
「壁シリーズ」でおなじみの和田秀樹先生の最新刊『幸齢党宣言 医療改革で、世界もうらやむ日本を創る』が、2025年5月28日に出版されます。
政治・政策の視点から、厚労省・製薬業界・医学教育の抜本的改革を訴え、幸せ多き日本への大改造計画をまとめた一冊。本書の「はじめに」から、一部を再編集してご紹介します。
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高齢者をヨボヨボにした自粛の日々
私は、薬や医学より、栄養状態のほうが、人間の健康長寿に寄与していると考えて啓蒙活動を続けているのですが、いくつも医療のシステムの問題があります。
1つは、医学教育が悪いことです。たとえば何の根拠もないのに、検査データを正常にすれば、患者が健康長寿になるという医者の側の信念があることです。
つけ加えれば、50年以上前から、とくに大学病院で、臓器別診療が盛んになったことです。
内科という科がなくなり、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科という風に細分化されました。
各々の科で悪いとされている臓器の治療をするわけですが、全体を統括する医師(総合診療医)がいないために、どんどん薬が増えてしまうのです。本来なら3つの科から9つの薬が出ている患者さんには、全体を統括する医者がそのうち3つ、4つの薬を選んであげればいいことです。
こうして多くの高齢者の患者さんは、不必要な薬を飲まされているわけですが、それを是正するシステムを作らないと、高齢者の元気が奪われてしまいます。
そのうえ、このような無駄な医療費が現役世代の健康保険料から支払われるので、これを是正しないと現役世代の手取りも減ってしまいます。
どのくらいの検査データから治療が必要なのかという調査と総合診療医の養成が急務なのに、とり組もうとする気配すらみられないという構造上の問題があるのです。
つまり、医療改革や医者に対する教育の改革をしないと、患者さんが救われないという現状があるのです。
高齢者は心と身体の結びつきが強く、身体の具合が悪くなると抑うつ的になる人がたくさんいます。私が以前、勤務していた、高齢者専門の総合病院(同等のものをたくさん作ってほしいのですが)では、内科や整形外科で入院した患者さんのうち2割くらいがうつ状態などになり精神科医がかかわっていました。
いっぽうで、うつ病などの心の病に陥ると免疫機能が落ちて、風邪やインフルエンザにかかりやすくなったり、がんになりやすくなったりします。
ところが今の大学の医学部の教授たちは、心の問題に関心がなく、精神科の教授を医学部の教授による選挙で選ぶのですが、全国82すべての大学医学部でカウンセリングを専門とする医師が選ばれていません(最近北海道大学で選ばれたというニュースが入ってきましたが、焼け石に水です)。
いつまでも総合診療をとり入れず、臓器別診療を行い(50年も変わっていないということです)、ストレス社会でありながら心の問題を軽視する大学医学部。ところが現在の厚生労働省は大学医学部の教授たちを審議会の委員などに重用し、医療政策がいつまでも変わる気配がありません。
厚労省の役人が大学医学部教授に天下りできるためではないか、という噂もあります。
高齢者が多い国なのに、新型コロナ政策も最低のものでした。
日本は世界でいちばん長期間にわたって自粛政策を採り、いつまでも感染症法の2類を5類にしないため、多くの人が不自由な生活を強いられました。
高齢者の場合、外に出ない生活を続けていると、フレイルと呼ばれる身体機能の低下が起こったり、ひどい場合は、要介護状態に直結します。
そんなことは考慮に入れられず、自粛とワクチン一辺倒の対策でした。高齢者が多いのに寝たきりを作らないことで知られるスウェーデンでは、集団免疫政策と言って、ほとんど自粛を求めない政策を採りました。
私はそれが、高齢者が多い国であるべき姿と思っています。
いずれにせよ、日本は医療政策も大学の医学部も高齢者が増えたことに対応せず、高齢者をヨボヨボにする政策をとり続けているのです。
このような医学教育や、それを是正しようとしない厚生労働省を変えていかない限り、多剤併用も心の問題の軽視も高齢者への悪影響を考えない感染症対策も変わっていかないのです。
常用している薬が重大事故の原因となる!?
2つ目はマスコミ報道の問題です。
私の著書を通じて、免許の返納は必要ないし、害が大きいことを知っていただいて、返納をやめてくださった方が多くいることはとても喜ばしいことです。
高齢者の事故は統計上、若者より多い数ではなく、また免許を返納すると6年後の要介護率が2・2倍にもなってしまうのですから、免許の返納を感情論で迫ったり、統計学上の根拠もないのに、高齢者に認知機能検査を義務付けるのは犯罪的ともいえることです。
確かに75歳以上の高齢者の死亡事故が多いという問題はあるのですが、具にみるとこれも不自然なものです。
この年代の死亡事故の4割は、自爆といわれる車両単独事故です(ほかの年代では2割程度)。エアバッグの付いた車でものにぶつかって死亡するというのなら、ブレーキを踏んでいなかった可能性が大きいのです。
要するに、何らかの意識障害が関連している可能性があります(ねぼけた状態で運転をしていたということです)。
池袋の事故も福島の事故も、ふだん安全運転をしていた人がその日に限って暴走した事故でした。
私のようにふだんから高齢者を診ている医師が、いちばんに疑うのは意識障害です。
しかし、テレビで可能性すら論じられたことはありません。
私は薬物の影響を強く疑っているのですが、これも問題にされず、やはり年齢のせいにされます。
薬物による意識障害の可能性があるのに、年齢のせいだと統計そのほかの根拠もないのに、高齢者の運転は危険とされ、マスコミ、とくにテレビマスコミは報じ続け、要介護率が2・2倍にもなる免許返納を呼びかけます。
実は、私は『ビートたけしのTVタックル』という番組で、高齢者の事故について薬物による意識障害の可能性が高いという話をしたのですが、その番組は生放送ではなかったので、私が話題にした部分は完全にカットされました。
そのときに、製薬会社のテレビCMを禁止にしないと、テレビ局は製薬会社に忖度を続け、国民にきちんとした情報が伝わらず、医者の無責任な多剤併用の処方が収まらないのではないかと感じました。
私の推測の正しさを裏付けるような論文が2024年の10月に、アメリカでもっとも人気のある医学雑誌(医者が読む雑誌です)JAMA(アメリカ医学会雑誌)に掲載されました。事故を起こした高齢者12万人について調査した結果です。
するとそのうち80%の人が、1種類以上の運転に支障をきたす薬物を飲んでいることが明らかになりました。
この論文の中で、アメリカの道路交通安全局は、薬物が事故のリスクを高める十分な証拠があることを強調していることも記載しています。
ところがこれについても、日本のマスコミは完全に無視しています。
高齢者の事故の8割は薬物を服用したうえでということであれば、薬物を服用していないどうしで比べれば、高齢者の事故はほかの年代の人よりむしろ少ないことになります。
私が著書でいくら訴えても、テレビの垂れ流し情報のほうが強力だとしか思えません。
実際、相当に生活に不自由が出ても、その後、要介護状態に陥る人がたくさん出ていることも知っているはずなのに、免許返納者は後を絶ちません。
私は、高齢者に正しい情報を伝え、高齢者が危険であるという印象操作をする偏向報道をやめさせるために何らかの施策を考えないと、高齢者がどんどんヨボヨボにされてしまうことを危惧しています。
続きは、『幸齢党宣言 医療改革で、世界もうらやむ日本を創る』でお読みください。
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