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「選べない」はなぜ起こる?

2025.06.16 公開 ポスト

「友達を目的別に使い分ける?」一つの定義だけではもう表せなくなった親しい関係小島雄一郎

SNSの登場により、私たちの「友達」や「つながり」の数は爆発的に増加しました。しかし、ふとした瞬間に覚えるのは「つながっているはずなのに、満たされない」。それは単に「関係の数が増えた」ことだけが理由ではなく、つながりの「あり方」そのものが大きく変わったからです。特に友達という関係では、その変化がはっきりと見えてきます。

生活者の"選ぶ瞬間"を分析し続けてきた元・電通プランナー、小島雄一郎さんの著書『「選べない」はなぜ起こる?』(サンマーク出版)が出版されました。「選択疲れ」の時代にモノ・サービス・人間関係まで含めた「選ばれる構造」をマーケティング・心理・社会の視点から解き明かし、「なぜ選べないのか」から「どうすれば選ばれるのか」への視点転換を促してくれる一冊。本書から、一部をご紹介します。

*   *   *

2種類の友達を使い分ける

これまで友達関係には「いつメン」という言葉があった。「いつものメンバー」の略で、いわゆる仲良しグループのことだ。放課後はそんないつメンが、いつもの場所で集まって「今日は何をして遊ぶ?」と協議するのが学生の日常だった。

ドラえもんで言えば、土管のある空き地に、のび太とジャイアンとスネ夫が集まって「野球をやろうぜ」と話している光景だ。

「まずはみんなで会うこと」がメインの目的で、「何をするか」はサブの目的だった。つまり友達の母集団は「同じ学校(や塾)に通う同級生」だ。この母集団の中から選ばなければいけないのが、友達という存在だった。

あなたも経験があるはずだ。本当は興味のないゲームを「みんながやるから」と我慢して遊んだり、趣味を共有できる誰かを見つけられず、一人で楽しんだりしたことを。

しかし今は違う。

SNSに存在する全てのユーザーが友達の母集団になる。「#**好きとつながりたい」なんてハッシュタグを使えば、すぐに共通の話題を持つユーザーが見つかる。そんなユーザーと相互フォローしたり、友達申請が受理されたりすれば「友達」の誕生だ。

友達の獲得コストが劇的に下がったのだ。

この変化によって、友達関係のあり方が根本から変わりつつある。

今は何をして遊ぶかを先に決めて、最適なメンバーを集める時代だ。SNSで常に何百人とつながっていて、それぞれに趣味や特徴などの情報が紐づいていて、それが見える化しているからだ。

この状況下なら「何をするか」の選択肢が増える。

メンバーが集まらない心配なんてない。最初にメンバーが決まっていて、そのメンバー内の最大公約数を選ぶ必要はない。「まず、自分が何をしたいか」を決める。「推しの鑑賞会がしたい!」と思った瞬間、最適な仲間を招集できるようになった。本当は好きじゃないのに、いつメンの「野球やろうぜ」に付き合う必要はもうなくなったのだ。

友達の母集団が増えると、その細分化も進む。

つまり友達がその特徴や用途によってカテゴライズされていくのである。Aさんは野球友達、Bさんは推し友達、Cさんは映画友達のように目的別になっていく。あなた自身も誰かの「○○友達」として認識されているかもしれない。

「そんなの本当の友達じゃない」と感じる人もいるだろう。

「何をするにもずっと一緒」こそが本当の友達だと言いたくなる気持ちもわかる。かつてはたしかにそうだったが、否応なく今の関係性は変化している。もう「本当の○○」という表現は適切ではなくなったかもしれない。友達の再定義がはじまっているのだ。

「目的ありき」の人間関係

人間関係が「目的別」に細分化されることで、関係性の深さより、幅の広さが重視されるようになった。

かつては少数の友人と深いつながりを持つことが一般的だったが、今は多くの人と浅く広くつながることが主流になりつつある。一人の友人と全ての趣味や活動を共有するのではなく、趣味や活動ごとに異なる友人グループを持つようになった。

同時に、関係の使い捨て化という現象も起きている。

目的が達成されれば関係も自然消滅するという状況が増えているのだ。例えば、特定のプロジェクトで一緒に働いた同僚や、特定のイベントで知り合った人との関係は、その目的が終われば自然と疎遠になりがちだ。

この変化には光と影がある。

人間関係が目的別になることで、自分の興味や関心があることを楽しむ時間が増えた。マイナーな趣味でも同好の士を見つけやすくなった。半径5メートルの周囲とだけ比べて、「自分だけが変わっているのでは?」という孤独感は減少した。

一方で「関係性を深めにくい」という感覚を持つことも増えた。

人間関係を深める方法の一つに「それが好きであろうがなかろうが、半ば強制的に共に時間を過ごす」というものがある。職場の歓迎会や、新人研修での合宿、シェアハウスなどがその典型だ。そこでは飲み会や合宿をすることではなく、ただ同じ時間を過ごす中で会話を深めることが目的なのだ。

でも今は「この人とは**をする時だけ会う」という関係性や時間が増えている。

誰かとの何気ない会話を通じて、お互いに対する理解や関係性を深める時間が取れなくなってしまう。それが「無駄な時間」に思えてしまうのだ。

結果として、自分が困った時や悩んだ時、安心して全てをさらけ出せる相手が見つけにくくなる。「**友達」しかいなくなってしまうと、「**じゃない時に会う」ことが自分にも相手にも不自然に思えてしまうからだ。

目的でつながる友達と、目的なしにただ一緒にいる友達、この2つのバランスがこれからの人間関係では重要になってくるだろう。

小島雄一郎『「選べない」はなぜ起こる? 』

“選ばれる”とは、優れていることよりも、「決めやすくすること」なのです。 ・良い商品なのに、なぜか売れない ・がんばって発信しているのに、手応えがない ・選ばれない理由がわからない そんな違和感を抱えるマーケター、営業、企画職、クリエイター、店主、PR担当…… “選ばれる”を仕事にしている人へ。視点が変わる1冊。

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「選べない」はなぜ起こる?

2025年6月11日発売、小島雄一郎著『「選べない」はなぜ起こる? 』試し読み

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小島雄一郎

2007年に株式会社電通へ入社。3年間の営業経験を経て、第1回販促会議賞(現:販促コンペ)の受賞をきっかけにプランナーに転向。その後、同賞で5大会連続入賞。電通では社内ベンチャーとして大学サークルアプリの新規事業を立ち上げ、2014年のグッドデザイン賞ビジネスモデル部門を受賞。その後は生活者研究を専門としながら、子ども向けゲーム開発などで、世界3大デザイン賞であるRed Dotデザイン賞(ドイツ)や、D&AD賞(イギリス)、キッズデザイン賞(日本)を受賞。2023年に立ち上げた事業を売却し、電通を退社し独立。2024年より、自ら企画書を送って自宅に誘致したお酒のセレクトショップ"IMADEYA"の社外取締役に就任。著書は『広告のやりかたで就活をやってみた。』(宣伝会議)。日本経済新聞社のnoteである「日経COMEMO」で新時代のキーオピニオンリーダーとしても連載中。

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