銀行の本店はなぜ、あれほど仰々しいのか。なぜ銀行は儲かるのか。証券会社や保険会社は、本当に顧客本位で動いているのか――。私たちの生活に深く関わる金融の世界には、知っているようで知らない“仕組み”と“裏側”があります。
そんな金融業界のリアルを解き明かすのが、金融ジャーナリスト・鈴木雅光さんの著書『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』。本書では、銀行・証券・保険といった身近な金融機関の構造や慣習、そして不祥事が繰り返される背景まで、豊富な知見と取材をもとにわかりやすく解説しています。本記事では、その一部をご紹介します。
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銀行ってなんで儲かるの?
メガバンク(私が就職活動をしていた頃は都市銀行というくくりになっていましたが)には共通点があります。それは本店が丸の内と大手町にあるということです。
そして、その設えを見れば、大半の人はこう思うに違いありません。
「銀行って儲かる商売なんだな……」
実際、本店の応接室、特に役員が使っている応接室に入ると、本当に驚きます。一面、巨大なガラス張りになっていて、そこから皇居、日比谷公園、東京タワー、レインボーブリッジが一望できたりします。
とにかく眺めがすばらしい。絵画を見ている気分になってきます。そのような景色を眺めているうちに、ふと「どうして銀行は、こんなに豪華な本店を持っているのだろう」という疑問が浮かびました。
どうしてだと思います?
本店で働いている人たちの多くは、物凄いエリート意識を持っています。まるで、自分が世界を動かしているような顔をしていますしね。
まあ確かに、これは丸の内や大手町界隈を歩いてみるとわかると思いますが、どの銀行も立派な建物に入っているのです。三菱UFJ銀行しかり、三井住友銀行、みずほ銀行しかりです。そういう建物のなかで働けているというだけで、エリート意識をくすぐられるわけです。

従業員数を見ると、三菱UFJ銀行が約3万1000人、三井住友銀行が約2万8000人、みずほ銀行が約2万4000人ですが、その全員が本店で働いているわけではありません。
最近はメガバンクでも全国規模で支店の統廃合を行っているので、昔に比べれば支店数は減っています。東洋経済オンラインの記事によると、三菱UFJ銀行と三井住友銀行の支店数は、両行とも1000店舗を超えていたのが、2022年には400店舗を割り込んだそうです。
「本店=エリート」は幻想
銀行の本店で働いている行員の数は、私の肌感覚で言わせてもらうと、総従業員数の10分の1以下というところでしょう。メガバンクに入行したとしても、大半は支店要員です。エリート意識を刺激される建物で働ける人は、新入行員のなかでもごくごく一部に過ぎません。
大手町や丸の内のオフィスでキラキラと働く自分をイメージして入行したのに、地方支店からのキャリアスタートになると、それはもう立派な本店ビルとは全くイメージが重ならない、3階建てくらいの小さな建物で働くこともあります。
そして、そういう人が全国の支店で働いていて、預金を集めたり、融資先を探したりして、銀行の大事な収益を支えているのです。
逆に、本店で働いている人のなかには、収益を生み出さない部門、いわゆる本部に属している人が大勢います。具体的に言えば、人事、総務、企画、コンプライアンス、内部監査、事務、IT、リスク管理、財務、リサーチといったところでしょうか。
もちろん、法人営業とか投資銀行業務、ディーリング・トレーディングのように収益を生み出す部門もあるにはあるのですが、人数で比較すれば、間接部門の業務に従事している人が圧倒的多数を占めています。
では、収益を生んでいない部署で働いている人が大勢いるにもかかわらず、なぜメガバンクの本店はこれほどまでに立派な造りなのでしょうか。

そこには、銀行ビジネスの構造に裏打ちされた明確な理由があります。
実は、本店に籍を置く一部の収益部門が、グループ全体の利益を支えるほどの莫大な収益を叩き出しているのです。
もちろん、地方支店においても大企業の関連会社や工場などを顧客とし、相応の資金需要に応えることで収益を得ています。
しかし、本店の法人営業部や投資銀行部門が「ワンショット」で稼いでくる金額は、文字通り桁が違います。
本店の収益部門が手がけるのは、大企業同士のM&A仲介や、海外での大規模プロジェクトへの資金支援、東京に拠点を持つ大企業への融資など、1回の取引で巨額の利益を生むビジネスが中心です。
こうした数千億円規模のディールを動かす打ち合わせをするのに、地味で質素な応接室は、商談の場としてふさわしくありません。
これから天文学的な数字の契約を交わそうという局面で相手に「この銀行に任せて大丈夫か?」という一抹の不安を抱かせれば、それは信用の失墜につながりかねません。
つまり、あの圧倒されるほど豪華な本店の建物や応接室は、単なる贅沢ではありません。巨大な富を動かすプロフェッショナルたちが、互いの“信用”を確認し合うために不可欠な、いわば「ビジネスの舞台装置」なのです。
絶好調のメガバンク
そのメガバンクですが、株価が絶好調に値上がりしています(2025年12月時点)。とはいえ、株式を上場しているのは、そのメガバンクを傘下に収めている「ホールディングス」です。
ホールディングスとは、持株会社のことです。金融機関の場合は「フィナンシャル・グループ」という名称を使うことも多いです。
みずほ銀行ならみずほフィナンシャルグループ、三菱UFJ銀行なら三菱UFJフィナンシャル・グループ、そして三井住友銀行なら三井住友フィナンシャルグループがそれぞれ持株会社になっていて、それぞれの下に銀行・証券などさまざまな業態の金融機関がぶら下がっています。
こうした持株会社(後述)の株価は、つい数年前までどん底に近い水準まで値下がりしていました。たとえばみずほフィナンシャルグループの株価は、2020年3月安値が1084円です。それが今はどうかというと、2026年1月末時点で6783円になっています。実に6倍超の値上がりになっています。
三菱UFJフィナンシャル・グループは2020年3月安値が380円で、2026年1月末が2804円。三井住友フィナンシャルグループは2020年3月安値が835円で、2026年1月末が5472円ですから、それぞれこの5年間で、株価が大きく上昇しています。

これだけ株式が買われたということには、業績に対する期待感の高さが表れています。実際、これら3つのホールディングスの株価が動き始めたのは2022年11月あたりからですが、なぜこのタイミングで株価が本格的な上昇に転じたのかというと、金利を引き上げる動きが出てきたからです。
黒田東彦日本銀行前総裁の時代、日本銀行は超金融緩和を行いました。2016年1月29日には「マイナス金利政策」といって、銀行が日本銀行の当座預金に預けているお金の一部に対して、マイナス金利を適用したのです。
これは、要するに預金をすればするほど利息を取られるという異常事態です。
もともと銀行は、たとえば1%の金利で預金を集め、そのお金を利息2%で貸し出すことによって、1%の金利差を収益にするのが商売です。
ところが、金利がどんどん低くなると貸し出す際の金利も下がるので、銀行の収益が減っていくのと同時に、日本銀行の当座預金に預けたお金からは、マイナス金利によって利息が取られることになり、収益が大幅に悪化しました。メガバンクグループの持株会社の株価が低迷した原因は、まさにこれだったのです。
マイナス金利で沈み、利上げで復活
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まり、経済活動が再開されたのと同時に、海外ではロシアによるウクライナ侵攻が行われて地政学リスクが高まり、世界的にインフレが加速しました。それは、長年にわたってデフレ経済に苦しんでいた日本も例外ではありませんでした。
結果、日本銀行はマイナス金利政策を終了し、徐々に利上げの方向に舵を切り始めたのです。
金利が上がれば、銀行の収益は大きく改善していきます。
前述したように、銀行の基本的なビジネスは、たとえば1%の利率で預金を集め、利率2%でそのお金を貸し出すことによって、1%の金利差を得るというものです。現状、預金の利率はそれほど上がっていませんが、貸出金利は金利上昇に伴って先行して上昇するため、得られる貸出と預金の金利差、つまり利ざやが拡大します。結果、銀行にとっては収益が増えることになります。
ただ、ここで一歩出遅れているのが地方銀行です。
メガバンクがお金を貸している先は、大半が大手企業です。大手企業が融資を受ける場合は、「市場金利連動」の貸出の比率が高いため、融資を受ける企業も、市場金利が上がれば融資の金利も上がることを理解しています。
ところが、地方銀行の場合は、なかなかそうはいかない事情があります。なぜなら、メガバンクとは顧客層が違うからです。

地方銀行の場合、どちらかというと、中堅・中小企業がメインの取引先です。こうした融資先に適用される融資金利は、「市場金利連動」でない場合が多く、銀行と融資先との個別の話し合いによって決まります。
当然、お金を借りている側は融資の金利が上がると返済負担が重くなるので、話し合いの過程でごねるわけです。ごねる取引先を納得させるためには時間がかかるので、金利上昇による収益貢献に関して言えば、地方銀行はメガバンクに劣後せざるを得ないのです。
それと共に、メガバンクは海外ビジネスをはじめとする総合力で大きな収益を上げています。これは到底、地方銀行には真似ができないことです。
メガバンクは世界で稼いでいる
たとえば三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2008年に米大手投資銀行のモルガン・スタンレーに出資しました。その後、両グループの合弁事業として、MUFGが60%・モルガン側が40%出資する「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」と、出資比率を逆にした「モルガン・スタンレーMUFG証券」の2社を設立しました。
前者は三菱UFJフィナンシャル・グループの、後者はモルガン・スタンレーの連結子会社になっていますが、特に後者が米国で展開しているビジネスから得られる配当が莫大で、それが三菱UFJフィナンシャル・グループの稼ぎ頭になっています。

また、みずほフィナンシャルグループは当初、モルガン・スタンレーから出資の打診を受けたものの、その時点ではまだ準備が整っておらず、応諾できなかったという悔しい思いをしたわけですが、2015年にイギリス金融大手のロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)から32億ドル(約3800億円)の北米の企業向け貸出債権を買い取りました。
ここには約200もの企業グループ向け貸出債権の他、融資枠も含まれており、その時点で実行されていない融資枠も含めると、総額約365億ドル(約4.3兆円)にもなるという大型ディールでした。
そして三井住友フィナンシャルグループのキモは航空機リースビジネスです。
三井住友銀行と三井住友ファイナンス&リースが住友商事と共に、2012年6月にロイヤル・バンク・オブ・スコットランドのグループ企業だった航空機リース会社を買収したことで、三井住友フィナンシャルグループは現在、航空機リースでは日本最大、世界でも第2位の規模を誇っています。
地方銀行が、地元の中堅・中小企業を対象にした伝統的な銀行ビジネスで苦戦している一方で、メガバンクはこのように国境を越えて、さまざまなビジネスを展開しています。この総合力こそが、メガバンクの強みなのです。
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