現在、放映中のNHK大河ドラマ『どうする家康』の時代考証者で、新刊『徳川家康と武田勝頼』の著者でもある、歴史学者の平山優さん。ふだんから膨大な量の資料を読み込んでいる平山さんは、「手書きでノートをとる」ことを大切な習慣にしているそうです。インプットがはかどり、アウトプットの精度とスピードが高まる「ノート術」を、特別に教えていただきました。
* * *
「時代考証」とはどんな仕事か?
── 平山さんは『どうする家康』で時代考証を担当していますが、どんなお仕事なのでしょうか。
脚本家の方に資料やデータを提供して、執筆をバックアップすること。そして、上がってきた草稿をチェックして、意見や修正を加えること。この2つがおもな仕事になります。
できるだけ史実に近づけたいところですが、『どうする家康』はあくまでフィクションです。どこまでだったら脚色が許されるのか、史実と創作のせめぎ合いに決着をつけるのが、この仕事の大変なところです。
ドラマの見せ場をつくりたいという、脚本家や制作スタッフの気持ちはよくわかります。できるだけその意図を汲んであげたいという思いもあります。けれども、さすがにこのままではマズいという場面もあります。そんなときは、私から別の案を提案することもあります。
そうやって意見のすり合わせをして、脚本が形になっていくわけです。大変な作業ですが、やりがいもありますね。
── 膨大な数の資料を扱っていると思うのですが、どう整理されているのですか?
お恥ずかしい話、整理は苦手なのですが、蔵書はおそらく学校の図書館を超える数にのぼると思います。
一冊の本を書くときは、資料の収集にたいてい数百万円単位のお金をかけます。そうして集めた本を、デスクの背後にある本棚にぜんぶ入れて、さらに家中に散らばっている蔵書の中から必要な本を抜き出し、それもぜんぶ本棚に入れます。
これだけあれば本が書けるという状態になってから、初めて執筆に入ります。そして、本を書き上げたら本棚の入れ替えをします。「ああ、ひと仕事終わったな」と、ホッとする瞬間ですね。この一連の作業が、自分なりの整理術といえるでしょうか。
── 執筆の際は、どんなことを心がけていますか?
ノートをとることを大切にしています。ノートといっても箇条書きのメモみたいなもので、「この本にはこういうことが書いてある」ということを、パッと見て認識できるようにしておくんです。
そうしておくと、「この場面ではこの本を参照すればいい」とすぐにわかります。また、手書きでノートをとっているとそれなりに頭に入るので、執筆が進みやすくなるというメリットもあります。
昔は大きめの大学ノートを使っていたのですが、どうもうまくいかないので、今はポケットサイズのノートを使っています。このノートと資料を手もとに置いて、執筆を進めていくのが私のやり方です。
書くことで自分の考えを整理できる
── やはり、手書きのほうがインプットしやすいんですね。
そうですね。書くことで自分の考えを整理できるし、頭にも定着すると思うんです。「急がば回れ」といいますよね。こうした地道な作業が、執筆の能力、精度、スピード、あらゆるものを保証すると考えています。
さらに、時間がたってからノートを見返すことで、新たな発見があったり、新たな執筆動機につながったりもします。実際、私は大河ドラマ『真田丸』の時代考証も担当していたのですが、当時のノートを見返して新しい論文を書いた経験があります。
ちなみに、私の理想のノートは、ウラジーミル・レーニンの『哲学ノート』や『帝国主義論ノート』です。もちろん、あんなに頭のいい人のマネはできませんが、彼のノートのとり方は見習いたいなとつねづね思っています。
── 一方で、平山さんは現地にも足しげく通われていますよね。
極端な話をすると、現地に行かなくたって、本も論文も書けるんです。でも、実際に現地を見て、考えて、そのうえで資料を読むと、リアリティと理解度がまったく違ってくるんです。
ですから、自分の執筆にかかわる場所にはすべて足を運んでいますし、そうすることで他の人とは違ったものが書けると考えています。おそらく戦国時代の研究者の中で、私がいちばん現地を歩いているのではないでしょうか。そのこだわりは忘れたくないなと思っています。
── 最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
『徳川家康と武田勝頼』は、家康をもっとも苦しめた武田勝頼との戦いのてんまつを、わかりやすく書いた本です。引用資料も現代語訳するなど、他の本よりもかなり易しく書いたつもりです。本書を読んでいただければ、家康と勝頼の「9年戦争」の全貌がきっと理解できると思います。
同時に、「宿敵を滅ぼしたことで家康が得たもの、学んだことは何だったのか?」ということも見えてくると思います。家康がつくった江戸幕府は、じつは信玄と勝頼が残した遺産によって成り立っている部分が相当大きいんです。
「家康にとって武田とは何だったのか?」を考えながら読んでいただけると、本書もドラマもより楽しくなると思います。ぜひ、お手にとってみてください。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】平山優と語る「『徳川家康と武田勝頼』から学ぶ徳川vs武田の歴史と時代考証という仕事」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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