一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第33回 水野梓『金融破綻列島』
こんにちは。もはや列島より劣等ともいうべき日本を憂えるアルパカ内田です。
あたかも隣国との戦争が勃発したかのような冒頭のシーンから引きずりこまれる。生き延びるか、それとも破滅するか? これは決して他人事ではない。「いま」ここにある危機を存分に描き切った、なんともスリリングな物語が登場した。
受け継いだ会社の不正を告白した父親の無念の自死。その真相を暴くために金融庁に潜り込んだ娘である彩。誰が告発状を握りつぶした黒幕だったのか?「カネ」から発生する欲望は、人を狂わせ組織を歪めてしまうばかりか、尊い命までも奪い去ってしまう。繰り広げられる仁義なき復讐劇にまったく目が離せない。
著者は、作家であると同時に気鋭のジャーナリストでもある。綿密な取材に裏付けられた視点は、圧倒的な説得力がありリアルそのもの。そして理不尽な社会と真っ向から対峙する精神に満ち溢れている。銀行の実情や政治とカネの問題など、日本経済の現状や行く末に警鐘を鳴らしているばかりか、隣国との関係性といった国際情勢についても、読みながら背筋が凍るような思いがした。
繁栄の光が眩しいほど、絶望の闇は深くなる。金融経済のテーマは日常生活にも深く絡んでおり、この国の歪んだ病理そのものが浮き彫りとなる。しかし善と悪を生みだすのは人間たちである。明日に向けて、我々は何を信じればいいのか。生きるための原動力ともなる、その答えが本書の中にある。1ページたりとも見逃してはならない、現代人、必読の一冊だ。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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