政治における物語の使われ方が気になる
人は物語で物事を理解する。言語が組み立てられ、前後に接続される事で方向性とそれを支える文脈が構築される。起承転結が明示されると物語全体をごく自然に受け取ってしまう。わかった! という感覚を持ってしまう。
物語の要素は当然取捨選択されたものだ。どの言葉を入れて、どれを外すか。その選択によって物語は大きく様変わりするし、幅や深みも変わる。創作の楽しさはここにあるのだろう。だが、今気になっているのは、政治における物語の使われ方だ。
政治は現実のさまざまな要素を調整したり配分したり、バランスを取る仕事だ。その際目指すべきバランスのあり方の理想を語ることはとても大事だが、同時にそれが現実の社会において実行されることが求められる。だが最近の政治における物語の利用は現実と乖離した形で現れるように思う。
まずは「レアアース物語」だ。昨年の高市首相の存立危機事態発現以降、日中関係は冷え切っているわけだが、中国側が持っている切り札のカードと言われているのがレアアースの輸出規制だ。
細かい話は他に譲るとしてレアアースは磁石製品、EV製品、LED、半導体の製造などに使われる元素の総称で中国のシェアが圧倒的だ。特にレアアースの精錬において中国のシェアは9割だ。
この精錬過程でかなり環境が汚染されることもあり、西欧各国は自国での精錬を諦め、中国に汚れ仕事を任せてきたという歴史がある。30年間中国に精錬を押し付けてきた結果、関連特許も中国がほぼ独占する状況が生まれている。
米中貿易摩擦の際、中国がレアアースカードを切ったことで事態は一気に収束したとも言われている。日中関係が冷え込む中で、中国はまず軍民両用品の輸出規制をかけてきた。さすがに日本側が折れるかと思いきや、ここで「レアアース物語」が声高に語られ始める。
東京から2000キロ離れた南鳥島沖、海底6000メートルにレアアースを大量に含んだレアアース泥が大量にある。地球深部探査船「ちきゅう」がこのレアアース泥の回収に成功したのだ。これで日中のレアアース問題は一気に解決! 日本は自国産のレアアースで今後は困らないのだ!という物語が一気に拡散されたのだ。
松本洋平文科省は回収成功を速報としてSNSに投稿し、高市首相も選挙の街宣で「次の世代も、その次の世代を使っても使い切れないぐらい」と成功をアピールしたのだ。もちろん国産レアアースという選択肢が増えること自体は良いことだと思う。
だが、そもそもまだ産業開発が可能だというだけで海底6000メートルから大量のレアアース泥を取り出すのは至難の業だ。採掘に成功したとしても輸送から精錬までのコストは中国産の20倍くらいになるとの試算もある。産業としての確立にも10〜20年はかかると言われている。
しかも前述したように、現時点では精錬技術はほぼ中国に独占されているのだ。物語としては致命的な欠陥を抱えていると言わざるを得ない。
だが、この物語の持つ希望の側面に多くの読者は舞い上がり、そして冷え切ったままの日中関係という現実から乖離してしまうのだ。
先日、また別の大ニュースがあった。米国防総省の文書で「移設先の辺野古には長い滑走路が整備されない。日本が代替となる滑走路を選定するまで、普天間は返還されない」と書かれていることが報じられたのだ。
そもそも1995年の沖縄少女暴行事件をきっかけに米軍基地の返還が議論されるようになり、普天間基地の返還が議題に上がった。米軍のグアム移転まで議論されるようになったが、ここで普天間の返還に伴い基地機能を辺野古に移設するという話が出てくるのだ。普天間基地は住宅街の中にあり、その危険性を除去するのは早いほど良いと思うが辺野古移設がセットになったため、いつの間にか辺野古新基地が完成するまで普天間は返還されないことになってしまった。「辺野古新基地物語」である。

この辺野古の新基地建設の問題は、日本の領土を米国に新たに差し出すという主権に関わる話がまずあるが、基地建設工事自体がかなり難航することが予想されている。辺野古の海底はマヨネーズ状の軟弱地盤が広がっていて、その上に基地を作るには海底に大量の杭を打ち込むという新工法が取られることになっているのだ。この工法が果たして成功するのか? 成功するとしていつまで工事がかかるのか? が不明瞭なまま、辺野古の海には大量の土砂が放り込まれている。
日々反対運動をしている人たちが工事現場前で座り込みを続け県民投票で7割が反対しているにも関わらず、日本政府は辺野古が唯一の選択肢であるという物語をずっと唱えてきている。
ところが肝心の米軍側から完成予定の辺野古の滑走路では長さが足りないので、普天間と代替可能な滑走路が選定されるまで普天間の返還はしないと言われてしまったわけだ。前提となる普天間返還を無しにされている上に辺野古は完成したところで要らないとも取れる態度だ。
この後、表面上は日米の合意の確認がされたようだが、いつ完成するかもわからない上に米軍から必要とされない基地を作り続ける意味はどこにあるのか? 確かなのは日々発生する工事費が建設会社に入って行くことくらいだろう。
まだまだ物語は続く。例えば、「福島第一原発の廃炉物語」だ。東電は2051年に廃炉が完了すると言っているが、880トンある溶け落ちた燃料デブリのうち現状、2号機から耳かき2杯分の取り出しにしか成功していない。原子炉の冷却には大量の水が必要で、これが大量の汚染水を生み出している。ALPSで処理して海洋放出し続ける必要がある。
廃炉関連費用は増大していて、すでに8兆円を上回ることが不可避。事故処理全体でも20兆円を大きく超える規模になるという。福島原発の敷地の再利用は300年後とも言われている。果たして廃炉は実現できるのか? こうした現実をよそに電力需要に応えるために政治は原発再稼働に大きく傾いている。いまだに帰還できていない住民もいる中で、原発の物語は福島の事故などなかったかのようにまた語られ始めている。
気候変動対策では日本は毎年のCOPで化石賞を受賞するくらい対策が遅れている国と言われているが、一発逆転の奇策がある。これが「アンモニア混焼物語」だ。
化石燃料を燃やす際に補助燃料としてアンモニアを混ぜることでCO2排出量を削減できるという新技術がアンモニア混焼だ。だがアンモニアは燃焼時に窒素酸化物を発生させるので、この抑制が必要なのとそもそもアンモニアを作る段階で大量のCO2を発生させている。こうした点を乗り越える必要があるのだが、日本は東電と中電の合併会社JERAが実証実験を本格化させ、いずれはアンモニアのみで発電する専焼を目指すようだ。
国際的にはかなり懐疑的に見られている技術だが、日本はこの物語に前のめり。映画館では景気の良いJERAのCMが映画の前によく流れている。
希望の物語を語るのは、ポジティヴな姿勢とも言える。だが、同時に現実からは目を背けている点ではネガティヴな姿勢とも言える。
最近はそもそも一つ一つの物語の消費速度が速い。現実に見つかりそうになるとパッと派手な物語が打ち上げられ、すぐにまた次の物語が現れる。だが現実はスワイプ出来ない。そのまま僕らの前に横たわっているのだ。
礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。
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