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トンガ人ラガーマンの夫と里帰り

2023.11.01 公開 ツイート

「洗濯は棒でつつく」“HITACHI”も“スシ”も“モチ”もあるのに日本の常識が通用しないトンガ王国 マフィあずさ

早朝。

「アズサ」

どこからか優しく名前を呼ばれて目が覚めた。ニワトリの次は誰だ。声の主はお義母さんだった。窓の外から困った顔をしてこちらを見ている。
「どうしたん?」と窓に近付いてみると私に洗濯用ジェルボールを見せつけて

 

「これどうやって中身出すん?」
と聞いてきた。そうか、お義母さんは粉の洗剤しか使った事がない。ごめんごめん、それそのまま使えるねんと言いながら説明しようと外へ出た。すると

私の想像とは違う洗濯をしていた。
これはトンガ人がこの令和の時代になっても今だにやる、棒でドゥクシとつつく洗濯方法だ。これをするならジェルボールを破いてあげないといけない。お義母さんはとりあえず入れてみてひたすらつついていたらしいが一向に破けなくて困っていた。別にさ、全然これはこれでさ、破けばいい話なんやけどさ。私はお義母さんに1つ聞きたい事がある。

去年の母の日に洗濯機買わへんかったっけ?(その時の記事はコチラ
それ使わへんのかな? まだ棒でつついちゃうの、なぁぜなぁぜ? と聞くと
「あぁ私、洗濯機嫌いやねん」

嫌いなんかーい

どうやら棒でドゥクシが1番綺麗に洗えるらしい。日立より、ドゥクシである。私はそんな正直なお義母さんが大好きだ。

トンガという国は本当に面白い。トンガの人の国民性は知れば知るほど味が出てくる。気がする。笑える面白さももちろんあるのだが、興味深い面白さもある。今回はその色んな意味で面白かった出来事を振り返ろうと思う。

 

まずは冒頭の、早朝に起こされる事件。
この様にトンガの人は寝ている人を起こす事に全く抵抗がない。ここでもお義母さんは私の事を容赦なく起こしているのが分かる。そして起こされる側も特に何も思っていない。だから争いが起こらないのだ。
「誰々が寝てるから静かにしようね」「起こしたら可哀想だね」という文化がない。誰が寝てようとクソデカボイスで笑うし爆音で音楽を聴く。子供達もその環境でスヤスヤ寝ているのが面白い。

トンガの食べ物事情

この旅の間は外食に出かけた回数が結構多かった。私達が来れなかったこの4年でレストランやカフェが増えていたからである。その中でも特に印象に残っていたのがビュッフェ方式のレストランだ。

『カテアリゾート』というレストラン

こういうビュッフェレストランは大体どこもメニューが決まっている。芋類(タロ芋、紫芋、さつまいも)、豚の丸焼き、春雨の炒め物、お刺身のココナッツクリーム和え、ムール貝、ポテトサラダ、などなど。

そして日本と違うのが、店員さんが料理を私達のお皿に盛ってくれるのだ。なんかビュッフェ感ないやん。そう思った私は「なんでこれ店員さんが入れてくれんの?」と聞いてみた。するとお義母さんが

「んなもん、トンガ人達が自分で料理取ったらみんなにちゃんとご飯行き渡らへんで」

と笑っていた。日本のレストランのように無くなったら次があるという訳ではないらしいのだ。その日に来る予約人数を考えてその分だけを作っているらしい。
いや、ビュッフェ感。(笑)

実際並んでいると隣に並んでいたナッティープロフェッサーのようなマダムが豚の丸焼きを指差し「もっと! もっとそこの皮のパリパリのとこ入れてぇな!」と大声でまくし立てていた。
でもパリパリはみんなの大好物だ。マダムが沢山取ってしまうと後ろに並んでいるワガママボディ達の分が無くなってしまう。店員さんは学生の男の子。怯えていた。「マイケラヒ!」(もっとちょうだい)と言うマダムの圧に負けてあげてしまっていた。それを横で見ていた私。

もらいにくい。私もパリパリが好きだ。日本からパリパリを食べに来たと言っても過言ではない。店員の男の子も私が日本から来たと分かってくれているのかわざわざ美味しい部分をくれようとしていた。それを見て遠慮のかたまりが出てしまった私「大丈夫です!」と断ってしまった。

くっそぉ。なんで遠慮したんや私。食べたかった。すこし寂しい気持ちでテーブルに戻った。すると隣に座っていた夫が

「あちゃん、コレタベル?」と自分のパリパリをくれた。
パリパリーーーーーーー!!!!(泣)ありがとう。愛してる。

と、こんな風にトンガの人達はシェアをするという文化がある。みんなと分ける、沢山ある人が分け与える、悲しそうな人にパリパリをあげる、それが当たり前なのだ。私が大好きなトンガの文化の1つである。

 

食べ物事情は他にもある。
私はトンガに来ると食べれる物が限られてしまう事が多かった。主食のイモ類はあまり好きではないし、トンガの人達が大好きなコンビーフも、ラム肉もあまり好きではない。伝統的なルゥという葉っぱも喉がピリピリ痺れてしまう体質で食べられない。しかし、今回そんな私を救ってくれた食べ物が結構あった。
その中のひとつがこれ。

トンガで初めてお目にかかったおにぎりである。パン屋さんのレジ横にぽつんと置いてあったのを見つけて「何コレ!」と思わず聞いた私。

店員さん「スシやで」

スシなん(笑)
と笑ってしまったが、立派にスシと命名されて売られていた。見たら分かる、美味しいやつや。

早速買ってすぐ車の中で頬張ると、上に乗っているのはにんにくと醤油で煮てあるチキンで味付けもちょうど良く、すごく美味しかった。

後日そのスシを求めてお店に行ったのだが、人気なのか売り切れており、肩を落としていると何やら美味しそうな四角いケーキが。
「これ何?」と聞くと

「モチ」と言う。

モチなん(笑)
日本人の私に向かって自信満々にスシやモチを紹介する店員が愛おしい。買って食べてみると、カスタード味のバター餅のような。こちらもとても美味しい。子ども達も大喜び。そこから毎日と言っていいほどこのスシ&モチ目当てにこのパン屋さんに通った私達であった。

その他に子ども達がトンガで気に入っていた食べ物といえば、お菓子である。しかしトンガにあるお菓子というのは日本ではなかなかお見かけしない毒々しい色のものばかりであった。舌が真っ青になるような飴であったり、口の周りまで真っ赤になるようなジュースだったり……。
例えばコチラ。ある日突然次女がこの顔面で私の目の前に現れたのである。

誰か殺めたんか?

突如こんな顔で現れるもんやからびっくりして「何食べたん!?」と聞くと「ネナ(トンガ語でおばあちゃん)がくれたフルーツ」と言うので、お義母さんに聞くと

「庭にあるスモモをジュースの粉に漬けたんやで」と。

いらん事すな(笑)
漬けんでええねん、お義母さん。そのままでええねん。スモモをラズベリー味にすな。一応繰り返すが、私はお義母さんが大好きである。
だが、謎にこの殺人スモモが美味しかったらしく、子ども達は全て平らげていた。しかし手の赤いやつは石鹸で取れず。2、3日落ちなかった。恐怖。

トンガの車事情

日本の一般常識の頭のままトンガに来ると、まぁびっくりする事だらけである。

まず、子ども達がチャイルドシートに乗っている所を見た事がない。頭がガチガチジャパニーズの私は「チャイルドシートは!?」でしか、ない。でも、ない。座れない子どもは抱っこで、あとは無法地帯なのである。昨今はさすがにシートベルトをしましょう! や、チャイルドシートを! の注意喚起の声がラジオから聞こえてきてはいたのだが。これも「郷に入っては郷に従え」なのであろうか。ちなみに信号もない。トンガという国には信号が1つもない。(大事な事なので2回言いました)譲り合いの世界である。

そしてトンガにある車は大体が日本車である。しかし中古も中古。これで持ち主何人目ですか? くらいの年季が入った日本車ばかりである。街を走るバスは日本で昔使われていた旅館のバスや幼稚園バスが走っていることが多い。

どこぞの会社の車もある。

あと、思わず笑ってしまったのが

絶対知らんやろ、水曜どうでしょう。
めっちゃおもろいやん。でもこれが逆に「いいだろ? 俺、日本の車乗ってるんだぜ?」みたいな感じになるらしい。

それから、トンガでは荷台に人を乗せちゃったりするのが普通。これは、夫の母校前でヒッチハイクをしていた後輩達を乗せてあげている写真。夫も子どもの頃こうやってヒッチハイクをして通学していたのだ。

こうして前の車の荷台に人が乗っている事もある。ずっとこっち向きなのが気まずい。

ひと闘い終えたヴィンディーゼルでも乗ってそうな、窓が完全にワイスピな車も走っている。

運転していると、普通に豚が道を横切る。ゆっくり渡り終えるのを待つのがこんなにも平和で癒されるなんて、東京にいると知る由もない。

「待つ」で思い出したが......

待つで思い出したが、トンガの人達は「待つ」と言う事を苦に思っていない人が多い。日本に染まってしまっている夫はもう待てない側の人間になってしまったが、物事を効率よく動かせる事や、時短という概念があまり無い気がする。夫の家族だけか?(笑)

食事ひとつするにも畑への食材の調達、買い物に時間がとてもかかる。途中で誰かに会っちゃったり、違う用事ができたりして永遠に終わらない。「さっきあそこのスーパー行った時にそれ買えば良かったやん!」みたいな事が多発する。行き先なんて運転しながら決めようよ、みたいな感じで毎日がぶらり途中下車の旅だ。

そしてやっと調理する行程に行きついても、ゴールにはほど遠い。まず、小さい切れない包丁を使い、お皿を裏返した底の面でちまちまニンジンを切っていたりする。そう、楽しそうにお喋りしながら。外では男子チームが今からお酒を買いに行こうか、なんて話している。さっき買っとけ。おったやろ、街に。

分からない。その全て、私には分からない(笑)

でもこれがトンガなのだ。

ここで「いやさっき買っとけよ」と思う人間は私だけなのだ。誰も気にしてない。もっと早く、効率よくなんて誰も求めていない。私がきっと日本からぶんぶんチョッパーを持って来ても誰も使わない。

誕生日パーティーがなかなか始まらないのも
教会へ行く準備がみんな揃わなくても
急に全員集まってお祈りが始まるのも
それが、トンガなのだ。

この環境で今までのびのび育った夫は今や日本人である私と結婚し、トンガとは真逆の空気が流れている日本で沢山のルールに縛られて生きている。

夜中の2時に車も走ってない人っこ1人いない近所の横断歩道をちゃんと青になるまで待つ私を見て「WHY ジャパニーズピーポー!?」となっていた夫。
外で携帯からスピーカーで音楽を鳴らしながら歩き、私にうるさいから止めなさいと叱られる夫。
「今日ランチ行こうよ」と言うためだけに朝寝してる私を起こしてくる夫。
全てトンガでは誰も怒らないんだよね……。

ちょっとは優しくしてやるか。

次回! いよいよトンガ旅行記最終回。ラグビー選手として頑張るトンガ人の背景やその家族について書くと思います。(もしかしたら違う事を書いてるかもしれないので話半分で聞いておいてください)

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トンガ人ラガーマンの夫と里帰り

パートナーはラグビー選手のアマナキ・レレイ・マフィ。
3人の子どもを引き連れて、夫の故郷、トンガ王国へ。ドタバタ里帰り旅行記!

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マフィあずさ

京都府出身34歳。パートナーのアマナキレレイ・マフィはトンガ出身のラグビー選手。横浜キヤノンイーグルス所属。

趣味で始めたブログラジオで子育てや日常の鬱憤を晴らし、日々奮闘中。

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