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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2026.01.14 公開 ポスト

中年夫婦が3時間超えの映画「アバター3」を見た結果カレー沢薫

1月4日に初詣に行ってきた。

もちろん私の意志ではない、むしろ部屋至上主義過激派の私にとって神社は異教の神を祀るところであり、アンデルセン神父だったら鳥居を別の赤に染めているところだ。

周囲は私の信仰を理解し、私を外に出そうとすることは滅多にないのだが、こういう行事的なことまで「面倒」という宗教上の理由で断り続けると、社会や家庭生活上の問題が出てくる。

よってたまに外にでることもあるが、どうせ外出するなら、同時にいろいろと用を済ませたい。そこで「他に行くところがあるか」と夫に聞いたのだが、それが良くなった。

夫は「今映画は何をやっているだろうか」と言い出した。

外出至上主義の中でも多動支部に属する私にとって映画は、禁忌を犯してでも劇場で見ておかなければ後悔しそうな作品のみを見に行く場所である。

そんな軽いノリで己を2時間拘束する修行は我が宗派にはない。

しかし、自分で言い出した手前「やはり初詣RTAで帰ろう」とも言い難い。

そうしている間にも夫は映画の上映情報を調べはじめてしまった、こうなったらフランスの雰囲気映画しか上映していないことを祈ったが、冬休み中にそれはない。

映画に行くのは確として、あとはどれだけ自分も楽しめる映画を選ぶかだ、上映中作品で選ぶとしたら「ズートピア2」だろう、前作はテレビで見たし面白かった。

しかし、夫は前作を見ていないはずだ、続編映画を勧めるのは気が引ける、そう迷っていると、夫が「アバター」と言い出した。

相手が前作を見ていないことを考慮し出遅れた自分が愚かであった。

アバターもゴリゴリのナンバリング作品であり今回で三作目だ。ズートピア2よりもカードが強い。

「アバター初見で突然3から見たくない」と言えればまだ良かったが、私は1だけ見て2を見ていないという中途半端さだったのだ。

確かにシリーズ作品の中には単体で見ても大丈夫なものもある。

ワイルドスピードシリーズを見たことがないのに突然「TOKYO DRIFT」を見に行って茫然自失したことがある我々だ、それに比べれば「突然アバター3を見たくない」というのは説得力に欠ける。

 

だが、私が懸念しているのは内容ではない。「3時間20分」という上映時間だ。

これは多動支部だけでなく、中年本部も騒然とする時間だ。

尻や腰に食らうダメージ計算だけでなく尿意の奇襲にも備えなければならない、正月早々そんな本格的コンバットをする必要はないだろう。

私はアバターがいい悪いではなく、何度も「されど3時間20分」「だがこの映画3時間20分なのである」と時間への懸念を示したのだが、夫は自分が老いたことに気づかず屋根や木から落下するタイプの中年なため、その点を全く気にしてない様子だ。

同じ超巨編ならみんな大好き「国宝」をこの機に見た方が良いような気さえしたが、夫は芸術系に興味はなく、芸術でない物が爆発している系を好むのだ。

2を見てない奴に3を見せようとしている奴にそんな気を使う必要はないのかもしれないが、自分も国宝を楽しめる確証はどこにもない。

結局私の「もう上演時間が2時間に抑えられているならどれでもいい」というサインは受け取られることなく、アバターを朝イチから見ることになってしまったのだが、結果的にこれで良かったような気もする。

何故なら「寝た」のである。

思えば劇場で寝たのは初めてかもしれない。

決してアバターはつまらない作品ではない、ただ2を見ずに3を見るのは若干厳しかったというだけだ。

しかし幸い1の記憶があったため、全然わからなかったわけでもなく、部分的に寝るだけにとどまった。

3時間以上あることにより、仮に通算1時間寝ていたとしても普通の映画分は見ていたことになり、損はしていない計算になるのだ。

1時間も見ていないと、鑑賞後に感想を言うことができず、寝ていたことが同行者にバレる恐れはあるが、それも相手が夫なので安心である。

彼は見た映画に何の感想も抱かないことに定評があるため「あのアバター神輿すごかったよね」などと話をフラれて露見することがない。

実際に劇場を出てから感想が交わされることは一切なく、夫が唯一漏らしたのは「3時間は長い」であった。

だからあれほど3時間20分の脅威についてアピールしたのにと思ったが、遠まわしすぎたのかもしれない。

私の戒律に「3時間越えの映画は見ない」が追加されたので、今後ははっきりと宗派の違いを理由に断ろうと思う。

 

 

 

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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