
大前粟生さんの最新作、『7人の7年の恋とガチャ』は恋愛リアリティショーを舞台にしたミステリー。レビュー連載をもっていたほどリアリティショー好きのエッセイスト・清繭子さんから、本作へのコメントをいただきました。
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恋愛リアリティショーで生まれたカップルの「その後」を検索するのが大好きだ。もういい大人なので番組内の彼らに多少の演出があるのはわかっている。けれどカメラのない「その後」には真実の愛しかない……と思っていた、本作を読むまでは。
『7人の7年の恋とガチャ』は、恋愛リアリティショー「恋ガチャ」に参加した7名の男女が、7年後にまた集められ、カメラの前で裏切り者探しをさせられる物語。7年前、誕生したカップルは、番組終了後もSNSで求められるカップル像を演じ続け、壊れてしまう。このSNS時代にカメラのない「その後」は訪れない。7年前、途中棄権した者は、誹謗中傷にさらされ行方をくらませる。それが再放送によって蒸し返される。これではいつまでも「その後」にたどり着けない。7年前、7人の間でたしかに築いた友情も、裏切り者探しの中であっけなく揺らぐ。そのほうが「映える」から。もっとエグく、ドラマチックに盛り上げて、出演者たちは「その後」になることを拒否する。
大前粟生の小説は、これまで無言の圧力を描いてきた。『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』では恋愛とジェンダーの圧力。『チワワ・シンドローム』では可愛い弱者でいろ、という圧力。では本作は、と考えれば「物語の圧力」という言葉が浮かぶ。
7人は、クイズ王に小説家、普通の女子高生と肩書も年齢も性格もさまざま。けれどみな「恋ガチャ」という物語に合わせて、自分の振る舞いを補整する。番組終了後も世間が求める物語に合わせようともがく。これは何も表舞台に立つ者だけが受ける圧力ではない。私たちもまた、演技を強いられている。「子ども最優先の母」だったり、「夢など忘れた中年会社員」だったり。一億総出演者の今、「その後」へはどうやったら脱出できるのか――。
ひとつのシーンが希望として胸に残る。ある人物が「僕の初恋は君なんだ」と呟く自分に照れ、「せめてカメラに映っていてほしい。せめてこのキモさがウケるものとして、誰かのエンタメになっていてほしい」と願うのだ。私たちもはみ出そう。カメラがブレるほど、恥ずかしくキモくエモく「その後」へ行こう。
清繭子(エッセイスト)
7人の7年の恋とガチャ

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