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書くこと読むこと

2026.01.31 公開 ポスト

榎田ユウリさん 『殺し屋がレジにいる』:親切さのない、暴力的で手に余る存在が書きたかったんです。瀧井朝世

「書くこと読むこと」は、ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。

今回は、新刊 『殺し屋がレジにいる』を刊行された、榎田ユウリさんさんにお話をおうかがいしました。

小説幻冬2026年2月号より転載)

*   *   *

 
榎田ユウリ:2000年、『夏の塩』で小説家デビュー。榎田尤利名義でBL作品を多数発表。『カブキブ!』がアニメ化、『先生のおとりよせ』(中村明日美子と共著)、『永遠の昨日』がドラマ化されている。

「普段は圧倒的に男性の主人公を書いているので、女性のキャラをメインで書くのは新鮮でした」

と、榎田ユウリさん。新作『殺し屋がレジにいる』の主人公は、榊冴子、離婚を経て現在一人暮らしの52歳。兄からは親の介護問題を押し付けられ、仕事先のスーパーでは客や店長から舐められ、ぐっと耐える彼女が、レジで迷惑男性客に毅然と立ち向かう派手な老女に出くわす。後日、冴子は彼女の正体が72歳にして凄腕の殺し屋、山田グロリアだと知り──。

「もともと強い女性が出てくるコンテンツが好きなんです。一般的に弱者とみなされがちな女性、しかも高齢者が、現実離れしているくらい強くて無遠慮で、自由な存在だったら面白いな、って」

グロリアは身体能力が優れているだけでなく非常に口の悪い女性で、「自分は言えないので、書いていて楽しかったです(笑)」。

一方、主人公の冴子は「すみません」が口癖である。

「グロリアの相方として、小さな理不尽に我慢しながら生きている存在を考えた時に、冴子が浮かびました。自分に近くてとらえやすいキャラクターですが、近いからこそ描きにくさもありましたね」

冴子はモラハラ夫に軟禁されている親友を助けるために強くなりたいと思い、グロリアにトレーナー役を頼みこむ。だが、グロリアはそれをあっさり却下。

「教え導かないんですよね。そうした親切さのない、暴力的で手に余る存在が書きたかったんです」

冴子が人に導かれるのではなく、自発的に行動を起こす姿は、同世代なら励まされるはず。

「書き終わってから気が付いたのですが、グロリアは“死”そのものを暗喩しているのかもしれません。冴子も中年になって、家族が弱っていくところを見て、死をリアルに感じるようになっている。自分もいつか死ぬのに、このままでいいのか? みたいな心の声があったんじゃないのかな、とも思いました」

冴子を助けるのは、グロリアの仲間たち。老人ホームを隠れ家にしている彼らは、ユニークな方法で彼女を鍛えていく。では冴子は、どのようにして親友を助けるのか。

「それは迷いました。冴子は暴力は振るいたくないし、振るわれたくない人なんですよね。決して相手をぶちのめしたいわけじゃないんです」

それにしても、親友の夫や冴子の兄や父、元夫ら男性たちはふがいない印象だ。

「男性にも、それぞれの大変さがある。男は強くあれという抑圧が、ときに加害者を生むのかもしれません。その抑圧はきっと大きなストレスなのでしょうが……だからといって、こちらに理不尽なことを強いられても困りますよね。それはそれ、これはこれ、なんですよね」

グロリアも、理不尽を受け入れがちな冴子に「怒れ」と言う。

「怒るのって難しいんですよね。駄目だとか嫌だとか思っても、何も言わないほうがその場がスムーズに終わるので。でも、それだとキリがなくて、中年くらいになると、このまま我慢しながら死んでいくのかと一回見直すことになる。はっきり“駄目”と言えたほうがいいし、言えなくても、“本当は駄目だ”と認識しておけば、それは下の世代に伝わっていく。急には変えられなくても、そうやって少しずつ変えていけたらいいなと思います」

そして物語は意外な方向へ進み、やがてド派手な展開が……!

「『バーフバリ』とか『RRR』みたいな映画を観ると元気になれるので、そういうものをお届けしたい気持ちがあります」

我慢しがちな人をエンパワメントしてくれ、スカッとさせてくれる本作。好きな本の印象的なフレーズに挙げてくれたのも、じつにパワフルな言葉。柴田ヨクサルさんの漫画『ハチワンダイバー』の第7巻に出てくる台詞で、〈「何人も殺してるババァだ」〉から〈「だから一番強ェエのはジジィとババァだ!!!」〉までの流れ。

何人も殺してるババァだ

ババァだから怖いもんなんてないんだよ

いつでも特攻隊の精神なんだよ! ババァだから

先の短ェ奴ぁ未練がなけりゃ精神的には無敵だ

だから一番強ェエのはジジィとババァだ!!!

『ハチワンダイバー 7』柴田ヨクサル著(ヤングジャンプコミックス)より

「これは私の愛読書です。将棋漫画ですがどんどん話が大きくなって、おばあちゃんたちのアサシングループが出てくるんですよ。この一連のセリフに、なるほどなと思って。定期的に読み返しているので好きな台詞はいろいろありますが、今回の小説に繋がるのでここを選びました」

自分に近い女性主人公を書くのは難しかったというが、榎田さんにはぜひ、またパワフルな女性を書いてほしい。

「難しさはすごく感じましたが、“大変だったのでもう女性主人公は書かないです”という気持ちにはなっていないですね。また、荒唐無稽に強い女性を書きたいなと思います」

と、心強い言葉が返ってきた!

榎田ユウリ『殺し屋がレジにいる』講談社/2475円(税込)

周囲に舐められがちな52歳の榊冴子は、ある時レジで老女が迷惑客を撃退する場面に遭遇。ブルース・リーのような黄色いジャージを着たド派手な彼女の正体は72歳の殺し屋、山田グロリア。モラハラ夫に軟禁された親友を救うため、冴子はグロリアに近づくが……。

 取材・文/瀧井朝世、撮影/〈静物〉米玉利朋子(G.P.FLAG) 

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書くこと読むこと

ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。小説幻冬での人気連載が、幻冬舎plusにも登場です。

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瀧井朝世

フリーライター。多くの雑誌などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009~13年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。現在は同コーナーのブレーンを務める。著書に『偏愛読書トライアングル』(新潮社)、『あの人とあの本の話』(小学館)、『ほんのよもやま話 作家対談集』(文藝春秋)など。

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