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クロスロード凡説

2025.10.08 公開 ポスト

東京のBlues辻皓平(ニッポンの社長)(お笑い芸人)

東京に来て2年半が経つ。

 

 

それまでの人生で東京に対して抱いていた感情は、なんか人が多そうとか、芸能人がそこらへんに居そうとか、家賃が高そうとか、ドラマみたいに標準語で話してはるんやとか。

 

以上に、
僕には東京に対して、ある強い印象があった。

 

 

歌詞に出てきすぎやろ。
である。

 

 

 

音楽を聴いてたらなんかあったら東京。タイトルでも東京。サビでも「東京の夜は~」とか、東京に来て何年とか、なんやったらTOKYOとかもある。

 

バンドのアルバムに一曲は「東京」って言葉出てくる気がしてた。

 

 

いや、知らんて。
東京。
あんま行った事無いねん。

 

 

「東京」ってワードじゃなくても、東京が出てくる。例えば、「下北沢のライブハウスで~」とか、「高円寺の飲み屋で~」とか、

 

 

知らんて。
どこやねん。
とか思ってた。

 

 

いや、そんなん自分が住んだりしてるとこの身内ネタやめてくれ。と。
なんも共感でけへんわい。
と思ってた。

 

 

今、2年半住んでみて思う事は、

 

東京。
歌詞にするべきや。
である。

 

 

いや、
歌詞にするべきじゃん。
である。

 

 

これまで文句言ってごめんなさい。
だ。
歌詞にして良い。
東京という街は。

 

 

東京には、それくらいの憂鬱、いや、Bluesが蔓延してる。

 

 

満員電車のBlues、

 

東京の会社に勤めているが、家賃を抑える為、千葉や神奈川から通っている。

一時間半も揺られてくたくたで家に着いて飯と風呂終わったらもう23時。
寝てまた明日の朝7時には家を出る。

 

 

 

下北沢のBlues、

 

バンドで一発当てる為に田舎から出てきた。

 

バンドと言えば下北沢だ。雑誌やネットでメンバー募集をかけ、同じような奴らと活動を始めた。

 

ライブハウス界隈では少し頭角を現し始めた頃、ボーカルが脱退を表明した。もっと自分の音楽がしたいらしい。ボーカルで一番人気なあいつが居ないとこのバンドは成り立たない。

 

解散する。
俺は曲は書けるが、歌う程の華は無い。

 

その後またバンドを組み、また同じような理由で解散。そんな事を3回繰り返し、今はもうバンドは10年間組んでいない。

 

啖呵を切って出てった実家には今更帰れない。
下北沢の居酒屋で雇われ店長として働き、一応安定した生計を立ててる。

 

飲みに来るのも顔馴染みばかり、そんな奴らの愚痴を聞きながらやっていくのも悪くない。

 

 

 

高円寺のBlues、

 

昔から格好良い、男前だとよく言われた。
実際に女に困った事は無かった。
そして目立つのが好きだった。文化祭の演劇では主役をやり、大活躍だった。

 

その時に唯一好きだった先公に言われた。

 

「君は演技が上手い」。

 

そんな事は少し前まですっかり忘れていた。

 

高校を卒業後、ホストでNo. 1を目指して8年。
まぁまぁの金を稼いではいたがヤクザの女と寝て死にかけ、逃げるように高円寺の劇場に入った。
そこでたまたま観た演劇。鳥肌が立った。

 

これか。

 

俺は表舞台に立っていなかった。
ホストで女を誑(たぶら)かせていたが所詮は裏庭の井戸の中で調子に乗って跳ねているだけだった。

 

俺はやるぞ。ここから這い上がり、もっと良い女を抱くんだ。

 

そう、芸能人の女を。
あの月9の女を抱いてやるんだ。
今はまだ脇役で台詞は少ない。

 

おい先公見てろよ。お前は間違ってなかったぞ。

 

 

 

といったBluesが東京には蔓延しているのだ。
他にも新橋や神保町、もちろん新宿や渋谷や品川にも。

 

蔓延している。東京には。

 

 

みんなここに希望を持って、何かを叶える為、達成する為に来て、まだ叶ってない者、達成を諦めたが留まっている者。Bluesの塊のような者がゾンビのように徘徊している。

 

 

僕は気付いた。そりゃ歌にするよな。
せざるを得ない。
ゾンビになった者が、ゾンビの歌を歌う。ゾンビから這い上がった者も、ゾンビだった頃の歌を歌うのだ。
そりゃ歌になるよ。歌わせてやれよ。

 

 

過去の俺。文句言うんじゃねえよ。
誰も知らなくて良い。共感しなくて良い。
伝える為じゃない。やるしか無い。Bluesをやるんだ。

 

 

東京はBluesが邪魔で星が見えない。
とか言わせてくれ。

 

 

Bluesが邪魔でなんとなく息苦しい。
とか言わせてくれ。

 

 

Bluesが邪魔でハチ公前に出られない。

 

いや、あれは案内が少ない。
しっかりもっと矢印をくれ。
なんなんだ。東京の駅の矢印の少なさは。
あれは良くない。

 

 

今の僕の東京のBlues、

 

駅の案内の矢印が少ない。

 

 

 

 

 

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クロスロード凡説

「ネタにはしてこなかった。でも、なぜか心に引っかかっていた。」
そんな出来事を、リアルとフィクションの間で、書き起こす。

始まりはリアル、着地はフィクションの新感覚エッセイ。
“日常のひっかかり”から、縦横無尽にフィクションがクロスしていく。

「コント」や「漫才」では収まらない深掘りと、妄想・言い訳・勝手な解釈が加わった「凡」説は、二転三転の末、伝説のストーリーへ……!?

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辻皓平(ニッポンの社長) お笑い芸人

1986年、京都府生まれ。

お笑いコンビ「ニッポンの社長」として、コントと漫才の“二刀流”で独自の笑いを追求。
漫才&コント二刀流No.1決定戦「ダブルインパクト」初代王者。
コント日本一を決める「キングオブコント」では、2020年から5年連続で決勝進出を果たす。

本コラムでは、日常の出来事に自由な解釈や言い訳、妄想を重ねながら、舞台とはまた違った角度で物語を綴る。
コントと漫才、どちらのネタも手がける著者が、言葉を操る“三刀流”として、文章の世界に挑む。

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