アメリカのある調査では、子どもの6人に1人に発達障害があると言われています。日本でも、子ども・大人を問わず発達障害と診断される人は増えていますが、発達障害をめぐっては「親の育て方のせい」「食事で治る」など、偏見や誤解がまだ多いようです。アメリカで発達障害を専門にする小児科医・松浦有佑さんの『発達障害を正しく知る』から「はじめに」をお届けします。

幼稚園にいたA君。
幼稚園にいたA君は、いつも泣き喚(わめ)いていました。少しでも気に入らないことがあるとすぐに癇癪を(かんしやく)起こし、時には暴力をふるうこともありました。グループ遊びにも参加したがらず、先生がいつもそばについていました。
小学校の同級生のBさん。
優しくておっとりしているBさんは、人当たりは良いものの、遅刻が多く、忘れ物も頻繁でした。授業中はぼんやりしていることが多く、宿題もほとんど提出していませんでした。
中学校にいたC君。
教室で授業をまともに聞かず、先生に口答えして廊下に飛び出してしまうことがありました。不良グループとよく一緒に行動していましたが、時々使い走りのように扱われているようにも見えました。
職場の後輩Dさん。
何度指示を出しても伝わらず、仕事のミスや抜け漏れが目立ちます。本人に確認しても「やっています」の一点張りで、上司としてどのように関わればよいのか悩んでいます。
このような人たちに、あなたは今までの人生で出会ったことはありませんか?
問題児? 怠(なま)け者? 嫌なやつ? いえ、もしかしたら、彼ら・彼女らは発達障害を抱えているのかもしれません。
文献に基づくアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の発表によると、発達障害がある子どもは6人に1人いると言われています。そう考えると、今まで一度も出会っていないわけがないですよね。私たちは人生の中で、誰もが発達障害のある人たちと出会い、関わりながら生活しています。
A君は自閉スペクトラム症かもしれません。BさんはADHD(注意欠如・多動症)の不注意優勢型かもしれません。C君はADHDの多動・衝動優勢型、あるいは軽度の知的障害(知的発達症)を併存しているかもしれません。DさんはADHDで未診断のまま大人になったのかもしれません。
彼ら・彼女らは、それぞれの方法で一生懸命に社会で生きようと頑張っていたのかもしれません。それなのに、「問題児」「怠け者」「嫌なやつ」といったレッテルを貼られてしまったことはなかったでしょうか? また、逆に、レッテルを貼ってしまったことはなかったでしょうか?
彼らは実は、適切な支援を、適切なタイミングで受けられなかっただけなのかもしれません。
この本では、発達障害について、医療と社会の両面から、海外の最新の情報や知見も踏まえ、できるだけわかりやすく解説していきます。
私は日本とアメリカの医師免許を持ち、現在はアメリカで、小児科専門医として、発達障害を専門に診療と研究を行っています。この本を読み終えたとき、新たな気づきや学びを得ていただけたら、心から嬉しく思います。
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発達障害を正しく知る

発達障害と診断される人は、日本だけでなく世界中で増えている。アメリカでは子どもの6人に1人に発達障害があるという調査もある。一方で、「親の育て方のせい」「食事で治る」といった偏見・誤解はいまだ根強い。同じ障害なのに診断名が変わったり、新しい呼び名が次々に生まれたりすることも、当事者の不安を大きくしてきた。発達障害とは何なのか。この分野の先進国であるアメリカで診断・研究に携わる小児科医が、最新の知見にもとづき、発達障害の正しい理解と向き合い方をわかりやすく解説する。
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