
パーオン率を上げる2つの方法
ハーバート・ニュートン・ウェザレッドは、全英オープン決勝で球聖ボビー・ジョーンズと戦ったロジャー・ウェザレッド、世界的な試合で38戦して2位の2戦以外はすべて優勝し、ジョーンズをして「私よりも格段に優れた選手」といわしめた天才女性ゴルファー、ジョイス・ウェザレッドの二人を育てた父親だ。
どのようにして二人の子どもを優秀なゴルファーに育てたのかをまとめた著書The Perfect Golfer(1931)は、1mのパットから始めて、マスターしたら次はロングパット、次はチップショット→ショートアイアン→ミドルアイアン→ロングアイアン→フェアウェイウッドと進み、ドライバーの練習は最後という、当時の常識を覆す育成法の解説書だった。
ショートゲームでの感性を大事にして育てられた二人のドライバーは正確このうえなく、まさに「ラフにボールを入れず、バンカーにボールを落とさない」ゲーム運びだったようだ。それが、ロジャーとジョイスのすばらしい戦績に貢献したことは間違いがない。
現在、私が取り組んでいる重点事項は「パーオン率を上げること」だと前回の記事でも書いた。そのためにはスピンがかかるフェアウェイからグリーンを狙うことが重要で、その前提条件として、ドライバーのフェアウェイキープ率を上げることにも同時進行で取り組まなければならない。
つまり、「ラフにボールを入れず、バンカーにボールを落とさない」ドライバーショットを目指しているわけだ。無論、池やOB、林にも入れないのは当然で、できる限りフェアウェイに運ぶことを優先させようと心がけている。
パーオン率を上げるには、他の方法もある。全盛期のタイガー・ウッズ、ブライソン・デシャンボー、ダスティン・ジョンソン、ジェイソン・デイらのツアープロがやっているのは、ラフでもいいからと圧倒的な飛距離でドライバーショットをグリーン近くまで運び、短いアイアンで打てるようにしてグリーンをヒットするのだ。
しかし、これは生まれながらにして大きな飛距離を出せる才能を持ったゴルファーにしかできない。「飛距離とパッティングは生まれつき持ち合わせた能力のひとつ。努力して限界まで到達することはできても、そこから先に行かれない」(ラリー・ラオレッティ)という名言もあるぐらいだ。
無理してドローボールを打つのは逆効果
それなのに、私もそうだったが、多くのゴルファーはなんとかドライバーの飛距離を伸ばそうとばかりしてしまうのだ。プロになろうと若いうちから厳しいトレーニングを積んでいれば、300ヤードドライブも可能になるかもしれない。それでも個人差があって、ジム・フューリクや故・杉原輝雄プロのように飛ばないプロも存在する。
ましてや、一般ゴルファーがときどきジムに通って鍛えるぐらいでは到底かなわない話だ。それでも飛距離を伸ばそうとしてしまうのは、ゴルファー特有のいわば病なのかもしれない。
私も例外ではなく、ドライバーショットは長年にわたり中弾道のドローボールを打とうとしてきた。目論見どおりにその球筋が出れば、ランもよく出て飛距離を稼げるからだ。しかし、最近の460cc大型ヘッドのドライバーは直進性が強く、意図的にフック回転をかけてドローさせるのが難しい。
そのため、ドローボールを打つにはかなり極端にインサイドアウトの軌道でこすり上げるように振り、インパクトでアームターンを強く入れなければならないのだ。かなり無理をしたスウィングだと言える。
そうすると、うまく打てれば大きな飛距離が得られるが、タイミングが少しズレただけでプッシュアウトやチーピンなどのミスも出やすく、安定してフェアウェイをとらえることができない。
フェアウェイキープ率を上げるには、無理してドローボールを打とうとすることは逆効果しか生まないと、私は70歳近くになってようやく悟った。そして、ドライバーの直進性能が高いのなら、それに従って逆らわず、ストレートなボールを打てば安定するのではないかと考えるようになった。
具体的には、少しクローズ気味にしていたスタンスをスクエアに変え、あまり強くインサイドアウトの軌道を意識せず、インパクト付近はヘッドをストレートに振り抜くようにした。イメージとしては、ボールに真縦の回転を与えるようなインパクトだ。
すると最初のうちは、フェースを飛球線と直角にインパクトしているつもりでも、少し開き気味に当たってしまっていたようで、スライスが多く出るようになった。実際に出る球筋を見ながら、グリップを少しストロングにしたり、ボールの位置を変えてみたりしながら調整した。
やがて、球筋が安定してきてストレートなボールが多く出るようになり、時折曲がりの小さいフェードボールになることはあっても、左へ曲がることはほとんどなくなってきた。
また、以前は飛ばしたい意識からインパクトで左ひざが伸び、跳ね上がるような動きをしていたが、フィニッシュまで左ひざを伸ばし切らず、曲げたままガマンするようにした。こうすることで、左サイドが早く開いてしまうことを防ぎ、いつも同じ軌道で振れるようになった気がしている。
ティーショットでの意識をこのように変えてから、フェアウェイキープ率は10%ほど上がった。Par3を除く14ホールで平均7~8ホールだったものが10ホール近辺にまで上がってきたのだ。
フェアウェイキープ率を上げると飛距離も伸びる?
もちろん、フェアウェイキープ率を100%にすることが理想だが、実戦では狙った通りに打てた場合でも少しラフに入ることはあるものだ。ホールのレイアウトによっては、フェアウェイキープしても木が邪魔になるケースや、グリーンを狙うアングルを考えたとき、フェアウェイのかなり端を狙うこともあるからだ。
14ホール中10ホールでフェアウェイをキープできたら、まずまず合格だ。Par5ではグリーンを狙うのは3打目だから、ティーショットがラフでも2打目でフェアウェイにリカバリーできれば、あまり問題はない。
フェアウェイキープ率を上げてみて気づいたことがある。それは少し落ちるだろうと思っていた飛距離が、平均飛距離ではむしろ飛んでいるということだ。これまで無理にドローボールを打とうとして、ラフやバンカーに入れていたホールはかなり飛距離をロスしていたのだ。
飛ばし屋さんは、高さのあるキャリーボールで飛ばしているからラフへ行っても飛んでいるし、バンカーも越えてしまうのだろうが、私のような平均的な飛距離のゴルファーは、ラフやバンカーへ入れるとランが極端に少なくなって飛距離のロスが大きいのだ。
これを証明するようなシーンが、今年の日本女子プロ選手権で見られた。優勝争いは最終組の小祝さくらプロ、ルーキーの神谷そらプロ、西郷真央プロによって展開された。
ルーキーの神谷プロが先行してバーディを奪い、トップでスタートした小祝プロに追いついて15番終了時点で3打差をつけ優位に立ったが、小祝プロが16番・17番で2打縮め、最終18番のティーではわずかに1打差という接戦になった。
オナーの小祝プロはナイスショットでフェアウェイキープ、神谷プロは左のラフ、西郷プロは右のバンカーというティーショットだった。若くてしなやかなスウィングの神谷プロは女子のなかでも飛ばし屋で、2023年の平均飛距離ランキング1位だ。対する小祝プロは13位、西郷プロは一時期ドライバーイップスだったせいかランキング外のようだが、2022年は小祝プロとほぼ同じぐらいの平均飛距離だった。
ところが、この18番Par4で一番飛んでいたのはフェアウェイキープした小祝プロ。ラフへ打った神谷プロの30ヤードも先を行っていたのである。バンカーへ入れた西郷プロとは50ヤードもの差があったように見えた。これにより、セカンドショットのクラブは、西郷プロはユーティリティ、神谷プロは8番アイアン、小祝プロはウェッジという違いになった。
ラフから打った神谷プロのボールは最高のショットでピンに絡んだが、やはりスピンがかからず奥のカラーまで転がっていった。追いかける小祝プロはピンデッドに攻めるしかなかったが、これもわずかな距離感の違いで少しオーバーしてしまった。
結果としては3人ともパーで、ルーキーの神谷プロがうれしいメジャータイトルを手にした。18番ホールでの3人のショットを見るに、ドライバーでフェアウェイキープをすることが、飛距離も出て、いかにグリーンを攻めやすくするかを再認識させてくれた。
「正確さを優先するとドライバーの飛距離が落ちてしまう」と思い込んでいた方は、平均飛距離で考えると、実は逆に飛ばせるという事実を大いに認識できたのではないだろうか。ゴルフとは、やはりラフにボールを入れず、バンカーにボールを落とさないゲームなのである。
参考資料:
・夏坂健『王者のゴルフ 知的シングルのすすめ』幻冬舎文庫、1999年
・「国内女子 平均飛距離ランキング 2023年度」ゴルフダイジェスト・オンライン
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