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7人の7年の恋とガチャ

2025.08.13 公開 ポスト

恋愛リアリティショーの「その後」からの脱出【書評・清繭子】大前粟生/清繭子

大前粟生さんの最新作、『7人の7年の恋とガチャ』は恋愛リアリティショーを舞台にしたミステリー。レビュー連載をもっていたほどリアリティショー好きのエッセイスト・清繭子さんから、本作へのコメントをいただきました。

*  *  *

恋愛リアリティショーで生まれたカップルの「その後」を検索するのが大好きだ。もういい大人なので番組内の彼らに多少の演出があるのはわかっている。けれどカメラのない「その後」には真実の愛しかない……と思っていた、本作を読むまでは。

『7人の7年の恋とガチャ』は、恋愛リアリティショー「恋ガチャ」に参加した7名の男女が、7年後にまた集められ、カメラの前で裏切り者探しをさせられる物語。7年前、誕生したカップルは、番組終了後もSNSで求められるカップル像を演じ続け、壊れてしまう。このSNS時代にカメラのない「その後」は訪れない。7年前、途中棄権した者は、誹謗中傷にさらされ行方をくらませる。それが再放送によって蒸し返される。これではいつまでも「その後」にたどり着けない。7年前、7人の間でたしかに築いた友情も、裏切り者探しの中であっけなく揺らぐ。そのほうが「映える」から。もっとエグく、ドラマチックに盛り上げて、出演者たちは「その後」になることを拒否する。

大前粟生の小説は、これまで無言の圧力を描いてきた。『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』では恋愛とジェンダーの圧力。『チワワ・シンドローム』では可愛い弱者でいろ、という圧力。では本作は、と考えれば「物語の圧力」という言葉が浮かぶ。

7人は、クイズ王に小説家、普通の女子高生と肩書も年齢も性格もさまざま。けれどみな「恋ガチャ」という物語に合わせて、自分の振る舞いを補整する。番組終了後も世間が求める物語に合わせようともがく。これは何も表舞台に立つ者だけが受ける圧力ではない。私たちもまた、演技を強いられている。「子ども最優先の母」だったり、「夢など忘れた中年会社員」だったり。一億総出演者の今、「その後」へはどうやったら脱出できるのか――。

ひとつのシーンが希望として胸に残る。ある人物が「僕の初恋は君なんだ」と呟く自分に照れ、「せめてカメラに映っていてほしい。せめてこのキモさがウケるものとして、誰かのエンタメになっていてほしい」と願うのだ。私たちもはみ出そう。カメラがブレるほど、恥ずかしくキモくエモく「その後」へ行こう。

清繭子(エッセイスト)

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大前粟生『7人の7年の恋とガチャ』

裏切り者を、探せ。 孤島に集められたのは、16歳から22歳の男女7人。 好感度の“牢獄”、背負わされた“物語”。 この番組(ゲーム)の行く末は? 一気読み必至の、恋愛リアリティショー×ミステリー!

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大前粟生

1992年、兵庫県生まれ。2016年、「彼女をバスタブにいれて燃やす」が「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」の公募プロジェクトにて最優秀作に選出され小説家デビュー。主な著作に『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』『おもろい以外いらんねん』『チワワ・シンドローム』『ピン芸人、高崎犬彦』『かもめジムの恋愛』『物語じゃないただの傷』などがある。

清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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