“今度の「合法的脱税(マネーロンダリング)」は、暗号資産(クリプト)! これが令和の冒険ミステリーだ!!”
橘玲さん11年ぶりの書き下ろし長編『HACK(ハック)』を翻訳家・評論家の大森望さんにお読みいただきました。
年間ベスト級の面白さを誇る、現在進行形のアクチュアルな冒険小説
小説としては『ダブルマリッジ』以来8年9カ月ぶり、書き下ろしとしては『タックスヘイヴン』以来11年ぶりとなる橘玲の新作長編、『HACK』が刊行された。タイトル通り、ハッキングを核にした娯楽小説だが、まるでノンフィクションのような迫真のリアリティとすさまじい情報量で読者を圧倒する。
北朝鮮のハッカー集団が関与したとされる莫大な額の暗号資産盗難事件。フィリピンの入管施設から強制送還され逮捕されたルフィ一味。中国系犯罪組織が牛耳る、ミャンマーの大規模な特殊詐欺拠点。大麻由来の成分CBD(カンナビジオール)とTHC(テトラヒドロカンナビノール)……。
つい最近、テレビのニュース番組やネット記事で目にしたような事件や事物がほとんどリアルタイムで作中にとりこまれ、裏情報も交えながらわかりやすく解説される。一種の経済小説としても抜群に面白いが、カオサン通りの裏の顔や絶品グルメを紹介するディープ・バンコク観光小説でもあり、村上春樹ばりの恋愛小説でもある。やがてゆっくりと立ち上がってくる本筋は、巨額の暗号資産をとりもどすためのスリリングなタイムリミット・サスペンス。
時は2024年秋。バンコクで暮らすハッカーの樹生(30歳)は、知り合いのうさんくさい日本人から、特殊詐欺で稼いだ違法資金を暗号資産でロンダリングする商売を持ちかけられる。だが、その計画の背後には、さらに大きな裏の計画があった……。
子どもの頃から憧れていた元アイドル・咲桜との夢のような恋。伝説のハッカーHAL。シンガポールの日本大使館に出向している公安畑の若き凄腕検察官・榊原との関係。暗躍する諜報機関と犯罪組織。ハッキング描写をはじめ、ディテールはおそろしく緻密でリアルなのに、人物配置やストーリー展開は派手なエンタメ一直線。にもかかわらず、悪役の設定や主人公の動機は説得力充分。年間ベスト級の面白さを誇る、現在進行形のアクチュアルな冒険小説だ。












