ラッパー・GASHIMAさんによる人気連載『先生、俺またバグってます。』。
今回は、躁状態になると狂ってしまう「金銭感覚」のお話について語っていただきました。
人生最大の躁状態の時、GASHIMAさんは豪快すぎるお金の使い方をしてしまったそう……。ぜひご一読ください。
* * *
今回は双極性障害の症状の中でも
現実的かつ、社会的に大ダメージを
喰らわせてくる「金銭感覚」について
書いてみようと思う。
躁状態での金銭感覚の逸脱は
双極性障害が
狂気じみているポイントの
一つだとも言える。
そして、自分の中でも
文章にするべきか
迷うほどに恥ずかしい
トピックだ。
だが、せっかくこのコラムを
始めたからには
この病気のありのままを
皆さんにお伝えしよう。
一言で言えば、躁状態の俺は
スギちゃんでも引くぐらいに
ワイルドな男になってしまうのだ。
あれは人生最大の躁状態だった時。
俺は起業した後輩に突然、
「良い時計してないと
話も聞いてもらえないだろ?
起業祝いだ。付けとけ。」
とか言って、
高級時計を腕から外して
プレゼントしてしまった。
天国の勝新太郎が
「令和にもこんな男がいたのか。」
とほくそ笑むぐらいの漢気。
あまりに豪快すぎる。
カッコ付けた手前、申し上げにくいが
「やっぱり出世したら、返してね。」
と言いたいのが今の俺の本音だ。
また同時期に
急に思い立って、
財布、カバン、名刺入れ、
靴にいたるまで
すべてをハイブランドに
総取っ替えしてしまった。
別にブランド物なんて
好きでもないのに、だ。
ブランド物だけでは飽き足らず
アクセサリーも爆買い。
さらには思いつきで
フルカスタムのバイクを
立て続けに2台購入した。
自己投資の名の元、
機材やパソコンも
無駄にハイスペックなものを
導入しまくったし、
この頃にした散財は
ここに書ききれないほど。
何が恐ろしいって当の本人は
そんなにお金を使っている
自覚がないことなのだ。
異変に気付いたのは
クレジットカードの明細が
届いた時だった。
請求金額で驚いたのではない。
明細の分厚さで異変に気付いたのだ。
大きな金額の買い物がいくつか
あったなら、明細の枚数は
さほど変わらないはず。
俺がビビったのは明細の
入った封筒の分厚く、
重たかったことだった。
俺は前述したような
大きな出費だけじゃなく
飲食費やタクシー台にいたるまで
いたるところで
カードを切りまくっていたのだ。
躁状態になると
異常にアクティブになり
外出や社交が増える。
その度に俺はタクシーを利用して
行く先々で大人数に奢り倒すという
勝新太郎ムーブを行っていた。
※勝新太郎は個人的なイメージです
その結果、明細の枚数が増え
未だかつて見たことのない
厚みの封筒となって
俺の手元に届いたのだ。
その料金を支払い、
貯金も底をついた頃、
同じくして躁状態も終わり
鬱を迎えた。
鬱になると人は
躁状態の自分のやらかしを
振り返り、自責の念で
死にたくなってしまう。
俺も例外ではなかった。
毎日、ベッドから出られない。
枕元に死神が立って、
過去の過ちを責め立ててくる。
そんなある日、完全に忘れていた
多額の税金の納付書が届いた。
当然、支払える金額でもない。
「ほらな? もう死ねよ。」
耳元で死神が囁いてくる。
ぶっちゃけそんな気力も
残っていなかったが
ギリギリで金策をして
俺はその税金を納付した。
あの時の絶望感は
今も思い出すだけで
吐き気を催す。
そんな地獄の冬から数年。
去年の夏に軽躁状態を迎えた俺は
またもや勝新太郎モードに
ギアが入りかけていた。
車、音楽機材、時計。
あらゆるモノが欲しかった。
そして、躁状態の自分は
ガチガチに論理武装をして
それを買うべき理由を
プレゼンしてくる。
しかし、過去のトラウマが
ギリギリのところでそれに
ブレーキをかけた。
「どうせ、冬には鬱になる。
その時にまだ欲しかったら
買えばいい。」
そう自分に言い聞かせて、
すべての購入を一旦保留にした。
そして、このコラムを書きながら
改めてそれらが必要かを再検討してみる。
結果。
全部、不要。
むしろ全然、いらねぇ。
危うく数年前の恐怖を
もう一度、味わうところだった。
少し服が増えたクローゼットを
眺めながら
「ちょっとだけTシャツは
買いすぎたかもな。」
と反省をした今年の冬。
またもや俺を殺し損ねた
死神は舌打ちをして、
部屋を去っていった。
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先生、俺またバグってます。

3人組シンガーソングライター・グループ WHITE JAMのラッパーとして活躍するGASHIMA。
そんな彼はある日、「双極性障害」であると診断される。
思い返してみれば、昔から自分はちょっとバグってた。
日本とアメリカで経験した過去、生い立ちと音楽、メンタルヘルスの狭間で感じた「生きづらさ」をパーソナルかつリアルに綴るセルフドキュメンタリー連載。
目まぐるしく変わる環境に対するやり場のない怒り。
振り返ってみれば「若気の至り」だと思っていた破壊的衝動。
あれも、これも、もしかしたら躁状態だったのかも?
“ただの勢い”の裏にはちゃんと病理があった。
そう思えると、あの時の俺も少しだけ愛せるようになった。










