
定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』では、四季のはっきりした安曇野での暮らしやおしゃれの工夫、毎日をごきげんに過ごす秘訣など、80歳を迎えた德田さんの心豊かな日々をご紹介しています。本書より、一部をお届けします。
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移住をきっかけに暮らしをシンプルに。必要なものはそう多くないと気づきました
暮らしをリセットしたくて長野県安曇野市へ移住。
この田舎暮らしを始めてから、もう16年がたちました。
移住の大きなきっかけは、もともと「定年退職後は東京の都会から離れて田舎暮らしをしてみたいね」と、夫婦で話し合っていたから。
また、私自身、50代に入った頃から、次第に気持ちの変化がありました。それは、いつの間にかたまってしまったたくさんのものを減らすことができたら、きっと心地よい。
心持ちも軽くなって身軽になって、また何か新しいことが始まる。そんな気持ちの変化がだんだんと大きくなっていたんです。そうした思いも自分の背中を押してくれていたのかとも思います。
もちろん定年退職後も大好きなファッションにかかわる仕事は長く続けていきたいと考えていました。だったら東京でそのまま暮らしていたほうが仕事はしやすかったかもしれません。ですが、それよりも、新しい生活をしてみたい、という気持ちのほうがワクワクする。そのほうが絶対に楽しそう! と思ったからです。
2年くらいの準備を重ねて、64歳の秋に移住しました。都内のマンション暮らしから地方での田舎暮らしへ。そう、移住は、新しく始まるこれからの暮らしに必要なものを見直すいい機会になったんです。新しく住む場所は、自分の目の届く、小さな家にしようと決めていました。さて、どうやってものを減らすかが大問題です。
私は、残す基準としてシンプルに、「使うものだけ」と、決めました。
使うものだけがあって、それもすべてフル活用している状態って、とっても心地がいいものだと思いませんか。シンプルって、心地よい! それも、「今」必要なもの、使うものだけを残すこと。移住によってこの選別作業を楽しく進めることができました。
処分したものの代表は、東京のマンション住まいで使用していた大きな食器棚。そのまま田舎の家へ置いたのでは、まるっきり浮いてしまいます。だって安曇野は、周囲の雑木林や畑がひろがるのんびりとした自然に囲まれた場所です。そこに私たちが建てる新しい家は、簡素な木造、平屋建ての小さな家。そこにつるんとした硬質素材の重厚感ある食器棚はまるで似合いません。また、食器棚のほかにダイニングテーブル、椅子なども処分しました。大好きな衣類も3年着ていないものは処分、などルールを決めて思い切って分別。
そうやって選別をしてみると、必要なものって実はそんなに多くない。この選別作業は自分を見つめ直すとてもいい機会になりました。

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80歳、私らしいシンプルライフ

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