現在、韓国ディズニープラスが年会費の割引セールを行っている。サブスク型ビジネスをする動画配信サービスが、このような割引プロモーションを行うのは異例中の異例だ。韓国の動画配信サービス市場の動向は、ビジネスパーソンとしてキャッチアップしておきたい。
ディズニープラスの危機説
ディズニープラスで配信中のドラマ『SHOGUN 将軍』が、「第76回エミー賞®」でドラマ・シリーズ部門の作品賞をはじめ、史上最多の18部門を受賞する快挙を達成した。
エミー賞といえば、米国テレビ界の“アカデミー賞”ともいわれる最高峰の賞。ディズニー系列のドラマとしては2005年の『LOST』以来の作品賞で、19年ぶりとなる。
このことがディズニープラスにとってプラス要素となるのは、想像に難くない。ところが、『SHOGUN 将軍』の快挙と時を同じくして、お隣・韓国では「ディズニープラスの危機説」が再び浮上した。
というのも、ディズニープラスが2024年9月12日から28日までの間、スタンダード年額プランを約40%オフで提供する期間限定の特別プロモーションを打ち出したからだ。
割引を適用すれば、韓国では年額9万9000ウォン(約9,900円)のプランを5万9500ウォン(約5,950円)で利用できる。月額換算すると4950ウォン(約495円)。これはライバル企業であるNetflixの広告付きスタンダートプラン(5,500ウォン/約550円)よりも安く、現存する動画配信サービス(以下、OTT)のなかでも最低価格だ。
サブスク型ビジネスをするOTTが、このような割引プロモーションを行うのは異例中の異例である。この破格のプロモーションに対して、韓国のメディア各社は「ユーザーの確保が切実な状況」と分析した。
それを裏付けるのが、1年前に比べて半分ほど離脱してしまった入会者数だ。
韓国オリジナルシリーズ『ムービング』がヒットを飛ばした2023年9月、韓国ディズニープラスの月間アクティブユーザー数(MAU)は433万人だった。しかし、今年4月には220万人まで激減し、8月には285万人を記録。ここ1年間で約150万人が離れてしまっている。
韓国のOTT各社と比べても、ディズニープラスの苦戦は明らかだ。
2024年8月時点でOTT各社の韓国における月間アクティブユーザー数(MAU)はNetflixが1100万人、TVING(ティービング)が783万人、Coupang Play(クーパンプレイ)が684万人。
韓国著作権委員会が7月に発表した韓国OTT市場のシェア率も、1位は「Netflix」(35%)、2位は「Coupang Play」(23%)、3位は「TVING」(21%)、4位は「Wavve(ウェーブ)」(13%)、5位は「ディズニープラス」(8%)と、顕著な差が見られる。
世界的OTTであるNetflixが“1強”として地位を固めたなか、Netflixとディズニープラスを除く国内OTTたちが市場シェアの57%を占めている。
韓国OTT市場の勢力図が変わる!?
さらに韓国でディズニープラスを圧迫しているのが、国内OTT間の激しい競争だ。
2024年3月に韓国で行われた米大リーグ、ドジャース対パドレスの開幕戦を覚えているだろうか。ドジャースに移籍した大谷翔平が出場することで日本でも話題だったが、その試合の放映権を獲得したのが、「Coupang Play」だった。
また、最近韓国プロ野球(KBO)を独占中継しているのは「TVING」である。Coupang PlayとTVINGはスポーツ中継に力を入れる戦略で月間アクティブユーザー数をそれぞれ70万人、200万人増やした。
さらにTVINGは、2023年12月にシェア率4位のWavveと合併のための覚書(MOU)を締結し、交渉を進めている。
TVINGとWavveのシェア率を合わせれば、Netflixに1%差まで詰め寄られるうえに、月間アクティブユーザー数も1,114万人と負けず劣らずだ。エンタメ業界では両社の合併によって“黒船”Netflixに対抗でき、OTT市場の勢力図が変わるかもしれないという期待感が漂っている。
このような状況とはいえ、とりわけ韓国でディズニープラスの不振が続く理由は何か。それは「新規キラーコンテンツの不足」が指摘されている。
2024年配信された韓国オリジナルドラマ『殺し屋たちの店』『サムシクおじさん』『支配種』『レッド・スワン』などが期待に及ばない結果となったため、『ムービング』以降はこれといったヒット作がないのだ。
ただ、先日解禁された秋冬と2025年に配信予定のラインナップは、この不振を払拭できそうな期待作が目白押しだ。
『ムービング』の原作者で脚本も担当したKang Fullによる『照明店の客人たち』や、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の女優パク・ウンビンが主演する『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』(原題)、『涙の女王』の主役キム・スヒョンが挑む『ノックオフ』などが、早くも注目を集めている。
社運を賭けたと言わんばかりのディズニープラス。はたして破格のプロモーションや数々の期待作で入会者数を巻き返せるか。韓国OTT市場の動向を、今後も注視したい。
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※この記事はWeb版GOETHEに掲載された記事を再編集したものです
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