一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでレビュー。さらに“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作るコーナー。
今月のオススメはこちらです!
また、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長が新刊の中からセレクトする、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」もあわせてお楽しみください!
【元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリスト
アルパカ内田さんが今、売りたい本】
第52回 澤田瞳子『春かずら』
皆さん、こんにちは。冬を過ぎても肩がハル、アルパカ内田です。
実に素晴らしい。宿命を背負った男の葛藤。静謐な空気感の中にあって、人間の内なる激情が見事に伝わる。時代小説において「仇討ち」を題材としたものは数多あるが、新たな名作誕生だ。
舞台は江戸時代の小藩。まずは清らかな水の流れが印象的な冒頭の場景描写に引き込まれる。「水の清らかさは日本一なのだ」と教えた亡き父の言葉を溶け込ませて、映像美がいっそう目に浮かぶ。五感のすべてを刺激し、何とも色彩が豊かで魅力的だ。
主人公の多賀清史郎は、仇討ちを果たせぬまま、母の死を弔うため12年ぶりに帰郷する。なぜ父は朴訥な旧友に殺されたのか。咎人はなぜ行方をくらましたのか。その事件の真相に近づくほど謎は深まる一方で、まるで上質なミステリー作品のよう。心を許せる無二の友や、憎むべき相手の家族と交流を重ねるうち、仇討ちが虚しいものになる。
歳月の重たさを痛切に感じる。故郷の景色はまったく変わらないが、そこで暮らす人々の営みは当然変わり続けるのだ。心をかき乱されるのは、妻となるはずだった早苗との再会である。すでにとある家の後家として嫁いでいたが、親子ほど年の差のある結婚にも大きな理由があった。早苗の秘めたる心情の吐露が真っすぐに突き刺さる。
物語を通じて武士の生きざまを考えさせられる。組織で生きる職業人の矜持、男女の心模様、そして男の友情の行方。読みどころしか見当たらないが、心を揺さぶる極上の人間ドラマであることに間違いない。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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