格差やSNSの功罪を題材にした警察小説、文庫『サドンデス』が刊行されました。著者の相場英雄さんに作品への思いを伺いました。
(小説幻冬2026年2月号より転載)
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――この作品は、二一歳の女子大生が貧困生活を抜け出す一方で、百貨店で活躍していた五〇代の男が会社をクビになり生活が苦しくなるという対照的な人生を、克明に描いています。
作品の準備で構想を練っていた時期が、まさしくコロナ禍でした。デフレの長期化で景気が冷え込む中、コロナでさらに日本経済が追い討ちをかけられていた頃、人気がなくなった街を歩くうち、地元駅の高架下で客引きをする女子大生数名を見かけました。同じ頃、大手百貨店に出向くと、人影もまばらな中、不貞腐れた表情で体温を測っているスーツ姿の男性店員の顔を見たのです。直後から、対照的なキャラクター、接点のない二人が絡み合っていったら面白いと考え、それが本編の出発点となりました。
――もう一人の視点人物が警視庁サイバー犯罪対策課の長峰です。ITオタクで、従来の刑事らしくない彼は、『血の雫』(幻冬舎文庫)以来の登場です。
熱血漢、地道、残業も厭わない――警察小説で描き尽くされている刑事像を作っても、今回の作品には馴染まないと考えました。ネット社会の歪みを、サイバー捜査員の目線で切り取れば、新たな犯罪の断面が見えてくるはず。そう考えて長峰に登場してもらいました。
――三人ともとても個性的なのに、その一方でどこかに存在していそうというリアリティを覚えてしまいます。
小説に登場するキャラクターを実際のモデルに当てはめるケースはほとんどありません。ただ、日頃から街歩きをする間、人間観察をする。道行く人々の様々なクセ、歩き方、あるいは友人との会話に気をとめていると、おのずと小説の登場人物に投影されていきます。日々、人混みに身を投じ、人間を見ることがキャラクター作りに直結していると感じています。
――誰もが情報発信できるSNSが本作のキーになっているようにお見受けしています。
SNSは怖いモノというのが基本認識です。己のプライバシーや思想信条をつぶさに世界中に発信できるツールであり、誰かとつながることもできる。その反面、反対意見を持つ者からは監視され、ときに攻撃されることも。言葉は悪いですが、SNSは「バカ発見機」の側面も持っています。虎視眈々と個人を食い物にしようとたくらむ輩が一人ひとりを監視して、かつ収益化しようとしていることを忘れてはなりません。私個人としては、自作の宣伝、食べ歩きの記録用としてのみ使っています。

――本作は物語の舞台が東京の新宿区高田馬場や渋谷区恵比寿、そして京都の祇園に移っていきます。
新宿や渋谷は筆者にとっていつもの出没エリアです。最先端の流行や風俗が日本中に発信される地域なので、常に情報収集のアンテナを張りながら街を歩いています。京都、特に祇園は余所者が入りにくいエリアのため、この地域を攻略していく主人公の成長ぶりを描きたかった面もありました。物語の舞台となる街やエリアについては、実際に歩き回り、メシを食い、酒を飲んでみて、ストーリーにマッチするか常に考え、決めています。
――現実の世界を映す作風の背景が垣間見えました。最近気になったニュースや事件を教えていただけますでしょうか。
トクリュウを追う警察官が取り込まれ、逮捕された事件。小説のネタにしようと考えていたところ、現実が先に世に出てしまいました。












