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先生、俺またバグってます。

2025.11.05 公開 ポスト

ラップバトルと双極性障害GASHIMA (WHITE JAM)

多方面から注目を集めるラッパー・GASHIMAさんによる連載『先生、俺またバグってます。』。

第5回のテーマは、「ラップバトル」と「双極性障害」について。
フリースタイルダンジョンで“ヒール”として名を刻んだGASHIMAさんが、ステージへの思いと覚悟を赤裸々に綴ってくださいました。

*         *        *

「GASHIMAさん、
もっとバトルに出てください。」

ありがたいことに
バトルファンや
イベント主催者から
こう言って頂けることが多い。

 

ラップバトルは即興で
相手のことをディスり、
返ってきた言葉に、
また瞬時にアンサーを返す。

普段、生活をしていて、
あんなに頭をフル回転させることはない。

社会現象にまでなった
人気ラップバトル番組
「フリースタイルダンジョン」に
出演した際、俺は過去一のヒール役として
大きな反響を呼んだ。

まだ知名度の高くないラッパーが
バトル界屈指のチャンピオンたちに挑む。
モンスターと呼ばれるその名手達を
4人連続で打ち破った後に
ラスボスの般若さんと戦う。

そして、その「無理ゲー」をクリアしたら
100万円の賞金が授与される。

そんな番組の主旨に対し
突如、メジャーシーン代表として
殴り込みをかけたのが俺だ。
紹介インタビューではこう答えた。

「100万円なんて待ち時間に
一曲書いたら簡単に稼げる。」

「逆に俺に勝てた奴に
100万くれてやる。」

そんな挑発的な発言を繰り返し
バトルでもレジェンド達に対し、
一線を越えたディスをぶつけまくった。

別に裏でシメられても仕方ない。
あの時の俺は本気でそう思ってた。

そんなイメージがあるから、
普段、人に会うと

「GASHIMAさんって、
もっとイケイケで怖い人だと
思っていました。」

と驚かれることが多い。

「あのヒール役は計算で
やっていたんですね。」

「エンターテイナー精神がすごい!」

そんなことをよく言われるが
俺はそこまで器用じゃない。

バトルに挑む時の俺は
おそらく軽躁状態に近いのだ。

初めてフリースタイルダンジョンに
出た時は双極性障害と診断される前。
だから、自分が軽躁状態だとは
認識していなかった。

でも、振り返ってみると
当時、俺や周りが
「仕上がっている」と
思っていた状態は
躁状態に近かったように思う。

バトルへの調整期間、
俺はあらゆる方法で戦いに備える。

知らない土地でラッパー達が
ラップの掛け合いをしている
サイファーに殴り込みをかける。
そうすることでアウェイな場での
耐性を作っていく。

ラップの持久力を鍛えるために
12時間~24時間ぶっ続けで
即興ラップを続ける
「耐久サイファー」をやる。

実際のクラブ環境で
実践方式のバトルを繰り返す
「スパーリング」を行い、
現場の肌感を身体に馴染ませる。

試合当日に向けて、このメニューの
頻度を上げて、追い込んでいく。

大声で他人と口喧嘩をするなんて
普通に生きていたら滅多にないこと。
仮に相当イケイケな人がいたとしても
週に1, 2回そんなことがあれば良い方だろう。

それを週5~7でやっていくわけだから
脳や交感神経に与えるストレスは
きっと計り知れない。

高速で回転する頭、
魔法のように繋がっていく韻、
どんな相手にも引かない負けん気。

そのすべてを追い求めた結果
出来上がるのが
いつもみんながバトルで見ている
あの「ヒールのGASHIMA」だ。

そして、バトル当日まで
テンションを上げた分、
気が抜けた瞬間に
鬱状態に陥ることも少なくない。

だから、たくさんのオファーや
バトルファンたちの要望に
応えたい気持ちはあるけど、
出場するのには時期を選ぶ。

「双極持ちなんだったら
バトル出るのはやめときなよ。」

そんな声も多い。

だけど、バトルが生き甲斐なんだ。

積み上げてきた評判を一瞬で
失うかも知れないヒリヒリ感。
即興のパンチラインに湧き上がる歓声。

そのすべてに魅了される。

14歳で「ラップで食っていく」と
腹を括った時、俺は人生のすべてを
こいつにベットした。

だから、必ず俺はまたバトルをする。

だけど、安心して欲しい。
俺は絶対にあのステージの魔物に
自分を殺させない。
だからこそ、タイミングには
慎重になってるだけ。

みんなが好きな「あのGASHIMA」で
必ず俺はまたステージに帰ってくる。
今は少し辛抱して、
その日を楽しみに待っていてほしい。

「俺はラップするために生まれた。」

14歳の時に俺が感じた
あの気持ちは
世界中のみんなが止めたって
揺らぐことはない。

「双極性障害」という名の呪い。
それは俺がラッパーになるために
神様が与えてくれた
最高のギフトなんだから。

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先生、俺またバグってます。

3人組シンガーソングライター・グループ WHITE JAMのラッパーとして活躍するGASHIMA。

そんな彼はある日、「双極性障害」であると診断される。

思い返してみれば、昔から自分はちょっとバグってた。

日本とアメリカで経験した過去、生い立ちと音楽、メンタルヘルスの狭間で感じた「生きづらさ」をパーソナルかつリアルに綴るセルフドキュメンタリー連載。

目まぐるしく変わる環境に対するやり場のない怒り。

振り返ってみれば「若気の至り」だと思っていた破壊的衝動。

あれも、これも、もしかしたら躁状態だったのかも?

 

“ただの勢い”の裏にはちゃんと病理があった。

そう思えると、あの時の俺も少しだけ愛せるようになった。

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GASHIMA (WHITE JAM)

兵庫県生まれ。一橋大学卒。

中学時代をロサンゼルス、高校時代をニューヨークで過ごしたバイリンガル・ラッパー。

2014年、3人組シンガーソングライター・グループ、WHITE JAM のメンバーとしてメジャーデビュー。

日本語と英語を巧みに使いこなすリリックに定評のある作詞家として、

グループだけでなく他アーティストへの作詞提供も多数。

 

海外での孤立体験、日本の音楽業界での挫折、双極性障害の診断など、

複雑なバックグラウンドを持ち、近年はそうした内面を率直に発信。

精神疾患に対する偏見や「生きづらさ」への理解を広げる活動にも力を入れている。

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