「科学の伝道師」「京大人気No.1教授」として知られる鎌田浩毅さんは、物事を「何千万年」「何億年」のスケールで考えるそうです。そんな鎌田さんの異色の人生論『想定外を楽しむ 一〇〇〇年に一度の時代の生き方』から「はじめに」をお届けします。

生成AIが誕生し、世界が目まぐるしく変化を始めました。日本では二〇二四年元日に起きた能登半島地震をはじめとして、自然災害や予想しない事件や事故が頻繁に起こり、「超・想定外」の状況が続いています。この混迷の時代、不安に駆られず、自分の軸を保つには、今までの生き方を根本から変える必要があります。
では、これからの時代を生き抜くために、私たちに必要なものは何でしょうか? 昨今ビジネス界でも「教養」の時代だといわれ、書店では教養関連の本が数多く並んでいるのを目にします。これは、今までの「正解」が通用しない中、何かに縛られず、自分らしく生きていく必須アイテムが教養であることに、多くの人が気づきはじめたからではないでしょうか。
必要な選択の前に、まずスケールの大きな話をしなければなりません。私たちが現在生きているのは、日本列島にとって一〇〇〇年ぶりの超・想定外の時代であるということです。
地球科学的には二〇一一年に起きた東日本大震災は、一〇〇〇年ぶりに起きたマグニチュード9、日本の観測史上最大という超弩級の(ちようどきゅう)巨大地震でした。しかし、私たち地球科学者が想定していたのは、三〇~四〇年に一度起きるマグニチュード7クラスの地震。
マグニチュードが2違うということは、エネルギーの単位でいうとざっと一〇〇〇倍も違うことになります。科学の力では、残念ながら東日本大震災を予測できませんでした。それから一四年以上経った今、日本列島では各地で地震と噴火が頻発しています。
私は科学者ではありますが、これらの出来事を経験し、科学的な予測に頼ったり、いわゆる「いい人生を送る」ために勉強したりすることに疑問をもつようになりました。すなわち、今の時代は、科学的な予測やコントロールが役に立たなくなってきたのではないでしょうか。
多くの人は現代社会を動かしているのは「資本主義」と「科学技術」だと考えています。つまり経済とテクノロジーが世の中の根幹をつくっている、と。それが、東日本大震災で大きく崩れてしまいました。
その後も科学が予想できない大災害やパンデミックが起こり、人びとの生活はたびたび破綻の危機に瀕しました。資本主義と科学技術に頼り過ぎると、超・想定外の出来事に対処しにくくなるのです。
地球科学的には今が一〇〇〇年ぶりの超・想定外の時代であることを念頭に置き、社会と人生を組み直す必要があります。すなわち、「人生はコントロールできない」=今までの「正解」が通用しない、という考え方から始めなければなりません。これまで私たちは学生時代から勉強したり、本を読んだりして、「いい学校」に入り、「いい会社」に入り、「いい暮らし」をすることを想定して準備してきました。
ところが、もはやその仕組みは壊れてしまった。偏差値の高い学校を出てもいい会社に入れるかわからないし、いい会社に入ってもそこでやりたい仕事に就けるかの確約はありません。羽振りの良かった会社が急に倒産する事例はいくらでも見聞きします。もはや学校や会社に頼らない人のほうが、かえって良い人生を送っていたりする。
「時間術」「勉強術」「読書術」「仕事術」……と術ばかりを身につけて人生に備えるこれまでの生き方は、時代に合っていないのではないか。抜本的な発想の転換が必要になってきたのです。
従来手本としていた「ロールモデル」はもはや過去のものになりつつあります。もちろん勉強したり、計画を立てて努力したりすることは大事です。しかし、それだけに頼ると、超・想定外の事態に対処ができないのです。
これからは「コントロールできないこと」の存在を人生の前提とすることが必要です。日々の生活でも、想定外のことが起きると考えておく。たとえば、計画性よりも「偶然」を大切にしようといったことです。
自分の意に沿わないことが起こっても、それを受け入れて楽しむ。そもそも生きていれば「偶然が起こるのが当たり前」なのだから、何でも計画通りにやろうとするのをやめるのです。
天気、出会う人、食べ物、環境など、日常で偶然に起こる出来事すべてをいったん受け入れて、その中でいいところを見つけて、前向きに生きていくという生き方です。
私が京都大学で二四年間行なった授業では、東日本大震災の発生後からメッセージが変わりました。必ず起きる「想定外」「偶然」の存在をまず意識してほしい、と学生たちに語りかけるようになりました。いわば偶然のもたらす「活きた時間」を発見するのです。
といっても、行き当たりばったりで生きていけばいいのではなく、勉強や計画性といった「知的武装」は必要です。「偶然を自分の人生に受容する」という計画性をもつ。それが「計画された偶然(プランド・ハップンスタンス、Planned Happenstance)」という画期的な方法です。
本書は、この「超・想定外」の時代に、賢くどう生きればよいかを真剣に考える本です。
「計画された偶然」と並んで本書が注目するのが「心のマグマ」です。人間のエネルギーの源泉、ときに煩悩(ぼんのう)とも呼べるものを、本書では「心のマグマ」と表現します。その正体を突き止め、その取り扱い方がわかることで、正解のない「超・想定外の時代」を生きる知恵が得られるのではないかと思うのです。
私は火山を専門とする地球科学者ですが、地球のマグマだけでなく「心のマグマ」にも大きな関心をもってきました。過剰なエネルギーを持てあますことなく、上手に使う方法です。生成AIですら不可能な、本当に人間らしい「知的能力」の回復です。よって本書では、歴史に名を残した先人たちの「心の爆発と活動」のエピソードに迫りながら、「超・想定外」の時代にふさわしい新しい生き方を提案していきます。
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想定外を楽しむ

日本の観測史上最大だった東日本大震災以来、日本列島はどんな大きな地震や噴火が起きてもおかしくない、1000年ぶりの「超・想定外の時代」を迎えている。こんな時代を、不安に振り回されずに生き抜くにはどうすればいいか。そのカギとなるのが、「人生は想定外と偶然の連続だ」と捉えること、そして、誰もが内に秘めている生のエネルギー=「心のマグマ」を上手に燃やすこと、である。火山のマグマは、人間の心のマグマと驚くほど似ている――。火山学者による、ユニークにしてスケールの大きな人生論。
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