友人たちは結婚していくのに、私は何も変わらない。
祝うべきはずの席で、どうしてこんなに苦しくなってしまうんだろう……。
20代女性のリアルを描いた、『私以外、みんな幸せそうに見えた』(2月5日発売)より、第三話をお届けします。
* * *

第三話 ひとりぼっちの私
ああ、この人とももうすぐ終わるだろうな。
私の上で体を揺さぶり、荒い息を吐く恋人をぼんやりと見上げながら、ふいにそんなことを思った。
喧嘩したわけでもないのに、ある瞬間、恋人との別れがよぎる。こんな予感は今まで何度もあった。今回はよりによってセックスの最中だ。危うく噴き出すところだった。
それは私に予知能力があるだとか、スピリチュアル的な話ではない。単なる経験と勘だった。
そもそも私は“永遠”という言葉をずいぶん前に忘れてしまった。恋人ができても、いつか終わる恋だと覚悟しながら過ごすようになっていた。
最後に本気で人を好きになったのはいつだっただろう。恋が実って浮かれたのは。
共に過ごす時間を当たり前に感じたのは。いつか結婚して子供が生まれて、幸せな日々を過ごす──そんな“普通の幸せ”を諦めてしまったのは、いったいいつからだったのだろう。
つまり私は、つまらない大人になってしまったのだ。
*
しばらく疎遠になっていたのが嘘のように、私たち四人は定期的に集まるようになった。
それは“学生時代の友達”という気兼ねない関係性だからではなく、単に独身のみのグループが稀少になっているからだ。もっとも、もうすぐそれも終わるのだけど。
「穂乃果、おめでとう!」
ひまりのかけ声で、四人でグラスを合わせた。
穂乃果から結婚することになったとグループトークで報告を受けたのは、四月の初めだった。みんなでお祝いしようとひまりが提案してから実際に集まるまで八ヵ月もかかったのは、結婚予定は来年の三月だから急いで集まる必要がなかったことと、例によってなかなか四人の都合が合わなかったことが理由だ。
総合商社に勤めている椿、漫画編集者のひまり、そして中学三年生を受け持っている教師の穂乃果。三人とも多忙を極めている。
暇なのは、私だけ。
「新奈、よく土曜に都合ついたね。プランナーって土日はめちゃめちゃ忙しいんじゃない?」
ひまりに問われ、思わず目を伏せた。
「まあ、今はそんなに忙しくないから」
「そうなんだ。確かに年末年始って結婚式のイメージないもんね。とにかく四人で集まれてよかった!」
曖昧に微笑みながら前菜に口をつけた。椿が選んだフレンチレストランなだけあって、値段は式場よりもリーズナブルながら負けず劣らずおいしい。椿いわく、今日はクリスマスシーズン限定の特別コースだそうだ。
だけど今の財布事情を考えると、純粋に味わうことも楽しむこともできない。
「さっそくなんだけど、新奈にお願いがあって」
前菜を食べ終えた穂乃果がナイフとフォークを置き、私のほうを向いた。
「結婚したあとに式も挙げたいと思ってるんだけど、よかったら担当してくれないかな」
ビールを噴き出しそうになってしまった。
「え……なんで?」
「覚えてない? 高校の頃、みんなが結婚式するときは絶対に担当するからって言ってくれてたでしょ?」
恥ずかしいことを思い出させないでほしい。
「あーうん、言ってたかも」
必死に夢を追いかけ、輝く未来が手に入ると信じていたあの頃。
こんな今が待っているなんて夢にも思わずに高々と宣言していた、無垢で愚かだった過去の私。
「三月に結婚するんだよね? 式はいつ頃挙げる予定なの?」
「まだ決めてないよ。先に新奈に訊いてから決めようと思って。絶対に担当してほしいから」
満面の笑みで余計なことを言ってくれる。
先に日取りを決めてくれていたら、式の予定が入っていると断れたのに。
「そっか。でも、どうだろ。来年の予定もけっこう埋まってるし、スケジュール確認してみないと」
「そうだよね。じゃあ、いつ頃なら大丈夫そうかわかったら連絡くれる?」
「うん、わかった」
微笑み返す気にはなれず、すぐさまポタージュに口をつけた。
バカじゃないの、と毒を吐いてやりたくなる。
十年もだらだらと付き合った挙げ句に浮気され、人のアドバイスを無視して結婚する友達をどんな心境で見届けろというのか。
何よりタイミングが悪すぎる。
私はつい最近彼氏に振られたばかりだ。
たった三ヵ月付き合っただけの男に未練などないし、予感が的中しただけだからショックでもない。ただちょっと、まるで自分自身を否定されたかのような虚しさが残っているだけ。
とはいえ友達の幸せを祝福できるかと言われたら、それとこれとは話は別だ。
なんて空気の読めない女なのだろう。アラサー独身女の集まりで幸せアピールをするだけじゃ飽き足らず、当然のように仕事まで投げてくるなんて。
この歳になれば、結婚報告は勝ち逃げ宣言だ。
「それにしても、ついに穂乃果が結婚かあ」
二杯目のスパークリングワインを飲み干したひまりは、すでに顔が赤らんでいる。
「いいなあ。椿と智樹くんの大恋愛もすごかったけど、幼なじみで高校からずっと付き合ってた人とゴールインなんて憧れちゃう」
「私と智樹の話はもういいから。ひまりだって彼氏できたんでしょ? 歳も歳だし、結婚考えてるんじゃないの?」
「結婚するとしてもまだまだ先だよ。付き合い始めたばっかりだし、お互い仕事も忙しいし。ていうか椿のほうがよっぽど順風満帆じゃん。恋愛も仕事も順調なんだから」
「なんの話? 仕事はまあ順調といえば順調だけど、恋愛なんか全然してないよ」
「だって彼氏いるんだよね? なんだっけ、IT社長の、確かツカダさん?」
「ツカダさんは全然そういう感じじゃないよ。全然付き合ってないし結婚とかありえないから。よき友人だよ、よき友人。ていうか今は恋愛する暇なんかないくらい忙しいし」
みんなの話を聞いているだけで、料理の味が薄れていく。
私にとって、この会は居心地がいいものではなかった。窓の外を見れば、街は来週のクリスマスに向けて煌びやかに装飾され、雪がぱらぱらと降り始めていた。そういえば三年ぶりに四人で集まったのも冬だったから、あれから丸二年が経とうとしている。
* * *
忘れられない恋の続きは、ぜひ本書で。
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私以外、みんな幸せそうに見えた

忘れられない元彼を引きずる椿。裏切りが頭から離れず結婚をためらう穂乃果。誰かの「いちばん」になりたい新奈。学生時代の過ちを背負い、幸せを諦めようとするひまり。30歳を目前に焦りと不安で揺れ惑う4人の女性たち。あまりに違う「理想と現実の狭間」で、彼女たちが見つけた小さな光とは。20代のリアルを描いた、共感必至の恋愛ストーリー集。
本連載では、試し読みをお届けします。










