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葬式は、要らない

2025.06.22 公開 ポスト

「参列者ゼロ」でも問題なし 増える“直葬”と静かな最期の選び方島田裕巳(作家、宗教学者)

葬式に200万円――そのお金、本当に「必要な弔い」のために使われていますか?

宗教学者・島田裕巳さんが日本人の死生観や葬儀の歴史をたどりつつ、葬式の「常識」を根本から問い直すベストセラー『葬式は、要らない』より、一部を抜粋してお届けします。

「直葬」ってどんな葬式? 

現在、大半の人は病院で亡くなる。直葬では、故人の遺体を寝台車に乗せ、自宅や葬儀社が用意する一時的な安置場所に搬送し、とりあえずそこに安置する。

そこで遺体を棺に納め(納棺)、近親者だけで通夜をする。会葬者は呼ばない。いったん自宅などに搬送するのも、前の章で見たように、火葬までに24時間以上の経過が必要だからである。

通夜が済めば、翌日、れいきゆう車で火葬場へ出棺する。そして、やはり近親者だけで故人に別れを告げ、遺体はにふす。最後に、収骨骨あげをして葬式は終わる。

これが、直葬のもっとも基本的なやり方である。ただ、火葬場で僧侶に読経してもらうこともあれば、骨あげが済んでから精進落としのために近親者で食事をとることもある。

直葬では基本的に近親者以外の会葬者を呼ばない。その点では、密葬、家族葬の一番簡略化された形態だとも言える。

 

これは、私自身も身内の葬式で経験したことだが、故人が80歳あるいは90歳を超えて亡くなり、大往生を果たしたとすると、たとえ通夜と葬儀・告別式からなる一般的な葬儀を行ったとしても、参列者の数は決して多くない

女性だと、近親者以外に参列者が誰もいないことが起こり得る。故人の友人や知人は、すでに鬼籍に入っていたり、存命でも、葬式に出向く体力や気力が備わっていないことが多いからである。無理に列席すれば、それこそそれが原因で病気になり亡くなることも起こり得る。遺族も、高齢者には、身内の葬式に参列してくれとは声をかけにくい

葬式を近親者だけで営むのであれば、世間一般に向かって故人が亡くなったことを告知する必要もない。近親者が最後のけじめをつければそれで済む。直葬の増加は、寿命がのび、いわば大往生が増えてきたことが大いに影響している。

昔「密葬」、今「家族葬」

直葬は、「火葬」あるいは「火葬式」と呼ばれることもある。火葬というとまぎらわしいが、葬儀の中心が火葬にあるわけだから、そうした表現が出てくるのもうなずける。

直葬もそのなかに含まれるわけだが、現在では、近親者だけで行う葬儀としては「家族葬」が定着している。

家族葬は、葬儀の形式というよりも、近親者だけで行う規模の小さな葬式全般を指す。以前は「密葬」と呼ぶのが一般的だった。家族葬は1990年代になってから葬儀社が発案し宣伝したことばだとも言われる。

葬儀社は時代の変化に敏感で、それに即して機敏に対応する。そして、新しいスタイルを作り上げ、新しい呼び名もすぐに用意する。その機敏さが葬式の変化を加速させている。

一般の葬式では、生前、故人とゆかりのあった人たちに声をかけ会葬者を集めるが、家族葬の場合は、まったく声をかけないか、一部のごく親しい人たちだけに声をかける。あるいは、「家族葬なので会葬は不要である」、と告知することもある。

これも、高齢者の大往生が増え、会葬者の数が自然と減ってきたことによる。会葬者の数が少ないのなら、近親者だけで済ませ、会葬者に負担をかけるまでのこともない。そうした遺族側の希望が強くなってきたのである。

*   *   *

この続きは幻冬舎新書『葬式は、要らない』でお楽しみください。

関連書籍

島田裕巳『葬式は、要らない』

日本人の葬儀費用は平均231万円。これはイギリスの12万円、韓国の37万円と比較して格段に高い。浪費の国アメリカでさえ44万円だ。実際、欧米の映画等で見る葬式はシンプルで、金をかけているように見えない。対して我が国といえば巨大な祭壇、生花そして高額の戒名だが、いつからかくも豪華になったのか。どんな意味があるのか。古代から現代に至る葬儀様式に鑑みて日本人の死生観の変遷をたどりつつ、いま激しく変わる最新事情から、葬式無用の効用までを考察。葬式に金をかけられない時代の画期的な1冊。

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葬式は、要らない

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島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

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