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ゴルフは名言でうまくなる

2024.03.31 公開 ツイート

第289回

「人は変えられへんけど、自分は変えられる」――森田理香子 岡上貞夫

アプローチ・イップスから復帰した元賞金女王

2013年に賞金女王に輝いた森田理香子プロだが、14年には1勝のみ、その後は不振が続いてしまい、ついに18年に「休養宣言」をしてツアーから退いた。その一番の要因となったのは、アプローチ・イップスだったと伝えられている。

そのため「休養宣言」ではあるが、事実上の「引退宣言」だとマスコミは報じた。イップスになってツアーから去ったプロゴルファーが、もう一度ツアーに戻ってくることは極めて稀だからだ。実際、2年以上のブランクを経て、元賞金女王が復帰した例は過去にない。

 

ところが、森田プロは2024年国内女子プロゴルフツアー初戦の「第37回ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント(沖縄、琉球GC=6,595ヤード・パー72)」に、選手として戻ってきた。休養宣言から、実に6年の歳月が経過していた。

兆候はあった。1年ほど前から、森田プロはInstagramなどのSNSへの発信を積極的に始めていたのだ。練習風景やスイング動画のほか、自身がプロデュースするウェアの販売も手掛けている。Webでのレッスンや女子ステップアップツアーの解説などにも出るようになっていた。

企業のプロアマに行くと、「もったいない。試合に出てほしい」と言う人が多くいた。勝つかどうかではなくて、ただ試合に出ている姿を見たいという純粋なファンもいた。いいときは誰でも寄ってくるし、悪くなったら離れていく。若いときにそれを経験して人間不信となった時期もあった森田プロだが、自分を応援してくれる人がまだいるということは幸せだと改めて感じたのだと言う。

最終的にはファンに背中を押された格好だが、そう簡単にトップレベルのプレーができるように戻れるほど、プロの世界は甘くない。恐らく、相当ハードな練習もこなしてきて、これなら試合に戻れそうだという実感が持てたのだろう。

6年ぶりの復帰戦では、トレードマークのビッグドライブは色あせることなく、平均飛距離は穴井詩プロに次ぐ2位、2日目には4連続バーディを奪うなどして予選ラウンドを突破した。最終日の最終ホールでもバーディを決めて36位のフィニッシュだったが、「100点満点!」と笑顔をみせた。

長期の休養期間と復帰の謎

シード権を失っているため、スポンサー推薦など出場できる試合は少ないが、その少ないチャンスをものにして何とか強い森田プロが復活して欲しいと思うゴルフファンは私だけではあるまい。

とはいえ、森田プロが休養宣言後の5年間で如何にしてゴルフを再開し、ツアーへも復帰する気持ちになれたのか、また休養の原因となったアプローチ・イップスは克服できたのか、気になるところだ。

「引退宣言」ではなく「休養宣言」だったことを思えば、またゴルフに帰ってくる気持ちは残っていたのだろう。そもそも、プロには引退などなく、出場権さえあればいつでも試合に出ることはできる。マスターズの優勝者は、生涯にわたりマスターズの出場権を与えられるから、自分から「もう出ない」と言わない限りマスターズから引退しなくてもいいわけだ。

試合に出ることができなくても、レッスンや解説など、プロとしてゴルフに関わる仕事を続けることもできる。だから、引退宣言をしたプロもツアーから引退しただけで、プロゴルファーを引退したわけではないのだ。

それにしても、休養宣言をしたころの森田プロは、精神的にかなり追い込まれていたようだ。そのころの心理状態をご本人は次のように語っている。

「別にゴルフがめっちゃ嫌いになったわけじゃなくて、頭がいっぱいいっぱいで考えられへんことってあるじゃないですか。ゴルフに限らず、人間関係もそうやし。みんなつらいことってあるから、ちょっと休んで、いろいろなことを考えようと思いました」

人間は心に余裕がなくなると、普通でいられなくなってしまうものだ。冷静に考えればわかっているのに、感情的になって悪態をついたり、傲慢になったりしてしまう。「何もしたくない、何も聞きたくない、みんな私を放っておいてよ」という感情で埋め尽くされてしまうのだ。

一種のパニック症候群とも言えるだろうが、当時の森田プロはそのような状態だったのかもしれない。だから、とにかく一旦ゴルフから離れて、自分と向き合う時間が必要だった。それが休養という言葉になったのだと思う。決して、ゴルフが嫌いになったわけではなかったのだ。

ゴルフを一切せず、ボーと過ごす日々が続いたそうだが、本来ゴルフを好きな人が、いつまでもそうしていられるほどゴルフの魅力は小さなものではない。1年もすると、段々とゴルフコースの緑色が恋しくなってきた。そんなときに、初めてステップアップツアーの解説の仕事がきたそうだ。

解説のためにコースチェックをしたり、懐かしいプロ仲間や若手のプロとも触れ合ったりすることで、自分はゴルフが好きなことを思い出したのだという。そして、「ゴルフは好き。というか、私にはそれしかない」と心から思えたようだ。

休養前はかなり心を病んでいた彼女だが、表題の言葉通り「人は変えられへんけど、自分は変えられる」という思いを強く持ったのもこのころだったらしい。

「自分自身を変える」には?

心がいっぱいいっぱいだったときには、人に何かしてもらっても、顔を見ることも目を合わせることもなく、何も言うこともない塩対応だった。それが、コンビニの店員さんに商品を渡してもらったときに、ちゃんと顔を見て笑顔を返し、「ありがとう」と言えるようになったそうだ。

確かに「自分自身を変えることはできる」と言われるが、本当に変えることができる人は少ないものだ。むしろ、変えられない人の方が多いのではないか。森田プロが自分を変えることができたのは、どんな意思を持つことができたためだろうか。

「自分を変えるには、反復練習しかない。毎日が訓練。昔は100人いたら100人に好かれなあかんと思っていたから、すごく苦しかった。今は100人いて、まあ30人ぐらいでいいかなって」
「つらいことがあったとしても、それを無理に乗り越えようと思わなくていい。悲しかったら悲しんだらいい。時間は解決してくれないけど、やっぱり進むしかない。一日一日、一生懸命生きること。その積み重ねで気持ちはかなり変わっていく。とにかく感謝、ありがとうっていう気持ちを持ってたら、乗り越えられるって私は思うんです」

どうやら、心に余裕ができ自分が変わることで、周囲も変わるということを森田プロは知ったようだ。そして、自分の居場所がどこなのかも、長い歳月をかけ、やっと見つけることができたのだろう。

森田プロの言う「とにかく感謝、ありがとうっていう気持ちを持ってたら、乗り越えられる」という考え方は、レジェンド・アマチュア・ゴルファーの中部銀次郎さんも言う効果的なメンタルマネジメントに通じる。

例えば、400ヤード、パー4のティーショットでチョロを打ち100ヤードしか飛ばなかったようなとき、「あ~、やっちまった。長いミドルで100ヤードしか飛ばないなんて、もうダメだぁ」と落胆するのが、一般ゴルファーの常だろう。

しかし、銀次郎さんは「400ヤードが300ヤードまで縮まったのだからありがたい」と感謝することで、チョロを打ったミスを後のプレーまで引きずらないように、心の平穏を維持したのだ。気持ちが落ち着いていれば、2打目で200ヤード進め、3打目の100ヤードをウェッジでワンピンに乗せ、パットが入ってパーセーブなんて僥倖に恵まれることもあるのがゴルフなのだ。感謝することがメンタルの動揺をコントロールするのに、とても効果的だと理解していただけるだろうか。

森田プロは、アプローチ・イップスで休養に追い込まれたが、「アプローチは、まだ心臓がバクバクしています」と明かしているので、今もまだ完治はしていないらしい。しかし、「感謝することで乗り越えられる」ことを会得した彼女なら、きっと克服し再び活躍できるだろうと期待している。

ましてや我らは草ゴルファー。少々のミスで自分がふがいないと怒るなどしないで、少しでもボールが前に進んだのならば「ありがたい」と感謝することだ。それがゴルフを落ち着かせ、ミスの連鎖につながらずに済むと学ぶべきではないだろうか。

 

参考資料:
・「「私は変われた」休養から5年、消えた元賞金女王・森田理香子が明かす今の心境」Yahoo!ニュース オリジナル 特集、2023年7月18日

・「6年ぶり“現役復帰”の意義 森田理香子の活躍に期待感| ダイキンオーキッド | JLPGAツアー」DAZN、2024年3月5日

・「森田理香子は復帰戦36位 バーディ締めに「100点満点」」GDOニュース、2024年3月3日

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岡上貞夫

1954年生まれ。千葉県在住。ゴルフエスプリ愛好家。フリーライター。鎌ヶ谷カントリークラブ会員。1977年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。大学入学時は学生運動による封鎖でキャンパスに入れず、時間を持て余して体育会ゴルフ部に入部。ゴルフの持つかすかな狂気にハマる。卒業後はサラリーマンになり、ほとんど練習できない月イチゴルファーだったが、レッスン書ではなくゴルフ名言集やゴルフの歴史、エスプリを書いたエッセイなどを好んで読んだことにより、40年以上シングルハンディを維持している。著書に『ゴルフは名言でうまくなる』『90を切るゴルフの名言33』(ともに幻冬舎新書)がある。

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