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とんかつ屋のたまちゃん

2025.07.01 公開 ポスト

「連絡帳は先生との交換日記?」太宰治好きの母から受けた表現することへの影響 - 制作裏話3安藤玉恵(俳優)

俳優・安藤玉恵さんのはじめての著書『とんかつ屋のたまちゃん』は、安藤さんがまるで目の前で話をしてくれているような文体が魅力です。当時の商店街の空気、大人たちの個性に引き込まれる名エッセイは、いかに出来上がったのか? 安藤さんと一緒に、マネージャーの山田恵理子さん、担当編集者の幻冬舎・竹村優子が振り返りました。
(写真:牧野智晃)

「自分以外の視点」を教えてくれた母

竹村 読んだり書いたりすることについては、お母さまの影響はありますか?

安藤 ありますね。実は母は、役者になるって言った時に、作家になった方がいいよって言ったんですよ。あと思い返してみたら、読書感想文も得意でした。楽しく書いていた記憶があります。その楽しく書くコツは母が教えてくれたんです。例えば、登場する動物になって書いてみたら、とか。自分が面白かったか面白くなかったかということとはまた別に、誰かになって話を読んでみた感想でもいいんじゃないかっていうので書いてた気がするんですよ。

竹村 役者の仕事、演じることにも通じてますよね。

安藤 そういう自分以外の視点があるよいうことを、結構早い段階から教えられてる感じがしますよね。

竹村 本の中で、お母さまが学校に提出する連絡帳に詩を書いていたというエピソードもありましたね。

安藤 大きくなってから読んだんですよ。なんだろう、これ?って。先生も困るだろうなっていう感じの文章です。表現する場所がなかったからだと思う。そこで自分を表現してたんですよね。自分の思いの丈を。

山田 当時は、インターネットなんかないですから、何か表現したい人がこう、ぱっと出すような場所がないですものね。

安藤 先生に提出する連絡帳は、母親にとって交換日記みたいなものだったのかもしれない。読者は先生。必ず読んでくれるから。お店やってて、忙しい身の上でも出せる文章だったんでしょうね。

竹村 そして、お母さまが子供に読んでくれる本は、太宰治の「走れメロス」と灰谷健次郎。

安藤 太宰治が好きすぎたんですよね。でも、子供に読める太宰の本は、「走れメロス」くらいしかなくて。日常でも、「私の人生は道化だ」みたいなことを言い出したりもしてました。言葉遣いに太宰が入ってましたね。

山田 その時はどう思ってたんですか?

安藤 そういう詩的な言葉が生活の中に入り込むことは時々あったので、ああ、またなんかやってるっていう感じです。でも同時に、私が変な発想をしても否定はされなかったですよね。

竹村 子供が何か言って大人に否定されないというのは最高ですね。

安藤 なんでも面白いねって感じでした。そのせいか、お芝居でダメ出しされてもあまりへこまないんですよ。最近、演出家の方に、「自己肯定感が強い」と言われて、はじめて自覚しました。

後ろに写るのが宮前商店会「どん平」

(第4回につづく)

関連書籍

安藤玉恵『とんかつ屋のたまちゃん』

昔の記憶って、いったん思い出すと、どうして止まらなくなるのだろう――。 実家は、元花街、東京・尾久のとんかつ屋「どん平」。 話題作にひっぱりだこの個性派俳優が綴る破天荒な家族と愉快な街の記憶 話題の映像作品や舞台で鮮烈な印象を残す俳優の安藤玉恵さんの実家は、元花街、東京・尾久のとんかつ屋「どん平」。阿部定事件が起きた尾久三業通りの待合茶屋は、「どん平」から20メートルくらいのところ。一家の大黒柱だった祖母、放蕩する祖父、数々の地元の伝説を持つ父、太宰治好きで、ファンキーで臥せがちな母、そんな母を一緒に看病した兄。まわりにはいつも商店街の人たちがいた――。若手芸人が小学校の通学路で稽古し、着物を着たお姉さんが歩いていた時代、昭和の最後のほうの話。 なつかしくて、おかしくて、バカバカしいのに、涙が出ちゃう。そんなノスタルジックな感情を呼び起こす名エッセイ。

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とんかつ屋のたまちゃん

2025年5月28日発売『とんかつ屋のたまちゃん』について

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安藤玉恵 俳優

1976年生まれ、東京都荒川区出身。早稲田大学演劇倶楽部で演劇を始め、舞台、テレビドラマや映画と幅広く活動。映画『夢売るふたり』で第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。たしかな演技力で様々なジャンルの役を演じ、注目を集める。
連続テレビ小説『あまちゃん』『らんまん』、『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(以上、NHK)、ドラマ&映画「深夜食堂」シリーズ、舞台『花と龍』『命、ギガ長ス』など多数の作品に出演。『とんかつ屋のたまちゃん』がはじめての著書となる。
(写真:T.MINAMOTO)

 

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