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堤未果のショック・ドクトリン

2024.01.29 公開 ツイート

【緊急寄稿】能登半島地震・裏金・芸能スキャンダル…大ニュースの裏で仕掛けられる「ショック・ドクトリン」に騙されるな! 堤未果

2024年元日の能登半島を襲った大地震と津波。その「衝撃」の裏で、地方自治法の改正による権力の一極集中が進み、改憲と「緊急事態条項」創設の議論が再び盛り上がっている。

テロや大災害など、恐怖で国民が思考停止している最中に、為政者や巨大資本がどさくさ紛れに過激な政策を推し進める……。その悪魔の手法を「ショック・ドクトリン」といい、日本でも3.11やコロナ禍の裏で、知らず知らず国民の情報や資産が奪われようとしてきた。

いま日本で何が起ころうとしているのか。10万部突破のベストセラー『堤未果のショック・ドクトリン』も話題の国際ジャーナリスト・堤未果さんに緊急寄稿していただいた。

*   *   *

社会を作り変える魔法の杖「緊急事態」

「津波がきます! 今すぐ逃げてください!」

2024年元日。自宅で足下に強い揺れを感じ、テレビをつけると女性アナウンサーが強い口調で叫んでいました。

「東日本大震災を思い出してください!」

体感できる地震が毎年2000回起きるここ日本で、少しくらいの揺れには動じない私たち日本人を、揺さぶり目覚めさせる本気のアナウンスは、記憶の蓋を開け、時計の針を巻き戻し、ある言葉を思い出させました。

テロや自然災害、戦争に芸能人のスキャンダルなど、ショックな事件で国民が思考停止したその隙に、普段なら反対されるような政策を一気に導入し、社会を作り変え、政府とお友達企業が利益を手にする手法、「ショック・ドクトリン」です。

名付け親である、カナダ人ジャーナリストのナオミ・クラインは、9.11のアメリカや、イギリス、ロシア、中国、アジア、中東、南米など、世界各地で利用されてきたことを時系列で検証した著書を刊行。去年6月にNHK Eテレが「100分de名著」でこれを取り上げた際は、番組のみならず、指南役だった筆者の元にも、多くの反響が寄せられました。

東日本大震災の際、被災地を外資優遇の復興特区にし、漁業権の証券化やアグリビジネス推進など、新自由主義政策が一気に進められたことを覚えている人は少なくありません。ある視聴者の80歳になるお母様は、あの番組を見て、「郵便局が民営化したことの意味が、ようやくわかった」とおっしゃったそうです。

とても効果的なため、今も世界中で実施されている手法、ショック・ドクトリン。

番組放映の2ヶ月後には、米ハワイ州マウイ島で大規模火災が発生、約9平方キロメートルが焼失しました。あのとき私はアメリカにいたのですが、空港から現地の不動産関係者に連絡を取ると、営業マンから被災者たちに土地売却のオファーが殺到していることがわかりました。地域住民の反対でリゾート開発が難航していたからです。さすがに知事が自粛を呼びかけるレベルでした。おまけに被災地が「スーパーシティ構想地区」だったため、保険会社が保険金の支払いを拒否、避難した1万2000人の被災者は自宅再建もできず、今もまだ半数以上が帰れずにいるのです。

のちに、現地のコミュニティ支援機構の職員の一人は、吐き捨てるように私に言いました。「あきらかな災害ショック・ドクトリンだ。住民より企業側に有利なルール変更がされているうえに、政府にも危機感が感じられない」。火災の当日、別荘にいたバイデン大統領が現地入りしたのは、12日後だったのです。

古今東西、歴史を見れば、企業だけでなく多くの為政者にとっても、「緊急事態」は魔法の杖のような存在であることに気づくでしょう。危機の中、国民感情をうまくすくい取れれば下がった支持率はV字回復し、横並びになったニュースがスキャンダルをかき消してくれる。そして何よりも、邪魔な勢力を黙らせて、政府の権限を拡大できる、絶好の機会になるのです。

2024年、相次ぐ「ショック」の裏で進む法改正

元日以降、能登半島地震に飛行機事故、そして松本人志氏のスキャンダルと、息つく暇もなく続くショックのその裏で、政府が粛々と進めていた、ある法案をご存じですか?

1月17日。通常国会に提出する予定の「地方自治法改正案」が公表されました。

感染症や災害などの緊急時、閣議決定を経ることで国は自治体に指示を出せるようになり、自治体はそれに従わなければならない。さらに国は自治体へ、非常時の対応方針を検討するための資料を要求することができる、というものです。

政府の言い分はこうでした。

「国の統制力を強めれば、行政の混乱が防げますから」

いやいや、本当にそうでしょうか?

そもそも地方自治法の「関与の法定主義」(第245条の2)は、「法律又はこれに基づく政令」がなければ国は自治体に関与できないと規定しています。

今の政治の大問題の一つは、こんな大事なことを、国民への説明も与野党での議論もなく、閣議決定だけで変えてしまえること。

権力を中央に集中させ、憲法第92条が守る地方自治の柱を根底から揺るがし、日本という国のあり方を変えてしまう。そんな改悪が、能登半島の地震を大義名分に、いつの間にか通されようとしていることを、私たち主権者は見逃してはなりません。

真の目的は悲願の「緊急事態条項」の創設

でも地震はしょっちゅう起こるし、今回は政府の初動が遅かったという指摘もあるし……緊急事態にはやむをえない、そんな意見もあるでしょう。

たしかに国連の報告書などによると、日本は地震の規模、発生率ともに世界4位の災害大国ですから。

いいえ、騙されないでください。

緊急事態についての内容は、現行の「災害対策基本法」第105条にちゃんと入っています。能登半島地震を理由に、今このタイミングでわざわざ緊急事態条項をねじ込む必要はありません。それよりも今月召集される通常国会で設置することを提案している、憲法改正条文案起草機関で創設予定の「緊急事態条項」。総理の悲願であるこちらをまず地方から入れて地ならしするためです、と言われた方が、よほど真実味があるでしょう。

もう一つ、今回の地震の際に出回ったような偽情報へ早急な対策が必要だとして、総務省は1月19日に有識者を集めた対策会議を開催。作業部会を新設し、25日には初会合と、こちらはスピーディに動いています。9.11のアメリカを見るとわかるように、緊急時を理由とする情報規制は一度設定した判断基準が恒久化されてしまいますから、今の設計段階でしっかり注視しておかなければなりません。

「偽情報の拡散は、普遍的価値に対する脅威」という松野官房長官(当時)の言葉に、国民の多くが大きくうなずいています。帳簿は見たことがない、裏金はありません、会計責任者が勝手にやった、などの偽情報がまさに今この国を脅かしているからです。

偽の収支報告書を出す人々の定義する「偽」とは、どんなブラックジョークでしょう?

為政者たちは半世紀以上もの間、世界のあちこちでショック・ドクトリンを利用し続けてきました。けれど、仕掛けられる側もやられっぱなしではありません。そこには一定の法則があり、それを知ることで阻止してきた例も決して少なくないのです。こんなときこそ立ち止まり、バラバラの点を線でつないでみてください。政治のドタバタ劇やワイドショーの後ろでひっそりと進むものと、その先の真の思惑が、きっと見えてくるはずです。

*   *   *

「ショック・ドクトリン」のさらにくわしい内容は、『堤未果のショック・ドクトリン』をぜひお読みください。

関連書籍

堤未果『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』

「ショック・ドクトリン」とはテロや大災害など、恐怖で国民が思考停止している最中に為政者や巨大資本が、どさくさ紛れに過激な政策を推し進める悪魔の手法のことである。日本でも大地震やコロナ禍という惨事の裏で、知らない間に個人情報や資産が奪われようとしている。パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口、マイナンバーカード普及の先にある政府の思惑など……。強欲資本主義の巧妙な正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る方法とは? 滅びゆく日本の実態を看破する覚悟の一冊。

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堤未果のショック・ドクトリン

テロや大災害など国民が恐怖で思考停止しているどさくさくに紛れ、為政者や巨大資本が過激な政策を押しとおす悪魔の手法がショック・ドクトリン。日本でもコロナ禍や震災などの惨事の裏で、知らない間に国民の情報や資産が奪われようとしている――。

パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口やマイナンバーの裏にある政府の思惑など。強欲資本主義の正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る方法とは?

滅びゆく日本の実態を看破する一冊より、読みどころを抜粋してお届けします。

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堤未果 国際ジャーナリスト

国際ジャーナリスト。東京生まれ。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、米国野村證券などを経て現職。米国と日本を中心に政治、経済、医療、教育、農政、エネルギー、公共政策など、公文書と現場取材に基づく幅広い調査報道と各種メディアでの発信を続ける。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞、『ルポ 貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞を受賞。著書に『政府は必ず嘘をつく』『日本が売られる』『デジタル・ファシズム』『ルポ 食が壊れる』などがある。海外でも著作翻訳多数。WEB番組「月刊アンダーワールド」キャスター。

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