
今回は、秋のお祭りは、特別神様を近くに感じられるようです。
神職さんが教えてくれる『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』より、貴重なお話。
* * *
湯気そのものが、神様です
実りの秋は、収穫に感謝するお祭りが、全国各地の神社で行われます。とれた作物を神様にお供えして感謝をささげ、神事のあとに下げてきて、みんなでいただき、来年の豊穣(ほうじょう)もお願いするのです。
私のおつとめしている神社でも、秋祭りの2日間のみ、本殿の御扉(みとびら)が開き、30台の三方(さんぼう)にお供えを盛り付けて、お供えします。

御扉が開かれるのは特別なときだけで(神社によっては春や夏のこともあります)、お祭りでないときのふだんのお供え物は、御扉の外に「案」という台をすえて、そこへお供えしていますから、お供えの仕方がまるで違うのです。
秋祭りは、神様をいつもより近くに感じることのできるお祭りなんですね。
神事の形式は、神社によってさまざまですが、秋のお祭りで多く奉納されるのが、「湯立神楽(ゆだてかぐら)」です。
ご神前に大きな釜で湯を沸かし、巫女(みこ)さんがその中に笹や幣串(へいぐし)を浸して、周囲に振りまくというお神楽です。古くは巫女さんが神がかりとなって宣託するもの、あるいは、ご神意を問う占いだったそうです。
へえ、神社には、そんな古式ゆかしい儀式がまだ残っているのか、どんなことをするのかしら……と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。儀式の内容は神社によって違いがあるので、ひとまず私がおつとめしている神社の湯立神楽について書いてみます。
私たちは斎庭(ゆにわ)に薪(まき)を焚いて、大きな釜のお湯を、神事が始まる前にぐらぐら沸騰させておきます。笹の枝を、葉がついたまま何本か束にして、持ちやすいように結んでおきます。巫女さんが拝殿での舞を終えて斎庭に降りてくるころを見計らって、薪を撤収。
巫女さんが白衣(はくえ)の袖をたすき掛けにして準備がととのうと、湯立神楽が始まります。巫女さんは米、塩、酒を釜のお湯に入れたり、天からひしゃくで水をすくう所作をしたりと、音楽に合わせて行います。
そのあと巫女さんは笹を湯に浸し、持ち上げます。
笹から湯気がふぁああっと立ち上ります。まるで両手に綿あめを持っているかのようです。それを楽の音に合わせて振るのです。湯につける、振る、湯につける、振る、これを舞のかたちで行います。
この、お湯を斎庭に盛大にまく場面が、湯立神楽のハイライトです。巫女さんが笹を湯に浸すと、彼女もろとも、むわわわわーという感じで大きな湯気に包まれます。何秒かして、湯気の中から巫女さんが現れ、熱湯の熱さをみじんも感じさせぬ涼しい顔で、ばしっ、ばしっと笹を振ります。

湯立神楽が、なぜ水ではなく、熱い湯でなければならないのか。
単純に私は「熱湯は科学的に殺菌能力が高い。ゆえに、清めの力が強いのだ」と解釈していました。神職の祓(はらえ)の儀式でも、塩湯(えんとう)所役と言って、塩を入れたお湯で周囲を清める役があるからです。もちろんそれもあると思いますが、今は、お湯が「湯気を発生させるもの」としてそこにあるのではないか、と思っています。
澄んだ秋空のもと、湯気というごちそうを、音楽や舞とともに、神様に献上しているのではないか。そのついでに、私たちも湯気をいただいているのではないか。
もっと言うなら、湯気そのものが神様なんじゃないか、と思うのです。
湯立神楽は全国的にありますが、関西ではやわらかく「お湯上げ」と言います。これも、「お湯が上がる」つまり、湯気のことを言っている気がするのです。
(つづく)
神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

古(いにしえ)より、「生活の知恵」は、「運気アップの方法」そのものでした。季節の花を愛でる、旬を美味しくいただく、しきたりを大事にする……など、五感をしっかり開いて、毎月を楽しく&雅(みやび)に迎えれば、いつの間にか好運体質に!
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神主さん直伝。「一日でも幸せな日々を続ける」ための、12カ月のはなし。
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