んでいる。その合間には関連する書籍も。

面白いレイアウト。

同じフロアでは、飲食物も販売していた。ジューススタンドもあり、暑い日は特に美味しそう。

沖縄フェア開催中でした。(現在はフェア終了)

有隣堂のキャラクター・B.B.ブッコローのグッズもたくさん。

このお店限定のグッズも。

ひと通り見て回ったところで、2階へ。

どこかシックな雰囲気。

階段を上った正面にはレセプションカウンターがある。右手は書店、左手はコワーキングスペースになっている。

コワーキングスペースがまたいい雰囲気。

書店ゾーンに入ってまず視界に入ったのが、棚の上に飾られている色紙。横浜高校野球部監督の村田浩明さんの著書『甲子園に生きる』とともに、サイン色紙が飾られている。その文字の達筆さにしばし見とれる。

隣には岩井の色紙も飾ってくれています。

さらに進むと、大量の封筒が差し込まれたスペースを発見。封筒には「理容師からの手紙」「鼻からの手紙」「冷凍庫からの手紙」などと記されている。

実はこの封筒に入っているのは、「何者からかの手紙」と名付けられた短い小説なのだ。バリエーションは、ざっと見ただけでも三十種類くらいはあるようだった。星新一のショートショート集など、短時間で読める作品と一緒に並べられていた。

面白い!

新刊単行本も整然と並べられている。

異様に足短くないですか?

文庫もじっくり。

出版社ごとに並べるスタイル。

さらに奥に進むと、アートや児童書などの棚が並んでいた。特にデザイン系の書籍が充実している印象。

「もしも」コーナー。
玩具もある。

そんななかでも一際目を引いたデザインが、春木晶子著/鮫島圭代訳『異能力者の日本美術 ダークファンタジーの系譜』(パイ インターナショナル)。銀ピカのキラキラなのである。紹介文によると、

〈本書では、主に江戸時代の怪異譚や伝奇小説に登場する「異能力者」に焦点を当て、現代のアニメや漫画の流行に隠された背景を解説します。〉

うーん、なんとも男子の中2心をくすぐる内容!

パラパラとめくってみると、図も豊富で解説も丁寧。5000円くらいするのかな、と価格を見てみると、なんと2400円+税。これは買うしかないでしょう。

ということで、今日の1冊目はこちらに決定。

江戸時代の中2たちと出会えます。

店内では、いくつかの独自フェアが展開されていた。

神奈川近代文学館では「かこさとし展」を開催中。

再び文庫の棚を物色しているなかで気になったのが、原田ひ香『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』(中公文庫)。もともとタイトルは知っていて、面白そうだな~と思っていた。「母親からの小包」という絶妙すぎる着眼点には、同じ書き手として軽い嫉妬すら覚える。

こちらも購入決定。

私が学生だった時も、たしかに実家からの小包はダサかった。

コミックスも見ていくことに。

大きく展開されているのは、のんた丸さんの同人誌『マッチングアプリで会った蔵間さんと園田くん』。

担当編集者氏からは『スーパースターを唄って。』という作品を勧めてもらう。ラップを扱っているらしく、面白そう。ただ巻数がそれなりにある(現時点で7巻)ので、全部購入すると予算のほとんどがなくなってしまうため泣く泣く断念。

そんななか、サイトウマド『怪獣を解剖する』上下(KADOKAWA)を発見。

実は過去回で購入したサイトウさんの短編集『解剖、幽霊、密室』がとても面白かったので、『怪獣を解剖する』も気になっていた。上下巻で完結するようだし、この企画の制約ともぴったり。

上下巻2冊を購入することを決定。

手塚治虫文化賞新生賞の受賞作!

再び、新刊コーナーに舞い戻る。

配管むき出しの天井もまたおしゃれ。

書名を見た瞬間に手が伸びたのが、大塚敦子『刑務所の文章教室 言葉が心をほどくとき』(紀伊國屋書店)

ここしばらく「書く」という行為について考えているせいか、こういうタイトルに惹かれる。以前『プリズン・ドクター』という小説を書いたこともあって、「刑務所」の文言も気にかかる。

ブレイディみかこさんの帯文がまたいい。

〈人は言葉によって自らを知り、他者を知り、自分を外に出せるようになる。この教室で学びたくなる人はたくさんいるのではないか〉

ほぼノータイムで購入決定。

いい本の予感がひしひしと。

入口すぐの場所では、「文学ワールドカップ」が開催されていた。

ノーベル賞受賞者もたくさん。

大きな窓からは、気持ちのいい光が差し込んでいました。

店内では有隣堂グッズも販売。

歩いていると、クマ関連の本が置かれている一角に拙著『われは熊楠』を発見。

たしかに「熊」は入っている。

あと1、2冊買えるかしら……と思いつつ歩いていると、よさげな本と遭遇。松井至『つぎの民話 〈映像以前の光〉への旅』(信陽堂)だ。帯にはこんな文章があった。

〈かつて焚き火を囲んで民話が語られたように

映像がその光となって〈つぎの民話〉が生まれる〉

本書は、映像作家である松井監督が日本各地を旅しながら撮影する日々のなか、映像について探求した体験的映像論だという。ドキュメンタリー監督が書いた本というだけでも珍しいが、何よりタイトルの「民話」が気になる。現代における民話とは、いったい何を指すのだろう。

今日最後の1冊はこちらに決定。

たぶん、このお店でなければ出会えなかった1冊。

本日は、ノンフィクションやコミックスなど合わせて6冊。セルフレジがあったので、そちらでお会計をしてみた。

セルフレジ、結構好きです。

果たして今日はいくらになったのか。

ジャン。

ちょいピンボケ。

10,582円。

いいですね。うん。いいでしょう!

帰りがけに発見したのが、「東野圭吾さんコレクション」のコーナー。改めて、これだけたくさんのヒット作を世に放っていることに驚かされる。

好きな作品を付箋で投票できる。

買い物の後は、地下1階のダイニング「有隣食堂」でオムライスをいただきました。こちらも有隣堂の運営。

TUBEコラボ。(現在はコラボ終了)

*   *   *

実際に買い物をしてみて思ったのは、有隣堂BASEGATE横浜関内店が練り上げられたコンセプトに貫かれていることだ。

一言では言い表しにくいが、3つのフロア全体が、シックさと現代性が共存した独特の空気で満たされているのである。壁や什器、窓のデザイン、並んでいる本の顔つき、ライティング、案内の書体など、さまざまな要素が混ぜ合わさって居心地のよさを醸し出している。きっと有隣堂の他の店舗でも味わうことができない、唯一無二のものだ。

選書もマニアックになりすぎず、しかし独自色の感じられる、絶妙なバランスを保っている。今回購入した本のなかにも、ここでなければ買わなかっただろうタイトルがいくつもある。新鮮な本を探すこともできるし、普段使いもできる。関内という市内の要所にこういった書店があることの意義は、決して小さくない。

有隣堂は、1909年12月の創業からすでに117年目。今後も伝統を時代に合わせて発展させながら、末永く歩み続けていくはずだ。

 

それでは、次回また!

 

【今回買った本】

・春木晶子著/鮫島圭代訳『異能力者の日本美術 ダークファンタジーの系譜』(パイ インターナショナル)

・原田ひ香『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』(中公文庫)

・サイトウマド『怪獣を解剖する』上下(KADOKAWA)

・大塚敦子『刑務所の文章教室 言葉が心をほどくとき』(紀伊國屋書店)

・松井至『つぎの民話 〈映像以前の光〉への旅』(信陽堂)

関連書籍

岩井圭也『夜更けより静かな場所』

”人生は簡単じゃない。でも、後悔できるのは、自分で決断した人だけだ” 古書店で開かれる深夜の読書会で、男女6名の運命が動きだす。直木賞(2024年上半期)候補、最注目作家が贈る「読書へのラブレター」!一冊の本が、人生を変える勇気をくれた。珠玉の連作短編集!

岩井圭也『プリズン・ドクター』

奨学金免除のため、しぶしぶ、刑務所の医者になった是永史郎(これなが しろう)。患者たちにはバカにされ、ベテランの助手に毎日怒られ、憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が、変死した。胸をかきむしった痕、覚せい剤の使用歴……これは自殺か、病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査を依頼するが――手に汗握る、青春×医療ミステリ!

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文豪未満

デビューしてから4年経った2022年夏。私は10年勤めた会社を辞めて専業作家になっ(てしまっ)た。妻も子どももいる。死に物狂いで書き続けるしかない。

そんな一作家が、七転八倒の日々の中で(願わくば)成長していくさまをお届けできればと思う。

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岩井圭也 作家

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュ ー。著書に『夏の陰』( KADOKAWA)、『文身』(祥伝社)、『最後の鑑定人』(KADOKAWA)、『付き添う人』(ポプラ社)等がある。

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