謎の声が聞こえる、なぜか線香の匂いが立ち込める、天井や壁から手が出てくる、などさまざまな不可解な現象が起こるスタジオ「ヨコザワ・プロダクション」。このスタジオを30年以上運営する横澤丈二さんがその不思議な体験を綴った書籍『日本一の幽霊物件 三茶のポルターガイスト』は、『三茶のポルターガイスト』として映画化されました。さらに6月21日からはその続編となる『新・三茶のポルターガイスト』が公開。これを記念し、書籍の一部を抜粋してお届けします。
「自作」の降霊術
それはいつものように夜通し室内野球をした日のことだった。外が明るくなるにつれてスタジオ生がどんどん帰っていく中、私とA君、それから数人のスタジオ生が稽古場に残って雑談をしていた。
そのまま時がたち、さらにスタジオ生が減った段階で、突然A君が「あ、このくらいでちょうどいいです」と言い出した。何を言い出したのかさっぱり意味がわからない私は、彼とこんなやり取りをした。
私「何がちょうどいいんだ?」
A「人数ですよ。横澤さんに僕、それから後輩の2人、ちょうど4人が稽古場に残ってますよね?」
私「だから?」
A「今からこの4人で魔物を呼ぶ降霊術をやりましょう!」
彼は、そう言うなり稽古場のど真ん中に黒い布を敷き始めた。その黒い布の真ん中には何やら魔法円のようなものが描かれている。
私「ちょっと待てよ。そんなのどこで買ってきたんだ?」
A「この日のために自分で作りました」
私「自作の降霊術なんて危ないんじゃないの?」
A「まーまー、そう堅いことは言わずに。僕、オカルトには詳しいんで大丈夫ですよ」
最初は怖がっていたスタジオ生の2人も段々と興味が湧いてきたのか、結局A君の言う通りに魔物を呼ぶ降霊術をやることになった。
全員の血を1滴ずつ垂らして…
その降霊術とはオカルト好きならばご存じの方も多いだろう。今だと「スクエア」と呼ばれる降霊術だ。
真っ暗な部屋の四隅に1人ずつ立ち、最初の1人が壁伝いに2人目の場所まで歩き2人目の肩を叩く。1人目はそのまま2人目の居た場所に止まり、肩を叩かれた2人目は3人目のところまで壁伝いに歩いて行き3人目の肩を叩く。3人目も同じように歩き出し4人目のいる場所へ、4人目も同じように次の場所へ……と繰り返すものだ。
いざやろうとした時だった。突然、A君が安全ピンを取り出してライターの火で炙り始めた。何をやっているのかと聞くと「針を消毒している」と言う。針を炙る!? 一体何をするつもりなのだろうかと寒気がした。
怖いもの知らずだったA君は平然とした表情でこう言った。
「まずは、言い出しっぺの僕からこの魔法円に血を1滴垂らします。こんなことを代表の横澤さんにやらせてすみませんが、魔物を呼ぶためにはやらなければなりません。安全ピンで人差し指をちょこっと刺して、血を1滴垂らしてください」
そこまでするのかと驚いたものの、私もスタジオ生の2人も渋々A君の言う通りに指に針を刺し、血を1滴ずつ垂らしたのであった。
4滴の血が魔法円の中心に垂らされたことを確認し、部屋の明かりを消した。そして「せーのっ!」の合図で1人目のA君から壁伝いに歩き出した。
真っ暗な中、A君は歩いてきて2番目の私の肩を叩く。私は歩き出して部屋の角まで行き、3番目のスタジオ生の肩を叩いてその場に止まった。そのまま耳を澄まし、3人目と4人目が壁を伝いながら歩いている足音を聞いていた時だった。
4人目のスタジオ生がぶつくさ言い出したのだ。
「ちょっとA先輩、何やってるんですか? タッチしましたよ。早く歩いてください」
この降霊術をやると、当然4人目は最初に1人目がいた場所に到着する。しかし、肩を叩こうにも1人目のA君は2人目の私が居た場所に移動しているため、4人目は2人分移動しない限り、誰かの肩を叩くなど無理な話なのである。
しかし、4人目のスタジオ生は“何者か”にタッチできてしまったのだ。その上、その人物がその場から動こうとしないものだから文句を言っている。
A「お前……誰としゃべっているんだ?」
後輩「あれ? A先輩、なんでそっちに?」
A「そこからスタートしたんだから、そこには誰もいないハズだろ?」
後輩「え? じゃあ今、僕が触ってるのは誰なんですか?」
その瞬間、稽古場はパニックになった。しかも一番ビビって騒いでいたのが、なんと言い出しっぺのA君だった。そして、A君は恐怖のあまり稽古場の電気を点けてしまったのだった。すると、とんでもないことが起きた。
白く透けた裸の少年が…
電気が点いた瞬間、私たち4人は白く透けている4~5歳ほどの裸の少年が、狂ったように魔法円の周りをパタパタと裸足で足音を立てながらグルグル走り回っている姿を見てしまった。少年は、全身真っ白で、背格好、顔つきなども映画『呪怨』に出てくる“俊雄君”にそっくりだった。
それを目撃したA君はさらにパニックになり、
「こんな魔法円があるから本当に魔物が来てしまったのだ!」
と言って、裸の少年が走っている中、魔法円の布を引っ張ってぐちゃぐちゃに丸めてしまったのだ。
すると、魔法円という居場所を失った裸の少年は、バタバタバタバタッと音を立てて稽古場にあるレッスン用の大きな鏡の方へ走っていき、パンッと乾いた音を響かせて鏡の中に入っていったのだった。
シーンと静まり返る稽古場……。
後輩「途中で電気を点けちゃったけど、降霊術的には大丈夫なんですか? 魔法円もぐちゃぐちゃにしちゃったし……。コックリさんとかって、途中で手を離してはいけないって言うじゃないですか」
私「うっすら透けていた白い少年が鏡の中に入っていったぞ、本当に大丈夫なのか、A君」
A「僕には……全然わかりません」
なんと、オカルトに詳しいと言っていたA君の知識はにわかだったのだ! そして、青ざめたA君は「こんなはずじゃなかった」と言いながら、稽古場を後にしたのだった。
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続きは幻冬舎文庫『日本一の幽霊物件 三茶のポルターガイスト』でお楽しみください。
日本一の幽霊物件 三茶のポルターガイスト
謎の声が聞こえる、なぜか線香の匂いが立ち込める、天井や壁から手が出てくる、などさまざまな不可解な現象が起こるスタジオ「ヨコザワ・プロダクション」。このスタジオを30年以上運営する横澤丈二さんがその不思議な体験を綴った書籍『日本一の幽霊物件 三茶のポルターガイスト』は、『三茶のポルターガイスト』として映画化されました。さらに6月21日からはその続編となる『新・三茶のポルターガイスト』が公開。これを記念し、書籍の一部を抜粋してお届けします。